アーセナル新加入選手レポート: クリストス・ツォリス

分析Phil Costa,海外記事

明快な方向性がなくタレントを生かし切れない低迷期を経て、ギリシャサッカー界はいま復興の時を迎えている。ようやく、将来を楽しみにできる若手選手たちも現れ始めた。しかも今回は、彼らが皆CBだというわけでもない。

ギリシャが輩出するタレントは、伝統的に守備陣に偏りがちだった。大柄で、無骨で、屈強。失点を防ぐためなら、体も顔も、あらゆるものの前に投げ出すような選手たちだ。

しかし、時代は変わりつつある。

18歳のコンスタンティノス・カレツァスが台頭し、ベルギーで旋風を巻き起こした才能豊かなサイドでプレイするプレーメーカーの彼には、ドルトムントも関心を示している。19歳のクリストス・ムザキティスとハラランボス・コストゥラスは、ともにオリンピアコスで印象的な活躍を見せ、後者はブライトンに引き抜かれた。ブライトンは昨年1月にも、FCニュルンベルクから20歳のセンターフォワード、ステファノス・ツィマスを獲得している。もしあなたがこの段落を一度も噛まずに読むことができたのであれば、5ポンドを進呈したい。

そして、このギリシャの新世代の選手たちのうち、最高のタレントと長らく見なされてきたのが、クリストス・ツォリスだ。彼は欧州各地で修業を積んだのち、ギリシャ人史上最高額そしてベルギー・プロリーグ史上最高額の移籍金で、アーセナルに加入する。

約5年前、彼がプレミアリーグデビューを果たした試合が、アウェーのアーセナルだったことを考えれば、彼はまさに一周して元の場所へ戻ってきたということになる。当時のミケル・アルテタは、新シーズン開幕から3連敗を喫し、進退を問われていた。

ツォリスがPAOKで頭角を現し、新型コロナウイルスの感染拡大初期に私が注目し始めた頃、彼はトロサールというよりもマルティネッリに遥かに近い選手だった。当時10代だった彼は、縦への推進力に優れた、走力のあるダイレクトなアタッカーだった。彼がボールを持った際に真っ先に考えるのは、縦へ抜けること、あるいは最短距離でゴールへ向かうことのように見えた。

しかし5年後の現在、ツォリスのプレースタイルはむしろトロサールに近くなっている。当時の私が予想していなかった厚みと繊細さがプレイに加わった。そして、彼の天性の得点力も失われていないのは明らかだ。

24歳のツォリスは、昨季22得点29アシストを記録し、キャリアハイのシーズンを過ごした。

ゴールアシスト合計51という数字は、ベルギー国内で他を圧倒した。シーズン2位だったのは彼のチームメイトのニコロ・トレソルディだが、彼の数字は32にとどまる。また、ツォリスはxGとxAの合計でも33.90を記録し、欧州全体でトップに立った。これはハリー・ケイン、アーリング・ハーランド、オリーセ、エムバペをも上回る数値だ。

では、ツォリスはいかにして、これほどの数字を残す選手へと進化したのだろうか。

シンプルに言えば、彼はゴール付近で多くの優れたプレーを行っている。

主に左サイドからプレーする彼の最大の武器は、ボールを少しずらしてから放つシュートだ。内側へ流れながら、ほとんどバックスイングなしでファーの隅へとボールを沈める。

彼のプレイは、必ずしも華やかに映るわけではない。ツォリスはややぎこちなさのある直線的な走り方をするが、その際にボールを足元から離さず、ゴールへ向かってシュートを放つことで、確実に結果を残している。

シュート意欲も高く、昨季は90分平均3.4本のシュートを記録しており、クラブ・ブルッヘの他の全選手だけでなく、アーセナルの全選手を大きく上回った。

ツォリスのプレー集を10秒も見れば、彼が強烈なボールをけることができる選手だとわかる。ボールの真芯をとらえることも、カーブをかけることもでき、シュートを放つために広いスペースや長い時間を必要としない。

彼がより高いレベルでも通用するか、という問いを考える上で、これは重要な要素に感じられる。

入れ替わりでチームを去るトロサールと同じく、ツォリスは逆足でも常ににシュートを狙っている。得意な内側へのコースを塞がれた場合には、縦へ抜けることもできる。これはクロスについても同様だ。

彼は常に相手にとって脅威となる選手だ。90分平均のペナルティーエリア内でのボールタッチ数は、ヴィニシウスやヤマルを上回っている。

ツォリスは、圧倒的なスピードを備えているわけではないが、必要な場面では相手との距離を作ることができ、1対1で相手を突破する事にも自信を持っている。

昨季はドリブル成功数40回、ボールを前に運ぶキャリーを359回を記録し、どちらもベルギー・プロリーグ最多だった。

彼はいつも精力的にインテンシティ高くプレーするが、特にタッチライン際から内側へ入った際、まるで引き寄せられるかのように、非常に自然に中央のエリアへ入っていくのが上手い。彼の最高のプレーは、外側を追い越して上がっていくサイドバックと連携した際に生まれることも多い。

クラブ・ブルッヘでは、マキシム・デ・カイペルとホアキン・セイスがその役割を非常に効果的に遂行した。これはアルテタにとっても、チームの左サイドバックの選択肢を踏まえて考えるべきポイントとなるだろう。

チャンス創出という点では、彼にはトロサールほどのアイディアはなく、狭いスペースでの巧みさも及ばない。しかし、最後のプレーを迷いなく実行するため、見ていて安心感がある。

彼はゴール前への折り返しであれ、高い位置でのボール奪取であれ、トランジションから生まれたチャンスであれ、一度深呼吸して頭を冷静に保ち、正しい選択をする。これは現在のアーセナルの選手たちが、ときに失ってしまう資質でもある。

もちろん、全てのプレーが成功するわけではないが、昨季のツォリスは135回のチャンスを創出し、プロリーグで最多を記録した。気の利いたパスによって守備をこじ開ける能力も、ここ2年間で飛躍的に向上している。

また、アーセナルの新加入選手である以上、ツォリスを語るうえで、セットプレーに触れないわけにはいかない。

昨季のアルテタ率いるアーセナルは、コーナーキックからリーグ最多記録となる19得点を挙げ、さらにFKからも複数のゴールを記録した。デクラン・ライスとブカヨ・サカは、機会があるたびに相手にとって非常に危険なボールをゴール前へ蹴り込んでいた。

Optaによれば、昨季ツォリスが創出した135回のチャンスのうち、52回はセットプレーから生まれたものだった。割合にして38%であり、これはデクラン・ライスの42%に迫る数字だ。どこからか、ガブリエルが駆け上がってくる音が聞こえるようだ。

昨季ツォリスとクラブ・ブルッヘが、ベルギーで立ちはだかるあらゆる相手をなぎ倒したため、数字から彼の欠点を探すのは簡単ではない。

しかし、ヴィクトル・ギェケレシュ獲得時に、彼が得点を挙げた相手について懸念が示されたのと同じように、ツォリスにも、同様の疑問を向けることはできる。

最新のOptaパワーランキングによれば、ベルギー・プロリーグは世界で8番目にレベルの高いリーグと評価されている。7位がイングランドのチャンピオンシップで、9位はアルゼンチンリーグだ。

ベルギーサッカーの水準は近年大きく向上してはいるが、それでもトップリーグの大半のクラブは、イングランドの基準で言えばプレミアリーグというよりチャンピオンシップ級と見なされるだろう。中にはリーグ1(3部)相当のチームさえあるかもしれない。

もっとも、ツォリスはチャンピオンズリーグでも好プレーを見せており、バルセロナ、アトレティコ・マドリー、スポルティングとの試合では良いパフォーマンスを披露した。

昨季の欧州大会では2得点1アシスト、にとどまったが、指標は良好だった。より優れた選手を相手にしても脅威となれることを示している。

今回の移籍で、彼を取り巻く環境が明確にレベルアップすることは間違いないが、彼のベースとなる能力は十分に応用が利きそうに見える。

昨季、苦しみ抜いた末にプレミアリーグ優勝を果たしたとはいえ、アーセナルが攻撃陣を刷新し、今後は異なる側面を見せていく必要があることは、次第に明白になり始めていた。

アーセナルの総得点71というのは、優勝を果たしたチームとしてはプレミアリーグ史上4位の少なさだった。二桁得点に到達したのはギェケレシュだけで、次点のブカヨ・サカとエベレチ・エゼは、それぞれ7得点だった。

チームには圧倒的守備力が備わっているが、アルテタ自身も、最高レベルで継続的に競うためには「少なくとも90~100得点」が必要だと以前語っていた。

トロサールほど影響力のある選手を失うことは痛手だ。しかし、彼の放出タイミングはおそらく適切だった。両者の移籍金を考慮すれば、クラブは実質的に約2000万ユーロでトロサールの後継者を獲得したことになる。

ツォリスは、ブラッドリー・バルコラやフリアン・アルバレスのように、名前を聞いただけで夢を見させてくれる選手ではない。それでも、この選手がアーセナルにとってどのような存在になるのか、私は楽しみにしている。

獲得が失敗に終わる可能性も十分にある。だが、多少の未知の要素を残す新加入選手というのはそれはそれで魅力的だ。また、報道を見る限り、彼は唯一の攻撃陣の補強というわけではなく、他の獲得を補完する一人という立ち位置のようだ。

また、もう一つ考慮すべきなのは、今回の獲得を主導したのが、クラブの新たなスカウト部門責任者であるマウリツィオ・ミケーリだという点だ。

ナポリ時代に彼はクヴァラツヘリア、ハムシク、クリバリといった選手の獲得を推薦しており、その才能を見抜く眼力には期待が持てる。

ツォリスはスーパースターというわけではないノリッジやトゥウェンテでの不本意な時期も経て、デュッセルドルフで評価を高めるまで、少し遠回りをしながらキャリアを歩んできた選手でもある。

しかし、高額な移籍金を費やせば成功が保証されるわけではない。実際には、その逆であることすら多い。

クラブが自分たちのスタイルに合っていると信じた選手に賭けるのであれば、私は歓迎したい。移籍市場がますますクレイジーな様相を呈するなか、昨季欧州サッカーで最も多くのゴール・アシストを記録した選手の一人に支払う3400万ポンドという額は、もはやはした金のようなものだ。

その数字を、彼はプレミアリーグでも再現できるだろうか。おそらく2度目のエミレーツ・スタジアムでのデビューから、ツォリスの挑戦が始まる。

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Posted by gern3137