マルティネッリの不調とジェズスの不在
サッカー選手の調子が特に何の理由もなく落ちてしまう、ということはほとんどなく、戦術面や連携、鍵となる選手がチームから不在となってしまったなど何かしらの理由があることが多い。
単に疲労が蓄積していたり、私生活での出来事に影響を受けるということもあるだろう。
今回の記事のテーマはガブリエル・マルティネッリに関してだが、彼が最近今季序盤ほど好調とは言えないのは、W杯と直接的な関係があるというよりも、ガブリエル・ジェズスの不在が原因だろう。
W杯での中断期間が終わってリーグ再開後、マルティネッリは2試合で2得点を挙げているが、大みそかのブライトン戦での得点以降はオックスフォードユナイテッド相手の1アシストにとどまっている。
エヴァートン戦では60分ごろにトロサールと交代となっており、もちろんこれ自体はアーセナルが層の厚さを増そうと動いた結果であり、特に問題というわけではないはずだが、選手の目線で見れば、一般論として60分に交代する選手というのは素晴らしいパフォーマンスを見せていたということはできないだろう。
だがまず第一に、最近のマルティネッリがチームで任されている役割を理解する必要はある。
ジンチェンコはほとんど左サイドをオーバーラップすることがなく、中に入っていくことが多い。今のアーセナルのシステムは意図的にマルティネッリがサイドで孤立し、相手右サイドバックとの1対1を作るような形となっているのだ。
だが当然ながら、ウイングが相手DFと一対一になった際に常に相手を突破してクロスを届けたり、シュートまで持ち込んだり、というのは難しい。
マルティネッリの役目は何度もそれにトライし、そのうちの何度かを成功させることなのだ。
彼はスタミナに秀でているため、彼はこの役割に向いている。南米出身のFWの先輩であるアレクシス・サンチェスやルイス・スアレスに関しても同様のことがいえたが、マルティネッリは単に相手のスキを突いて攻め立てるだけではなく、何度それに失敗しても、成功するまでそれを繰り返すことができる選手だ。
マルティネッリにはオーバーラップによる大外側のサポートはあまり見込めない一方で、逆に内側をインナーラップをするジャカはいる。今季序盤にジャカはファイナルサードで絶好調で、ジェズスとマルティネッリの縦横無尽のコンビが相手守備陣を惑わしたスキを突いて、それにより空いたスペースをアタックするのに成功していた。
特に上のレスター戦の1点目の場面がわかりやすいが、ジェズスが大外まで出ていき、代わりにマルティネッリが中に入っている。そこにジャカも絡むことで相手を混乱させ、最終的にはジェズスが得点を挙げた。
このようなランを行ってくれるFWの不在がマルティネッリに影響を与えているのは間違いないだろう。エンケティアはジェズスとはタイプが異なり(別にこれは批判されるべきではない)、アーセナルの最近の攻撃のフォーカスはエンケティアにチャンスを作り出すことへと移っている。
もちろんこれにはメリットとデメリットの両方があり、実際にエンケティアはジェズスを上回るペースで得点を重ねている。
だが一方で、これにより中央以外のエリアからの得点は減少しており、その影響を最も強く受けているのがマルティネッリだ。
ジェズスがいないことで、アーセナルのビルドアップも若干スムーズさを欠いており、マルティネッリはより外で、かつ相手DFの2人を相手にした状態でボールを受ける場面が増えている。
ジェズス起用時と比較すると、ゴール前にたどり着くまでにマルティネッリが突破しなくてはならない障害は増え、かつ単純に距離も増えている。
例えば、エヴァートン戦では試合を通してマルティネッリからのエンケティアへのパスは一本のみで、エンケティアからマルティネッリへのパスは一本もなかった。マンチェスター・ユナイテッドとの試合に至っては、エンケティアは2得点を挙げたものの、お互いに一本のパス交換もなかった。
直近の四試合でエンケティアからのマルティネッリのパスは合計で2本しかないのだ。
もちろん上でも述べた通り、これはエンケティアが必ずしも批判されるべきだというわけではない。彼はタイプの異なる選手で、ペナルティエリアでの脅威をもたらしている。
だが、これを見ればマルティネッリの得点とアシストが減少している原因についてはかなり明らかなのではないかと感じられる。
今季序盤のアーセナルではサカとウーデゴールがペアで連携するという形だったため、サカはジェズスの不在によりそこまで大きな影響を受けていないが、当初からマルティネッリは浮島で相手サイドバックとの一対一を繰り返すような仕事を担っていた。
ガブリエル・ジェズスが時折現れてマルティネッリに救命ボートと温かなココアを差し出していたのだ。
マルティネッリの数字が低調なものになっているのは、彼自体のパフォーマンスが極端に落ちている、というよりも彼の周囲の選手やスタイルが変わってしまったためなのではないだろうか。
ディスカッション
コメント一覧
ジェズス離脱前の状態を考えると、ジェズスの位置にマルティネッリ、左にトロサールを入れた方がしっくりくるのではないでしょうか。
エンケティアは悪くないですが、攻撃の形は変わるので、相手によって使い分けられたら良いかなと思います。
パス交換の件は、普通に考えてマルティネッリはエンケティアにパス出さないねって話になります。
なぜならエンケティアがCFであり、LWGのマルティネッリはCFにクロスを上げることも仕事の一つだから。
以前はボールを受けてシンプルにパスも入れていたマルティネッリが、今は毎回ドリブルに入りキープしてバックパスというマンネリに陥っているのは彼自身が選択肢を狭めている面もあるのでは。
ジャカやジンチェンコがサポートに入っているのも上手く使えればと思います。
その辺りは監督の指導が鍵になるように思います。
ジェズスの不在は勿論のこと、ジャカの有効性も検証に値する。彼の人はもはやウイングバック。助け舟が来ないばかりか、要塞に向かって弓矢を放っているだけでは落とすのは難しい。それでも時折、大砲で風穴を開けるのだが、穴から突入する部隊がいなかったりする。
ジンチェンコをインにティアニーの騎馬隊で希望の星マルティネッリを先鋭に。どうもアルテタは、これまでの貢献を照らさないとチームが崩れるとお心配のようだが、過去で未来はつくれない。とはいえ、シティ相手に結果を出せばそれが正義。どうなるか見てみよう。w