アーセナルの最近のシステムの変化がチームにもたらしたもの 前編
アーセナルで指揮を執っている2年間において、アルテタに対して寄せられた主要な批判の一つに、彼のチームはあまりに予想が簡単すぎるというものがある。時折3バックを採用する以外は基本的に4バックで、そしてこのシステムで左右両サイドの役割は明確に決まっていることが多かった。
アーセナルの定番の4-2-3-1
左ではサイドバックがウイングのようになり、左のFWは中に入ってセカンドストライカーあるいはトップ下の様なプレイを見せる。そしてCMFも一人は左に寄る。
右サイドではウイングは外に開き、開始位置がトップ下の選手もそちらに向かい、右サイドバックは中に入る。
アーセナルはこのように2-3-5あるいは3-2-5へと変化する4-2-3-1を用いてきたが、これはプレイを予測するのが簡単だった。右サイドバックがオーバーラップしないことは間違いない一方で、ほぼ絶対といっていいほど確実に左サイドバックは上がってくる。見ているファンにすらも予測が出来たくらいだ。
もちろんこのシステムはティアニーをより攻撃に活かし、かつジャカを中盤で孤立させないという意味では理にかなったものだった。そして、チームの得点力不足が深刻な中、この形ならラカゼットとオーバメヤンの二人を起用することが出来た。
この形は機能することもあったが、あまりに厳格すぎて、長期的な成功にはつながらなかった。対戦相手がアーセナルの選手が与えられた役割以上のことを行う自由が与えられていないと気づいてしまえばなおさらだ。
2020年の冬の時点で既にアルテタは4-3-3が彼にとっての理想の形だが、そのための人員が揃っていないと語っていた。
その前段階として、サカの前線での台頭とスミスロウが頭角を現したことでアーセナルはFA杯を優勝した際に用いた3バックをほとんど用いなくなった。ただし、この4-2-3-1の形は守備の堅さは保たれたものの、試合を支配することは出来ず、自陣で守備を行う機会は多かったし、チャンスもあまり作れない日々が続いた。
増加するシュート数とファイナルサードでのプレス数
しかし、最近は少々事情が違う。スタッツボムのデータによると、アルテタの1シーズン目と2シーズン目で、アーセナルが50回以上のファイナルサードでのプレスを記録したのは、プレミアリーグ58試合で4試合のみだ。
だが今季は前半戦の17試合でファイナルサードでのプレス数が50を上回る試合を3度記録し、直近に関しては、なんと7試合のうち5試合でファイナルサードでのプレスを50回以上記録している。
同様に、最初の2シーズンはアーセナルが20本以上のシュートを打ったのは58試合中たったの2試合のみだったが、今季は24試合中9試合でそれを記録しており、直近の8試合中5試合でシュート数20本超えを記録した。
ボール保持時とボール非保持時の布陣には関連性があるが、今回はアーセナルがボールを持っている際の形に注目したい。夏にラムズデール、ベン・ホワイトと冨安健洋が加わったことにより、アルテタは自身のチームでそれぞれの選手に求めるものを持った選手たちを起用できるようになったはずだが、実際には大きな変化が見られレたのはここ数週間のことだ。
左サイドの変化: ジャカとティアニーのポジショニング
まず左サイドの話からすると、ブレントフォード戦とウルブズ戦でキーラン・ティアニーは今までよりも、よりオーソドックスな左サイドバックに近いポジションを取った。アーセナルのボール保持時にティアニーが常にウイングのような位置まで上がっていく、ということがなくなったのだ。そして同時に、ジャカが常にティアニーの後ろのスペースをケアするということもなくなった。
これにより、ジャカと左ウイング(ブレントフォード戦ではスミスロウ、ウルブズ戦ではマルティネッリ)の前線の動きに幅が出せるようになった。
極端な言い方をすれば、ジャカとティアニーの役割が後退してしまったような場面が何度も見られるようになった。ジャカは中央でより前に出て、ウイングは外に位置したままだ。ジャカがビルドアップ初期に関与せず、それをパーティとCBに任せてしまい、自分はもっと前に上がるというケースも多くなった。
これはウルブズ戦の画像だが、今までのアルテタアーセナルのシステムであれば、このような状況でジャカはほとんど常にガブリエルの左横に居たはずだ。
あるいは、このような場面ではパーティと同じ列の左側に居たのはティアニーではなくジャカだったことだろう。
だが最近はジャカはこの位置でプレイに関与することが減り、より相手チームのDFの相手をすることが増えた。この場面ではジャカはマーカーを引き寄せており、ティアニーにスペースを与えている。
システムの変化がもたらすメリット
ジャカのポジションの変化がもたらすメリットはいくつかあるが、まず第一に、選手の動きがより予想が難しくなるため、相手がマンツーマンでプレスをかけるのも難しくなるという点だ。
上の画像ではポデンセがジャカについて言っているが、本来はウルブズの3トップの右の選手はティアニーが居る位置にプレスをかけているはずだ。ジャカが左に落ちていればウルブズはアーセナルを押し込むことができただろうが、今のアーセナルの選手たちのポジションチェンジはそこまで相手にとって予測が簡単ではないので、時折このようにしてアーセナルは相手の布陣を引き延ばすことが出来る。
もう一つ重要なのは、左サイドをティアニーがオーバーラップしないことで、彼がマークのDFを引き連れて上がることもないので、逆サイドのサカと同じように、マルティネッリとスミスロウに一対一を演出しやすくなったという点だ。
そもそも、ティアニーが常にオーバーラップする形は足元でボールを持つのがそこまでうまくなく、1対1の突破を好まないオーバメヤンを中にリリースすることを念頭に置いたものであり、アーセナルの今の左ウイングの選手たちはそのようなサポートをそこまで必要としていない。
さらに、ジャカではなくティアニーが後ろにいることでアーセナルは更にカウンターに強くなっている。ウルブズ戦でホワイトがボールをロス都市、ヒメネスを倒す場面があったが、この時、今までであればジャカが控えていたポジションに代わりにティアニーがいることがわかる。
相手にボールを奪われた際に後ろに全力で下がってカバーするのはティアニーの役目で、彼はスピードもあるし、守備面での危機察知能力も素晴らしい。彼を左の大外(マルティネッリの位置)に置いておくのは彼の守備センスの無駄遣いだと言えるので、今の形の方が味方のパスミスなどへの対応は簡単になっているはずだ。敏捷性を欠くジャカが危ないエリアで孤立することも減らせている。
この時アーセナルはすぐにボールを取り返せたわけだが、ここでジャカは前を向いてマルティネッリを探すことが出来た。これも子のフォーメーションの良い点の一つで、今までの形であれば、左ウイング(マルティネッリ)がボールを受けて大外のティアニーにスルーパスを出すことになっていただろう。これが何か問題だというわけではないが、ファイナルサードでマルティネッリあるいはスミスロウにボールを持たせた方がチャンスにつながる確率は高いはずだ。
(後編へ続きます)
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