ジャカの復活-あるいはアーセナルのジャカの誤った起用法

分析Tim Stillman,海外記事

いつの世もサッカーファンは選手の復活のストーリーを好むものだ。

今もエマニュエル・エブエやペリー・グルーブズのことを覚えているアーセナルファンは多いだろうし、より世代が上の方なら、ジョン・サメルズを思い出す方もいるかもしれない。

彼らに加えてジョン・イェンセンなど、アーセナルでファンから辛辣な評価を受けつつも復活を果たした選手は何人もいるが、その一番下の底と復活後の評価の高さの落差で言えば、グラニト・ジャカはアーセナル史上最も劇的なカムバックを果たした選手と言ってもいいかもしれない。

2019年10月にジャカをホームの観衆がブーイングしながら見送った際に、まさかいずれファンが『グラニト・ジャカ、残留してくれ』というチャントが響く日が来るとは全く考えられなかった。この日の前から、何故かアーセナルファンの間ではジャカは批判されても仕方がない、というような空気が漂っていた。

だが、アルテタがアーセナルの新監督に就任したその瞬間からジャカの復活は始まった。

21/22シーズンからジャカの役割は変わり始め、パーティが中盤の底に降りて、ジャカとウーデゴールが2人の8番といった形でプレイし始めた。これは、シティがデブライネとギュンドアンを起用して行うシステムと似ている。

ウーデゴールがデブライネのように『ボールを持つ8番』としてプレイする一方で、ジャカはギュンドアンと同じく『オフザボールの8番』を任されることとなった。

ジャカのパフォーマンスは特に今季ジェズスが前線をより流動的に活性化させ、ジンチェンコが中盤に変革を起こしたことで左サイドの攻撃がより機能し始めたことで注目を集めることとなった。

左ウイングのマルティネッリはキャリアハイのシーズンを送ったが、これは彼自身のパフォーマンスだけでなく、アーセナルの攻撃全体が改善されたことと無関係ではないだろう。

これはジャカも同様で、彼は今季9ゴールを挙げており、これは彼のこれまでのシーズンベストの4を倍以上上回る数字だ。

トーマス・パーティ獲得前はジャカは中盤の底でボール配給を担当することが多く、新加入のパーティにポジションが奪われるのではないか、と話すファンもいたが、この予想は外れた。

実際の所、これまでずっとジャカがプレイしてきたポジションは彼の身体能力面での特徴に合っていたとは言えない。確かに彼はCBからボールを受けて、それを繋げるのは上手いが、彼のフィジカル面での強みはより持続的なスピード・スタミナや耐久力であり、瞬発力ではないため、フィルター役として守備をこなすのはあまり向いていない。

彼はスプリンターではなくマラソンランナーであり、その意味で今季のジャカの役割は彼のプロフィールによく合っていた。今の左の8番の位置の方が、細かなスペースをカバーするというよりもよりダイナミックに走る彼のアスリートしての特性にフィットしていた。

それがよく現れていたのがシーズン終盤のセントジェームズパークでの前線から駆け戻ってブロックを見せた場面で、狭い位置で細かい対応を任せるよりも、このようなプレイがジャカに向いているのは間違いない。

ジャカの獲得当初、アーセン・ベンゲルはジャカはアンカーなのか、それともボックストゥボックス型のMFなのか少し迷っていた節があるが、それもようやく理解できた。

恐らくだが、今季のジャカの躍進が特にサプライズだったというわけではないのだ。むしろ、より正確に言えば、アーセナルがこれまでずっとジャカの起用法を間違えていただけであり、今季のジャカの起用法こそが彼の身体能力に最も合った使い方だったのだ。

ポジションをより前に移してからジャカは一度も退場になっていないし、そもそもジャカが試合のテンポとリズムを作るような選手である、というのが誤解であり、むしろ彼は中盤を司る将軍というよりも最高の副指揮官なのだ。

良い国会議員が良い首相になれるとは限らないのと同じように、副指揮官もまた、リーダーではあるものの、どちらかというとチーム全体の意思決定を行うのではなく、むしろ使われる側として自身が模範となって示す必要がある。それはサッカーでも同じだ。

ジャカの復活はエモーショナルなストーリーや、彼の劇的な変化というよりも、監督が本当の意味で彼に適した役割を見つけ出すことで完成したものだったのだ。

そして、ピッチ上での仕事が整理され、プレイがスムーズになったことで、ジャカがもたらす精神面でのメリットなどもファンはより評価できるようになった。彼はファンよりも監督よりチームメイトからの評価が高いとよく言われてはいたが、確かに彼は困った時には常に助けてくれ、パブの裏の駐車場で物事が不穏な雲行きとなった時は真っ先に立ち上がってくれる長男のようなオーラがあり、クラブにとってそれは非常に重要な事なのだ。

恐らくジャカのアーセナルでの最後の試合となったであろう一戦でファンが彼への感謝を表明できる機会があったことは非常に喜ばしい。

もしどこか他クラブがジャカへの4年契約提示しているのであれば、そちらの方がアーセナル残留よりも魅力的に映るのは理解できるし、同時に、アーセナルは同条件のオファーを提示すべきではないというのもわかる。

結果的には今季はジャカの退団のタイミングとしては悪く無いものだし、彼の復活のストーリはーここで終わりを迎えるのだろう。

source(当該サイトの許可を得て翻訳しています)

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Posted by gern3137