カイ・ハヴァーツ: 高いユーティリティ性と本職不明の狭間で
数週間前にエドゥとアルテタが組み上げたスカッドのユーティリティ性に関しての記事を書いた。この記事での私の意見は、これによりスカッドの層の厚みが増すのも良いことだが、より重要なポイントは、アルテタが特定の選手たちに依存することなく問題解決を行えるという、ものだった。
ジョルジーニョを活用することでジンチェンコとパーティはチームにとって絶対的な存在ではなくなった。また、ライスの本職が6番なのか8番なのか、それは大きな問題ではないのか、というのをファンは考え続けており、CBとして獲得されたホワイトは偶然も手伝って今や欧州最高の右サイドバックの一人になっている。
トロサールは今のフォーメーションであれば複数のポジションでプレイ出来、冨安は最終ラインのどこでもプレイ可能だ。サカもキャリアを通して左ウイングバックから右ウイングへとポジションを移している。
適応力とユーティリティ性はアルテタが選手について非常に重要視するポイントで、この点ではカイ・ハヴァーツ獲得は理にかなったものだったと言えるだろう。彼は様々な戦術手に適応でき、かつ複数のポジションでプレイできるからだ。
ただし、獲得当初はアルテタは流石に移籍金を払いすぎなのではないか、という見方も強かった(そして、これは全く根拠がないものというわけでもなかった)
ハヴァーツはチェルシーでは『ユーティリティ性』と『本職が不明』の間でさまよってしまい、思うようなプレイが見せられていなかった。
自分がどのような選手なのか自信がない様子はアーセナル移籍直後のプレイでも見て取れた。
彼は左8番とストライカーのポジションを行ったり来たりしていたが、そのどちらも自分のものにすることができないように見えた。
彼は共通の友人のパーティに呼ばれたもののどうふるまっていいかわからなず、ビールのグラスを傾けながら時々人の輪の一番外で見知らぬ人のストーリーに笑っているふりをする内気な青年のようだった。
しかし、最近のハヴァーツは本職不明と適応力の高さの天秤を再び正しい方向に傾けることに成功している。
ジェズスの不在により、ワントップとして起用されることが増え、この起用法が大きな一歩となった。単に周りの人々の話の輪に加わっただけでなく、なんと自らスポットライトのもとに立ち、パーティの参加者たちが彼のもとに集まるようになったのだ。
シンプルな戦術の話をすれば、ハヴァーツのワントップ起用により、アーセナルはジョルジーニョをアンカー、その前の中盤でよりボックストゥボックスタイプのMFとしてライスを起用できるようになった。
ライスの攻撃力をこれで活かすことができるし、ジョルジーニョを中盤に起用すれば、ジンチェンコ不在の影響を押さえられる。逆にここでプレイするキヴィオルがより伝統的な左サイドバックのようなプレイを見せることで、守備の安定感を高めてくれる。
また、トロサールがゼロトップ、その後ろにハヴァーツという形も成功をおさめ、このフィジカル面で存在感のあるハヴァーツと、その周りをより細かく動き回るトロサールという組み合わせはバーンリー戦で良く機能した。
また、ハヴァーツの流動的なポジショニングはデクラン・ライスとも相性が良い。ハヴァーツはトップのポジションを空けてボール回しに絡みに行くことも多いが、その際にはその空いたスペースにライスが走りこむことができる。
もちろんその最たる例がブレントフォード戦のゴールだが、ニューカッスル戦でのサカのゴールもそれをよく表していた。
ここでハヴァーツは前線から下がってボールをコントロールし、サカにボールを供給しているが、この時のライスの走り込みに注目してほしい。
ポルト戦のトロサールのゴールのシーンでもライスは同じような位置にいたし、またハヴァーツはよりストライカーらしいポジションで相手を引き付けることもできる。シェフィールド・ユナイテッド相手のウーデゴールの得点はライスがボールを受けた際にハヴァーツがニアポスト側に相手を引き連れて走りこんだことで生まれたものだった。
そして、このように流動的なポジションをとれる選手がそろっていることで、アルテタは試合中に微妙な変更を施すこともできる。ブレントフォード戦とポルト戦はタフな試合展開となったが、アルテタはジェズスをセンターフォワードとして投入し、ハヴァーツを一列後ろに下げた。
だがその位置から少々皮肉なことに、ハヴァーツはホワイトのクロスに合わせる非常にセンターフォワードらしいゴールを挙げた。
上のFourFourTwoによる動画はアーセナルがいかにシェフィールド・ユナイテッド戦、リバプール戦、ニューカッスル戦で微妙に異なる攻撃のアプローチを採用しているかを解説している。
簡単に言うと、アーセナルは前線に5人の選手を配置する形は共通しているが、サポートの構造や確度が微妙に異なっていた。
しかし、どの形でもハヴァーツは左のハーフスペースにポジションどっている。彼は常にセンターフォワードの位置にいるわけではないが、フィジカル・技術面でチームのフォーカルポイントとなっているのだ。
実際の所、彼が攻撃時に走りこむスペースは開始位置が8番であろうと9番であろうと大きな違いはない。単に、ストライカーとしてプレイしている場合は非ボール保持時に少し高い位置にいる、というだけだ。
ハヴァーツが今季を通じて見せているプレイが高い位置でのボール奪取で、これはシーズン序盤の不調だった時期から変わっていない。ハヴァーツがこれを行わないことはなく、これをベースにより攻撃への貢献を最近は高め、チームにとって欠かせない存在となった。
シンプルな高さだけをとってもハヴァーツはチームにとってファイナルサードで非常に重要だ。彼がアーセナルにやってくる前の攻撃陣はジェズス、エンケティア、マルティネッリ、サカ、トロサールと、上の戸棚に手を伸ばすには台が必要な選手たちばかりだった。
だが、より興味深いのはハヴァーツがストライカーとしては全く典型的でない部分と、非常に昔ながらのストライカーらしい部分両方を兼ね備えているという点だ。
得点を挙げ、より自信をつけるにつれて、ハヴァーツは非常に頻繁に相手の最終ラインとの駆け引きをして裏に走るようなプレイを見せるようになっている。
上の動画で指摘されている通り、ハヴァーツはニューカッスルとブレントフォード相手の試合両方で枠外シュートを外しているが、これはハヴァーツがより自信をもってシュートを狙えており、ゴールの隅を狙えていることの裏返しでもある。
実際に、以前はハヴァーツのシュートは優しく相手GKの正面に飛んでしまうような軌道も多かったが、最近は得点が増えている。
アーセナルが攻撃時に前に並べる5人の選手の中で、ハヴァーツは特により高い位置にいる、というわけではないが、アーセナルがより前にボールを進めるにつれて、相手のCBを相手にしてチームメイトのためにスペースを作り出すような位置へと移る。
最初は他の4人のアタッカーと平行な位置にいたハヴァーツがボールがペナルティエリア付近、あるいはサイドでコーナーフラッグのあたりにまで侵入した際には、まさしくストライカーのようなプレイを見せ始めるのだ。
ニューカッスル戦のゴールがそのお手本のような形だ。もちろんポルトやブレントフォードはこれに良く対応していたので、この形が全ての試合で機能するとは限らない。
ガブリエル・ジェズスがストライカーとして先発し、ハヴァーツが8番でプレイする試合も今季多くあるだろう(だが、ハヴァーツをメンバーから外しベンチに置く、という選択肢の可能性はかなり低くなっているように思う)。
新加入の選手をチームに溶け込ませる作業というのは、時として、自力で家やキッチンのリノベーションするようなものだ。最初の短期間は壊滅的に感じられるが、いざ作業が終われば、そのありがたみが感じられ始める。
進化を遂げたカイ・ハヴァーツのおかげでアーセナルは今や対戦相手に様々な方策を用いて臨むことができる(訳注: 原文はthrow the kitchen sink – 出来ることをすべて試す、の意で、上のキッチンの文とかかっている)ようになったのだ。
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