【戦術分析】いかにしてメイトランド=ナイルズはワトフォードをシャットダウンしたか
『ゴールから60m離れた位置でプレイしているとき、カウンターをコントロールするのは重要だ』とペップ・グアルディオラはかつて語っていた。
モダンサッカーにおいてカウンターアタックをいかにコントロールするかはカギとなる要素の一つだ。トップレベルのチームは基本的にはポゼッションを支配し、相手陣で過ごす時間が長い。だがこれは、ボールを失った時に後ろに多くのスペースがあるということだ。
では、このスペースをコントロールし、カウンターアタックを食らわないようにするにはどうするのが良いのか?
これはミケル・アルテタが監督に就任した当初の非常に大きな課題の一つだった。
暫定監督のフレディ・ユングベリも『我々はトランジションに問題を抱えていて、トランジションから8m相手に走られるだけでチャンスを作られシュートを打たれてしまった。これは止めなくてはならない』と2019年の12月、監督としての初戦が引き分けに終わった後に語っていた。
これはアルテタが監督就任してすぐ着手したことでもあり、同じ方針で、アーセナルでの100試合目となるワトフォード戦を勝利に導いた。
この試合のパフォーマンスと勝利の中心にいたのはエインズリー・メイトランド=ナイルズだ。
スカイスポーツのマンオブザマッチに選ばれたナイルズは、いつも通りボール保持時には落ち着いており、左サイドのタヴァレスをカバーしながらも、ビルドアップ時には相手に予測を難しくする程度のポジションチェンジは見せた。
タヴァレスとスミスロウのポジションに応じて中に絞って下がるか上がっていくかを選択していた。
だが特にナイルズが違いを見せたのは、アーセナルがワトフォード陣内でボールロストした時だ。彼がアーセナルがペースを握り続けられるように、ワトフォードの最も危険な選手を無効化する役割を果たした。
これはサカがオフサイドとなった場面で既にみられており、アーセナルがボールを失った際にワトフォードはボールを前に進めようとしたが、ナイルズはボールが入ったサールに全く時間を与えなかった。
ここからナイルズはボールを奪取し、ボックス内のラカゼットのボールを入れた。
このようなプレイは何度も見られた。アルテタ体制になっていこう、アーセナルが相手にプレッシャーをかけ続けることに苦戦した試合は何度も見られたが、ワトフォード戦は別で、ワトフォードがボールを自陣で奪い、前に進めようとするたびに、そこにはナイルズが立ちはだかり、相手のミスを誘った。
ナイルズの前半のパフォーマンスの優れていた点は、彼が運動量豊富で、かつワトフォードが有利になりそうな場面を見逃さない注意深さを持っていたところだろう。
上の場面でナイルズはまず̪シソコに寄せたが、その後即座に対応し、素早くターンしてクッカがボールと共に前進するのについていった。
ハーフタイム前にも似た場面はあり、ワトフォードがラカゼットとスミスロウのカウンタープレスをかわしたが、そこで待っていたのはバックラインの前に構えたナイルズだった。
このように、ボールロスト直後にプレスをかけるプレイ、特にサールを自由にさせないという意図は後半さらに顕著になり、アーセナルが攻撃するときには常にナイルズはボールロストに備えていた。
ボールがサイドにある際にも、相手の最も脅威となる選手であるサールをマンマークするような形でついていた。
更に、キングが後ろに下がった場合にはベン・ホワイトがついていっていた。
したがって、このような形から得点が生まれたのはまったく驚きではなかったと言えるだろう。
ボールがサイドにある際には、中盤の選手は相手ボックス内に侵入する誘惑があるものだが、ナイルズはそれをせず、一歩引いてボールがサールにわたるのをケアする役割に達していた。
そして実際にそうなったわけだが、彼はバックパスに追い込まれ、この時点でゴールに近い場所でアーセナルがパスの出所を皆マークしているという状況が作れていたのだ。ここからキングにパスが出たが、ここを再びマークしていたホワイトがカット、アーセナルの先制点が生まれた。
ナイルズのこのようなプレイはアーセナルの攻撃に貢献しただけではなく、当然守備にも役立った。これが効果的なカウンタープレスというもので、高い位置でボールが奪えれば、チャンスになるだけではなく、相手にとって自分のゴール付近から脱出するのが難しくなる。
アーセナルの勝利においてサールの無効化が非常に大きな役割を果たした。彼は今季最少のボールタッチ数をこの試合で記録し、ファイナルサードでのタッチ数14というのもリバプール戦と並んで最少だった。
最近のアーセナルは前半から好調の試合が多く、もし試合序盤に先制点を奪えない場面はどういったプレイを見せるのだろう、相手にプレッシャーをかけ続けることが出来るだろうか?というのが疑問点の一つだったが、この試合でチームはパニックに陥ることなく、ずっとプランを遂行し続けた。
これはアーセナルがパスした新しいタイプのテストで、その中心で輝いたのがメイトランド=ナイルズだった。
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