【戦術分析】アーセナルが見せた柔軟性とタヴァレス&エルネニーがチームにもたらすもの 後編

スタッツ・戦術Lewis Ambrose,海外記事

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ティアニーとタヴァレスの違い

この試合でのアーセナルの4バックの最近のシステムとの大きな違いは、我々が慣れ親しんだものとなった左右の非対称性が見られた点だ。

ヌノ・タヴァレスはティアニーのような安定感はないが、一方でティアニーにはこなせないタスクがこなせる選手でもある。

ティアニーはよりポジショニングを守り、タックルには飛び込んでいかないことが多かったが、タヴァレスはより高い位置でアクティブな守備を見せた。これはティアニーとの大きな違いだ。

確かに、ティアニーの守備の方がチームに落ち着きをもたらすが、タヴァレスのスタイルにもメリットがないわけではない。彼が見せるプレイは、リスクもあるが、よりピッチの高い位置でボールを奪える可能性を上げる。

ボールを持った時のプレイに関して言えば、ティアニーの方がより完成されたパサーだが、タヴァレスには予測不可能性と前への推進力がある。彼は一対一でのドリブル突破が得意だし、ゴール前に走り込むこともある。

そのおかげでマンチェスター・ユナイテッド戦で彼は得点を挙げたし、彼が高いポジショニングを取っていたおかげでアスピリクエタはスミスロウにマークに行くのをためらってしまい、彼の得点が生まれた。

最近のアーセナルの成功の方程式は精密機械のようなバランスに支えられており、ティアニーをタヴァレスに代えた状態でそれを再現するのは不可能だ。

したがって、ベストな方策はむしろ、タヴァレスにティアニーのようなプレイを求めるのではなく、彼の強みをいかすことに集中することだろう。

冨安健洋がセドリックに代わって右サイドバックでプレイできるようになれば、タヴァレスの守備の不安が露呈する場面も少しは減少するはずだ。

再現不可能なトーマス・パーティのプレイとエルネニーの活かし方

そして、同じことは中盤にも言える。サンビ・ロコンガがブライトン戦とセインツ戦でチームにインパクトを与えられなかったことを受けて、直近の二試合ではエルネニーが先発を務めている。

今のアーセナルのチームにはパーティのボール奪取とデュエルの強さ、そしてプレスを回避し前にボールを進める能力を再現できるような選手はいない。

恐らくクラブはロコンガに同じ役割を期待していたのだろうが、どうやらそれは今季は諦めエルネニーの起用にシフト、ボール前進はむしろジャカに任せることにしたようだ。

上の表から分かる通り、エルネニーはボールをもっている際にドリブル突破を仕掛けることは全くない。そして、パス先も安全な所を選択することが非常に多い、結果として、ボールを大きく前進させるようなプログレッシブパス数は少ないが、一方で、今季のアーセナルの選手で誰よりもパス成功率が高い。

だが、より攻撃的な左サイドバックと相手のラインをブレイクするジャカ、という組み合わせの選手が隣に居れば、チームはボールを中央から素早くサイドに展開すべきであり、エルネニーのスタイルも活きる。

そして、エルネニーはボールをほとんど失わないだけではなく、素早く取り返すことも出来る選手だ。彼はルーズボールを回収するのが上手いし、ユナイテッド戦ではエルネニーのプレイがジャカの得点に繋がった。

彼のこのようなプレイは、アーセナルをカウンターの危険から遠ざけるだけではなく、 アーセナルが前線での攻撃に失敗した時に相手にプレッシャーをかけ続ける際にも有用だ。

タヴァレスとスミスロウとカオス

また、タヴァレスの前のポジションにエミール・スミスロウを起用するかマルティネッリを起用するかによっても左サイドの攻撃は大きく変わってくる。

マルティネッリよりもエミール・スミスロウの方がよりボールロストが少なく、かつ他の選手との連携も上手いタイプだ。ビッグゲームではタヴァレスとよりいつでもフルスロットルのマルティネッリの同時起用はハイリスクハイリターンすぎるので現実的ではないかもしれない。

これは、マルティネッリとスミスロウどちらが選手として優れているかという話ではなく、バランスの問題だ。

ティアニーとパーティと同じタイプの選手が控えに居ないのであれば、アーセナルはそれも考慮に置いたうえでチームを機能させる方法を見つけ出さなくてはならない。

最近のアーセナルはその方法を見つけるために、色々とチームをシャッフルし、チェルシー戦ではフォーメーションの変更まで行った。

アーセナルの中盤はパーティが居なければ、ジャカとエルネニーという組み合わせは少し単調になってしまうが、それを埋め合わすためにより予測不可能な左サイドバックを起用している。

そして今度はタヴァレスとのバランスをとるために、中盤により安全な選手と、左ウイングにも安定性のある選手を起用しているというわけだ。

アルテタは、自信の理想を再現しようとするよりも、今手元に備わっている選手に合わせた戦術を構築しているように見える。

これは部分的にはアルテタが2020年に杯優勝を果たした時のやり方でもある。

もちろん、共通点はどちらもアルテタの理想とするような形ではない、というだけで、当時は守備的なサッカー見せており、今のアーセナルの混沌としたスタイルとは全く異なるわけだが。

今季終盤も、1点差で試合が決まる展開が多くなりそうではあるが、恐らく1-0でアーセナルが勝利するよりも3-2で勝利する可能性の方が高いだろう。

問題は、今後アーセナルが、そこまで積極的に攻めてこない相手に対して、この混沌としたアプローチのデメリットをどこまで受けないようにできるか、という点だ。

確かにこれはチェルシー戦ではうまくいったが、マンチェスター・ユナイテッド戦では、もともとそこまで機能していたというわけでもないユナイテッド相手に敗北していてもおかしくなかった。

試合をコントロールすることが出来ないチームにとってはカオスは有用だが、かといってカオスは全くコントロールできないわけではないし、ある程度エリアを限定することも出来る。アーセナルの今季の残り試合の行方は、チームがカオスをどれだけうまく乗りこなせるかにかかってきそうだ。

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Posted by gern3137