ドライに見るユースアカデミーの現実とアーセナルの賢い若手戦略

分析Tim Stillman,海外記事

アーセナルはプレミアリーグでは絶不調に陥っている一方で、ヨーロッパリーグでは持ち場を任されたユースチーム卒の若手たちがウィーン、ダンドーク、モルデといったチームを相手に躍動している。

もちろん、アーセナルのプレミアリーグでの対戦相手とヨーロッパリーグで戦うチームにはクオリティの差があるのは事実だが、それでもシニアチームのあまりにひどい成績のおかげで、もっと若手主体のチームを起用するのはどうか、という声も高まっている。

恐らく、若手を育成すべきだということだけではなく、ふがいないプレイを見せる選手はメンバー外になるべきだ、という感情も背景にはあるだろう。

例えば、エンケティアはヨーロッパリーグで得点を重ねており、全コンペティションで見れば現在アーセナルの得点王だ。

そして、ジョー・ウィロックは中盤と前線の間を取り持つ、という今のファーストチームにはいないタイプの選手として存在感を放っている。

ただし、彼はその能力を買われてリーズ戦とウルブズ戦で先発を果たしたが、両方共の試合であまり大きなインパクトを残せなかったことは留意する必要がある。

“もういっそのこと若手主体のチームを起用してしまえばいい"という意見の問題点は、今のアーセナルは若手を放り込むには最悪の状況であるということだ。

本来若手というのはチームのアクセントとなるべきであって、かれらに頼らざるを得ないようなチームを作るべきではない。

彼らには指導が必要だし、どんなに才能のある若手も、調子の波があることが多い。

15年ほど前にアーセナルは"プロジェクト・ユース"と銘打ち、世界中の才能のある若手を集めたチーム作りを目指した。だが、確かに当時アーセナルにはポテンシャルのある若手がそろっていたが、そのうち本当に花開いたといえるのは誰がいるだろうか?

ファン・ペルシーとファブレガス?クリシーも含めてもいいだろうか?そこまで多くの選手がいるわけではない。

カルロス・ヴェラはアメリカ大陸最高のタレントと目されていたが、結局ポテンシャルは実現できなかった。デニウソンはユースレベルではブラジルのキャプテンを務めたが、結局A代表に召集されることはなかった。

アレックス・ソングは例外的なタレントの持ち主ということで英国ビザの取得に成功したが、彼は今スイスを経てジブチでぷれいしている。

これが現実なのだ。

多くの若手はトップレベルで花開くことはないのだ。(もちろん、今のアーセナルをトップレベルといっていいのかどうかは少々疑問の余地があるが)

現在のアーセナルのユース卒の有望株、そして現在ユースに在籍中の選手たちも、その多くが3-5年後にアーセナルのトップチームにいることはないだろう。

したがって、彼らが颯爽とトップチームに台頭し、アーセナルの今季を救ってくれることを期待するのは非現実的かつ少々アンフェアだ。

しかも、そのような重荷を彼らに背負わせるのは、彼ら自身の成長にとってプラスとなることだとも思えない。

もちろん、チームの主な材料としてではなく、スパイスとして若手を用いるのであれば話は別だ。例えば、今ウィリアンが与えられている出場機会をリース・ネルソンに与えてもチームが劇的に改善される、ということはないだろう。もちろん、かといってウィリアンに固執しても特に変化もないだろうが。

残酷なほど正直に言ってしまえば、彼らに今のアーセナルを全く変えてしまえるほどのクオリティは備わっていないのだ。

ファンである我々は、アカデミーの選手たちに期待を投影してしまうし、そしてそれらは概して非常に楽観的なものだ。

私たちは常に彼らはずっと成長を続け、スターになると思い描く。だが、実際のところ、心のどこかでは彼らの才能の天井も薄々感づいているのではないだろうか。

トップチームで30試合以上に既に出場しているが、彼らの将来性に関して確信が持てない、という選手がいるなら、大体の場合、それは長期的な将来はチームにはない、ということだろう。

もちろん、我々は彼らの将来的なキャリアの道筋に関して非常に好意的に見る傾向にあるが、基本的には良い選手というのは台頭も早いものだ。

それは、マルティネッリとサカの二人を見ても明らかだろう。もちろん、怪我やその他の問題から伸び悩む選手もおり、早く頭角を現したからといってよいキャリアが約束されているというわけではないが。

もちろんだからといってエンケティアやウィロック、ネルソンといった選手たちを批判したいわけではない。正直に言って、3-5年後に彼らがアーセナルのチームにいるとは思わないが、別にそれは何の問題でもないのだ。

アーセナルのユース卒の若手の用い方は、非常に理にかなっているという見方が出来る。

アーセナルはヨーロッパリーグで全勝し、カラバオ杯でもファーストチームのカギとなる選手たちを駆り出す必要はなかった。

エンケティアが好調だったのでオーバメヤンは休めたし、ウィロックはヨーロッパリーグで3ゴール3アシストの活躍を記録した。

これが賢い若手の使い方というものだ。

シニア選手を救う役割を任せるのではなく、彼らの負担を軽減するのだ。今のエンケティアと同じような役割を果たさせるために、アーセナルは2016年にルーカス・ペレスに16mポンドを支払った。メイトランド=ナイルズより序列が下のリヒトシュタイナーの獲得は全く持ってナンセンスだった。

約2年半前に、今のアーセナルのユース選手たちは黄金世代というわけではないが、シルバー世代だという記事を私は書いた。

スマートだが資金が豊富ではないクラブはベンチ要員に移籍金を費やすのではなく、アカデミーを用いるのだ。

アカデミー卒の選手全員がファブレガスやルーニー、エムバペになる必要はない。カップ戦をメインに彼らを起用し、いくつかのポジションでバックアップを務めさせるだけで十分どころか、それがトップレベルのクラブにとっては賢明な策ですらあるのだ。

もしローテーション要員のレベルにも達さない選手がいれば、その場合は売却して資金ねん出し、新たな若手に投資すればよい。

この最も良い例がアーセナルにおけるアレックス・イウォビで、もしCOVID-19により移籍市場が大きく打撃を受けていなければ、ナイルズも同じように夏にクラブを去っていたかもしれない。

恐らく数年のうちに、ジョー・ウィロックのような選手に関してもアーセナルは契約延長可売却かの選択を迫られることになるだろう。

このやり方は、コスト面でのメリットがあるだけではなく、健全なローテーション要員の補充の仕方でもある。サッカー選手というのは定期的な出場機会を求めるもので、彼らはずっとベンチに座っていたくはない。

ローテーション要員としてチームにとどまるのは数年が限界で、それを過ぎれば彼らは移籍を希望するだろう。その際に、若手のほうが遥かに売却が簡単だ。

もし来年アーセナルにとってセドリックが不要であるという結論が出たとしても、2024年までクラブを去ることはないだろうが、同じ結論が仮にナイルズに対して出されたとしたら、彼の引き取り手には苦労することはないに違いない。

この夏エディー・エンケティアの契約は残り一年となるので、アーセナルは決断を下さなくてはならない。個人的にはクラブは彼を売却しようとするのではないかと思う。

プレミアリーグでの出場も多い彼にはそれなりの移籍金がつくだろうし、もしバロガンと契約延長できれば、向こう1,2年は今のエンケティアのようなカップ戦での役割を彼が果たせるだろうし、その過程で彼がトップチームのストライカーを任せられる選手かの判断もできるだろう。

このような形で、最終的にはアズィースやバロガン(契約延長すれば、の話だが)らがユースアカデミーの先輩たちをアーセナルから追い出していくはずだ。

アーセナルは金銭的な必要性から、結果としてこのようなユースアカデミー戦略をとることになった。単純に、ベンチに置いておく選手に移籍金を費やす余裕はなかったからだ。

ヘイルエンド・ボーイズがアーセナルの今季を救ってくれることはないだろう。だが、彼らは今季すでにその役割を果たした。

カップ戦で活躍し、かつその過程で自身の市場価値を高めることに成功した。おそらくこのうちの1人2人はプレミアリーグでもメンバー入りするだろうが、アーセナルの今のユースアカデミーの活用方法は、今数少ないうまくいっていることの一つだ。

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Posted by gern3137