ユースアカデミーの選手をトップチームに引き上げることの見落とされがちなメリット
ユースアカデミーのタレントを育成するにあたってコーチや監督が直面するのが、どの程度意図的に彼らにチャンスを与えるべきかというジレンマだ。
もちろん若手はチャンスを自らの力で掴み取るべきだというのはあるが、一方で、クラブがある程度彼らの前にファーストチームへの道は開かれている、と示すことができなければ、彼らは移籍し、違うクラブでその才能を磨くことを選択するだろう。
監督は彼らの成長と、彼らを起用することのリスクのバランスをとる必要がある。
かつてアーセン・ベンゲルは『若手の教育の授業料は勝ち点だ。もし私がシーズンを通して20歳のCBを起用することを決めれば、何点か勝ち点を落とすことになるだろう。それは私の責任で受け入れなくてはならない。その若手ほど将来性のない28歳のCBを起用すれば、もう少し勝ち点は伸ばせるだろうが、若手を起用すれば、その何年か後にはより成長した選手がチームに在籍することになる』と語っていたが、まさにその通りだろう。
だが、リーグ優勝のために勝ち点90を目指さなくてはならないときには特に、数点の勝ち点を失うことを受け入れるのは簡単ではない。
ただ、アルテタはこれまでにも何度か若手にチャンスを与える姿勢を見せてきた。サカの才能はだれが見ても明らかで、どれほど若手起用に消極的な監督でも起用していたかもしれないが、アルテタはサリバやマルティねっりといった選手たちもチームに組み込んだ。
アルテタは若くてもその選手がプレイする準備ができていると感じれば、彼らを起用する。
昨夏イーサン・ヌワネリのためのスペースを空けるためのような形でファビオ・ビエイラとエミール・スミスロウが放出となった。
シーズン前半にウーデゴールがけがで離脱した際には、ヌワネリはまだ先発で彼の穴を埋める準備ができているとまではみなされておらず、もしこの期間中にビエイラやスミスロウがいれば、アーセナルはもう少し勝ち点を失わずに済んだだろう。
だが一方で、アーセナルがヌワネリにファーストチームでの出場機会を与えることを示せなければ、彼は2024年の3月に契約延長にサインすることもなかったはずだ。
今やユース年代の選手の市場の競争は非常に激しくなっており、イングランド国内外のトップクラブがイングランドの若手を狙っている。
契約延長交渉の場で、アルテタはスミスロウとビエイラの将来は不透明で、ヌワネリにもチャンスがあるだろう、といった話をしたのかもしれない。
ヌワネリの将来をアーセナルにコミットしてもらうために、アルテタはもしウーデゴールが離脱した場合の控えとなれるかもしれない選手を手放さざるを得なかった。
また、もう一つ興味深いのは、アルテタがヌワネリは将来的にストライカーでプレイできるとコメントした点だ。
(中盤や右サイドに加え絵て)私が思うに、彼がプレイできるポジションはもう一つある。ストライカーだ。彼はゴール前での嗅覚を備えているし、得点力が素晴らしいからね。
これは非常に興味深い考察だ。
上で述べた通り、時に若手の成長のためには勝ち点を支払わなくてはならないこともあるが、一方で、ユース卒の若手をクラブで育て上げることにはメリットもある。
もちろんまず移籍金が必要ないこと、そして彼らがホームグロウンであることだ。
だが、もしかするとクラブにとっての最大のメリットは、彼らを若い時期から、ポジション面に関しては柔軟に育て上げることかもしれない。
2019年にブカヨ・サカはティアニーの怪我に伴って左サイドバックとして台頭した。結果的には彼は絶対的な右ウイングとしての座をものにしたが、これも部分的には二コラ・ペペとウィリアンのパフォーマンスが上がらず、チームがこの時最も必要としていたのが彼らの代役だったからだ。
アシュリー・コールはユース時代左ウイングだったが、既にファーストチームにはピレスとユングベリが居て、アーセナルはウイングは必要としていなかった。だが代わりにチームは左サイドバックを必要としていたため、コールは左サイドバックになった。
似たように、ジャック・ウィルシャーはユース時代はトップ下あるいは右ウイングで、その後のキャリアよりもずっとゴールに近い位置でプレイすることが多かったが、当時のアーセナルの前線にはナスリ、ファブレガス、アルシャビンとウォルコットが既に在籍しており、ファーストチームが質の高い選手の補強を必要としていたのはその一列後ろのポジションだったため、この位置でブレイクした。
そして、恐らくアルテタもヌワネリがストライカーとしてプレイできると考えている背景には似た事情があるだろう。
もちろん、ヌワネリがゴール前での落ち着きを備えているのは事実だ。だが、今の段階で右8番と右ウイングにはウーデゴールとサカがいる(彼らが契約延長をして、ずっとクラブに留まってくれることを願おう)。
サカの怪我により、短期的には右ウイングでのプレイ機会は増えるかもしれないが、より長期的な将来を考えたときに、空いているように見えるのは、左8番(ただしアルテタはこの位置により長身でフィジカルな選手を好んでいるように見える)、あるいはストライカーのポジションだ。
そして、後者は市場の状況を鑑みても、もしヌワネリがストライカーとしてプレイできるのであれば、クラブにとって非常にありがたい。
ライス、ハヴァーツ、メリーノが左8番としてプレイできる一方で、現在のアーセナルの先発11人のクオリティを上げる上で、最も改善の余地があるのは最前線だと多くのアーセナルファンは考えるはずだ。
ではなぜアーセナルがそれにもかかわらず素晴らしいストライカーを補強できていないかというと、現在のマーケットでは平均レベルのストライカーですら、移籍金が非常に高額だからだろう。
もしアカデミーのタレントをストライカーとして育て上げることが出来れば、これは最高の解決策になる。もちろんまだ現段階ではこれは単なる一つのアイディアには過ぎない。
だが、近いうちにストライカーを取り巻く市場の動向が大きく変化することもないだろう。
アーセナルはロビン・ファンペルシーが去って以降、ずっとストライカーに関して問題を抱え続けており、もう10年以上が経過している。
これをヌワネリが解決してくれるのであれば、1-2年の時間がかかったとしても、大歓迎のはずだ。
少し前にユース時代のMFとしてではなく、左サイドバックとして出番を得るルイス=スケリーについての記事を書いたが、彼もまた現実的な判断に基づいたコンバートだろう。
ジンチェンコ、ティアニー、冨安の3人の長期的な将来はアーセナルにはなく、今のチームではMFよりも左サイドバックの方がチャンスが多い。
また、中に入るタイプのハイブリッド型のサイドバックはその役割をこなすのが難しいため、若い選手をコーチングして育成した方が良い、という観点もある。
中盤としてもプレイできる左サイドバックを獲得しようとしても、そこまで候補は多くない。
アーセナルは最近ヌワネリとルイス=スケリーの居場所をチームに作り出す意図を見せたが、それは同時に、現状のスカッドの穴を埋めることにもなるのだ。
ヌワネリをずっとウーデゴールやサカの控えとして置いておくことはできないし、良いストライカーを市場で見つけるのは難しい。
もちろん、だからといってヌワネリがアーセナルファンが切望するワールドクラスのストライカーに育ってくれることを期待するのはアンフェアではあるが、チームが必要としているポジションで彼を育成しようとするのは理に適っているだろう。
将来的には彼らは応急措置ではなく、より重要な役割を果たすことを期待されているだろうが、まだ二人とも17歳と18歳だが、現時点で既にルイス=スケリーとヌワネリはチームに不足しているポジションを補ってくれる有用な存在となっている。
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