『アルテタらしい選手像』を体現するレアンドロ・トロサール
アーセン・ベンゲル時代のアーセナルの中期ごろには、アーセナルファンだけではなく、より幅広くサッカー界全体で『アーセン・ベンゲルらしい選手』という選手像のイメージが共有されていた。
大体の場合彼らはそこまで身長の高くないトップ下タイプの高い技術を持ったプレイメイカーだが、既にアーセナルには何人も同じタイプの選手が在籍しているため、サイドで起用される、というのが定番のパターンだった。
14-15シーズンの序盤、そのベンゲルはカソルラ、エジル、ウィルシャー、ラムジー(この中では彼は一番タイプが異なる選手ではあったが)を同時起用することが出来ず、かつ2014年の夏にはセスク・ファブレガスを再獲得するチャンスを見送った。
結果的にエジルが左サイドに押し出されることもあり、これはファンと解説者の間で物議をかもした。
2007/08シーズンにはアーセン・ベンゲルはマシュー・フラミニの力を借りて、ロシツキー、フレブ、ファブレガスという溢れんばかりの中盤の創造力のあるタレントをよりバランスの取れた形で起用することが出来た。
ロシツキー、カソルラ、ナスリやアルシャビンといった選手たちはこれらの時期のアーセン・ベンゲルのアーセナルを象徴するような存在で、一方もともと8番タイプで攻守両面に活躍できる、といった特徴を持ったデニウソンやアルテタのような選手は逆に中盤の底を預けられることとなった。
それが機能した時もそうでない時もあったが、アーセン・ベンゲルのやり方には一種の哲学と共通項があった。
さて、話を現在に移して、アルテタがアーセナルの監督に就任してから3年が経ったが、ついに我々は『アルテタらしい選手』がどのような存在であるかを知りつつあるように思われる。
アルテタが監督に就任して以降獲得された選手を見ていくと、ベン・ホワイトはCBだが右サイドバックで今はプレイし、中盤でのプレイ経験もある。冨安は両利きで最終ラインのどこでもプレイできる(興味深いことに、代表とは異なり彼はまだアーセナルではCBではプレイしていないが)。
ファビオ・ビエイラはキャリアを通してその神出鬼没さが評価されてきた選手で、右ウイングや右の8番、左の8番、そしてゼロトップといった様々なポジションでプレイしている。ジンチェンコは一応は左サイドバックということになっているが、彼はパートタイムでしかこのポジションには表れない。
ジェズスはストライカーだがピッチのあらゆる場所に現れ、その全ての場所でのプレイほぼ全て(決定力を除く)がワールドクラスだ。
アルテタの戦術の重要な哲学は、選手のポジションよりも、彼らがどのエリアでプレイするのかが重要であるという点だろう。
特に攻撃時に対戦相手の予測を難しくするためには、ポジショナルプレーにおいては、同じエリアでプレイする選手が頻繁に移り変わることが重要となる。
マルティネッリはストライカーとポジションを行うし、ジャカとジンチェンコも場所を入れ替え、ウーデゴールとサカも壁パスとフリックを駆使して流動的なポジションを取る。
ベン・ホワイトはオーバーラップでサイドを駆け上がることもあれば、中央に入って待つこともある。ジンチェンコは以前のファンタジスタ型のプレイメイカーが与えられていたような、ピッチを自由に動き回る自由を与えられている。
後ろに待つ5人の守備陣が構造を乱さないのと、前線の5人の選手の流動性は対照的だ。
冬の移籍市場を前にした今季前半、スミスロウの怪我を受けてアーセナルが新たな前線の選手の獲得を望んだが、ウクライナのワンダーキッドムドリクに失敗した次に白羽の矢がったのがブライトンのトロサールだった。
トロサールはまさに『アルテタらしい選手』だと言えるだろう。彼はタイトなスペースでの技術が高く、両利きで、ポジション面でのユーティリティ性もある。
トロサールの獲得はある意味で、リバプールのジョタ獲得に少し似ている。リバプールは既に安定したフロントラインを擁していたが、ジョタは既にプレミアリーグ経験があり、前線のどこでもプレイでき、既に在籍している選手たちへのサポートも提供できる選手だった。
トロサールも非常に似た役割をアーセナルで果たしている。ここまでの所、彼は中央で活躍することが多いが、サイドでも(あるいは、必要があればどのポジションでも)同じような活躍を見せられるだろう。
なぜなら彼のプレイに関係するのはプレイエリアであり、起用されるポジションはあまり関係ないからだ。
エディーが怪我をする前に既にトロサールはセンターフォワードして起用され始めており、アーセナルの攻撃をより予測が難しいものにするという効果をもたらした。
これは必ずしもトロサールが素晴らしいストライカーの素質があるから起こったというよりも、彼が直感的にアーセナルの前線に必要な流動性を理解し、それを提供することができたからのものだ。
もっともその恩恵を受けているのがマルティネッリで、エンケティアとともにプレイするとしばしば孤立気味で予測が簡単になってしまっていたマルティネッリがトロサールが前線に起用され始めてから得点を再び量産している。
例えばフラム戦でのヘディングやエヴァートン戦での近い距離からのゴールは彼が左のタッチラインに貼りついていては生まれなかっただろうマルティネッリはゴールエリア内で得点力を発揮するのも非常に特異な選手だ。
起用ポジションに関係なく、トロサールのメインのプレイエイらは左のハーフスペースで、彼のプレイが左サイドの活性化に一役買った。恐らく他のポジションで起用されても同じようなプレイが見せられるのではないだろうか。
トロサールのこのような順応性の高さはまさに『アルテタらしい選手』の像だと言えるだろう。前線のどこに呼ばれても水漏れを直し、流動的に攻撃が流れるよう手を尽くし続ける。このように柔軟な選手がアーセナルのスカッドに繊細なバランスをもたらしてくれる。
もちろん、このようなプレイスタイルの中で迷子になってしまう選手もおり、メイトランド=ナイルズがその例だが、今エミール・スミスロウは自分の起用ポジションはどこになるのだろうと思案し、もしかすると将来的に似たようなケースになってしまう可能性もある。
『どこでもプレイできる』と『どこでもプレイできない』の境界線は非常に微妙なものだ。
もしアーセナルが明日チャンピオンズリーグ決勝をプレイすることになり、かつスカッドの全員がフィットしていたら、恐らくトロサールは先発には選ばれないだろう。だが、ベンチの有用なオプションとなることは間違いないし、もし前線4人のうち一人でも起用が難しいようであれば、その代わりにトロサールに白羽の矢が立つ可能性は高いはずだ。
そういった意味でも、まさにトロサールは『アルテタらしい選手像』を体現している選手と言えるのではないだろうか。
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