さよならオーバメヤン

語ってみたarseblog,海外記事

—2020年8月1日 ウェンブリースタジアム FA杯決勝

1-1の同点で迎えた67分。ヘクター・ベジェリンがチェルシー陣内に侵入する。そのまま相手とぶつかったが、ボールはペペのもとへとこぼれる。ペペはボールをボックス内のピエール=エメリク・オーバメヤンへと届ける。

アーセナルのキャプテンはズマとの1対1となり、彼はオーバメヤンの右足でのシュートを防ごうと左側に重心を傾ける。即座にオーバメヤンは左足にボールを持ち変えると、華麗にズマをかわして見せる。

『オー、ズー・・』とこの2人に最も近い位置にいたチェルシーの選手であるジョルジーニョがため息の様なうめき声を漏らす。まずい状況だという予感がある。GKのカバジェロはオーバメヤンがどうするつもりなのか判断がつかず、出ていくべきなのか留まるべきなのかわからない。

そしてオーバメヤンはまるで美しくデリケートなゴルフのショットの様にボールをふわりと放つ。ボールはカバジェロの肩を越える。スコアは2-1、アーセナル。

Embed from Getty Images

自信に溢れ、自分の得点を心の底から信じているトップレベルのストライカーこそが見せられるシュートだった。これはこの試合での二試合目の得点で、アーセナルをFA杯優勝へと導く決勝点になった。

オーバメヤンとアーセナルのチームメイトは勝利を祝った。世界中のアーセナルファンもこれを祝っていたが、ほんの何人かのラッキーなジャーナリスト以外はこの日スタジアムでチームがトロフィーを掲げる所を見守ることは出来なかった。

未だにこの年のFA杯優勝は、多くのアーセナルファンにとって少々抽象的なものに感じられているはずだ。

もちろん、ファンにとって非常に嬉しいものではあったが、何かが欠けていると感じられた。ロックダウンのせいでスタジアムにファンは入れず、カップ戦の優勝という出来事から、根本的に重要な何かが抜け落ちて感じられた。

普段からスタジアムを訪れず、画面越しに試合を見守るファンにとっても、スタジアムの雄たけび、試合終了と共に上がる歓声は、試合の風景に色を加えてくれるものだ。

オーバメヤンのこの日の2ゴール、そして準決勝でマンチェスター・シティ相手に挙げた2ゴールは、オーバメヤンがほぼ独力でチームをトロフィーに導いた、と言えるくらいのものだった。

もちろんこれはチーム全体のパフォーマンスで、チームメイトが居なければ彼は得点を上げられなかったわけだが、それでも、試合の違いを生み出したのはオーバメヤンのクオリティだった。

FA杯の決勝点はこのシーズンオーバメヤンの29得点目で、彼の残り契約は1年となっており、アーセナルがどのような選択を下すのかに注目が集まっていた。

私は歴史修正主義者になるつもりはない。当時私は彼の契約延長に賛成だった。彼は得点を決め続けることが出来る選手だったし、コロナのパンデミックが始まってからそこまで時間が経っておらず、これがクラブに与える金銭面での影響はまだわからず、全てが不透明だった。無観客試合が続いていたし、これがどこまで続くかもわからず、このような状況でアーセナルがもしオーバメヤンを放出したとしたら、移籍市場で代わりのストライカーを獲得できるのか、誰もわからなかった。

移籍市場の行く末もわからない中、トップレベルのストライカーを手元に留められるチャンスがあるのであれば、彼と契約延長を行うのは賢明な判断に思われた。

もちろんこの先起きることがわかっていれば、違う結論になったかもしれないが、それはあくまで結果論だ。

個人的には、この後のオーバメヤンのパフォーマンスの低下と契約延長を直接的に結び付けるのは短絡的過ぎると思う。この少し前にもアーセナルで同じようなケースがあったとはいえだ。

オーバメヤンを見ていて、彼はやる気がなく、チームのことを気にかけていないのだろう、と感じさせられることは決してなかった。

もちろん、彼の得点が大きく減ったのは事実だが。

これには多くの理由がある。サイドでの起用は助けにならなかったし、マラリアの影響もあった。彼がエネルギー不足の帰還があったのは見て取れた。

彼の母が病にかかり、アーセナルがチーム離脱の許可を与えた時期もあった。コロナ感染もあった。もちろん、単純に能力が衰え始めていたということもあっただろう。

だがそれでも、今季も規律違反まではオーバメヤンはプレミアリーグの先発ストライカーだった。この件について再び語るつもりはないが、この件まではアルテタが毎週のように彼を先発起用していたことを考えると、アルテタも軽々しくメンバー外を決断したわけではないだろう。この2人の間で、深刻な何かが起きたのに違いない。

昨夏の時点では、ラカゼットを契約満了までクラブに留め、翌夏ストライカーを獲得、そして一年間は新戦力とオーバメヤンを同時起用するというプランだったはずだ。

Embed from Getty Images

今回の件は、アーセナルのプランにとって大きな障害となってしまった。これがあったからこそ、一月に新戦力を迎え入れられなかったのは失敗に感じられてしまう。

関係の修復が不可能だったのは明らかだが、残りの17試合でオーバメヤンを起用できれば、今のスカッド状況よりははるかに心強かっただろう。

もちろん、エジルの様に、起用しないのにクラブが給与を支払い続け、試合があるたびにエジルの不在がのしかかる、といった状況と比べれば、放出したほうがましなのは間違いない。

確かに彼の給与はかなり高く、その分浮いた予算はあるだろうが、そのメリットも夏までは意味がないし、札束は5月末までの間に残された試合で得点を決めてはくれない。

この件が、このような形で終わることになってしまったのは非常に残念だ。

そして、オーバメヤンがどれほどエキサイティングで、チームに貢献してくれた選手かは忘れ去られるべきではない。

彼はアーセナルのでの163試合で91ゴール21アシストを挙げている。

過去にも何度か言っているが、アーセナルの最初の過ちはそもそもラカゼットに50m£を支払った夏にオーバメヤンを獲得しなかったことだ。もちろん、これもあくまで結果論だが。

現地では見られなかったとはいえ、2020年のFA杯優勝は素晴らしかった。恐らく、この優勝におけるオーバメヤンの貢献は、この年がコロナの影響を受けていない普段通りの年であれば、より強くファンの記憶に残っていただろう。

私は個人的にもオーバメヤンは好きな選手だった。他の選手と同じく、欠点も抱えた選手ではあったが、ヨーロッパでもベストな得点力の持ち主で、ピッチ内外で様々な問題を抱えており、かつてのアーセナルの面影は全くなかった近年のアーセナルに移籍してきて以降もそれは同じだった。

ありがとう、オーバ。そして彼へのリスペクトを込めて、今季の残りでアーセナルが『オーバメヤンがいてくれれば・・・!』と思わずに済むことを願っている。

source(当該サイトの許可を得て翻訳しています):

関連記事(広告含む)

Posted by gern3137