サッカーの守備理論から見るアーセナルのレスター戦での失点

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試合やチームの解説というのは巷に溢れているが、今回はそこから一歩進んで、一試合の特定の瞬間にフォーカスを当て、その場面でのコーチングや守備の理論を解説する記事を今回はお届けしたいと思う。

今回話をしたいのはアーセナルのレスター戦での失点なわけだが、私にとって(私はサッカーコーチでもありライターでもあるわけだが)このような失点場面を解説するのが興味深いのは、しばしば選手一人のせいにされがちな失点という物が実際にはいくつかの部分で破綻が起こった結果である、ということがよくあるからだ。

まず、守備の基本を解説したうえで、その後実際にアーセナルのどのようなミスがティールマンスの得点に繋がったのか、を分析するという流れで進めたいと思う。

サッカーの守備の基本理論

多くの守備システムのコンセプト自体はそこまで複雑ではなく、基本的にファースト・セカンド・サードディフェンダーという3つの役割に基づいている。

ボールに最も近い位置にいる選手がファーストディフェンダーで、彼らはプレッシャー、と呼ばれることもある。それをサポートする位置にいるのがセカンドディフェンダーで、彼らはカバー、とも呼ばれる。そしてボールから最も離れた位置にいるのがバランスとも呼ばれるサードディフェンダーだ。

ボールから近い順にファースト、セカンド、サードディフェンダー

ファーストディフェンダー

上述の通り、ファーストディフェンダーというのはボールに最も近い選手だ。彼らの仕事はボール近くのスペースを埋め、相手アタッカーとゴールの間に入ることだ。

可能であれば、ファーストディフェンダー/プレッシャーは相手のアタッカーがボールをもって前のスペースに飛び込むのを防ぎ、シュートやクロスを止めることがその役割となる。

この際ファーストディフェンダーにとって重要となるのは、ポジショニングの良さ(タイトに相手につく能力や進行方向をコントロールする能力など)、アグレッシブさ、そしてボールを奪いに行くタイミングの状況判断力、そして下がりながらでも相手に対応できるスピードだ。

セカンドディフェンダー

一方で、セカンドディフェンダーの仕事は主に以下の二つだ。

・相手のボール保持者の次に危険なアタッカーを見つけ出し、その選手をマークすること
・かつ、ファーストディフェンダーが相手に抜かれたとしても対応できるようにカバーを提供すること

ここでカギとなるのはポジショニングだ。セカンドディフェンダーにとってはこれが特に重要となる。彼らのプレイを見る際に注目すべき点は、きちんとマーカーの近くに位置しているが、そして正しい角度でつけているか、さらに同時にファーストディフェンダーのカバーにも行けるようなポジションをとれているかだ。

さらに、彼らは相手がボールをどこに動かすかに応じて即座にファーストディフェンダーやサードディフェンダーに役割を変える必要もあるのでそれにも対応できなくてはならない。

サードディフェンダー

サードディフェンダーは基本的にはゾーンを守るディフェンダーとして機能する。 彼らは、彼らのサイドにボールが展開された場合に対応する責任を負う。

そして、私が選手を教える際には、基本的にはサードディフェンダーが他のディフェンダーに指示を出す役割を担わせる。なぜなら彼らが一番状況のすべてを見ることが出来、他の二人のディフェンダーの動きを統率するのに適した存在だからだ。

サードディフェンダーの他の役割は、相手の3番目のアタッカーにボールが展開されてもいいようにマークすること、そして、セカンドディフェンダーへのカバーを提供することだ。

また、もしファーストディフェンダーが抜かれてしまった場合はセカンドディフェンダーがファーストディフェンダーに切り替わるのに伴って、セカンドディフェンダーにならなくてはならない。

これらが、守備の基本的な役割分担に対する解説で、次に、実際にレスターのゴールの場面を見ていこう。

ティールマンスのゴールに対するアーセナルの対応

まず、前提として一つ最初に明確にしておこう。ティールマンスのシュートは素晴らしいものだった。レノがニアポストで構えていたが、ファーサイドに沈めて見せたのだ。

GK目線で言うと、このようなシュートを止めるのは非常に難しく、多くのGKがこのシュートを止めることはできなかっただろう。

だが、アーセナル目線で見るとむしろもっとやりようがあったのは、それ以前の部分だ。

グラニト・ジャカはアルテタのもと目覚ましい復活を遂げており、この試合でも90分通してみればよいパフォーマンスだったとは思うが、失点場面に関して言えば、ジャカのミスから始まった。

上の図の通り、彼はタッチライン際でボールを受け、3つのパスのオプションがある。画面外の縦へのティアニーへのパスが恐らく彼の体の向きと前へのパスであることを考えると最良のオプションで、ウィリアンにボールを返すこともできるが、この時点で既にウィリアンは二人の選手につかれている。

またもう一つの選択肢がフリーのルイスへのパスで、これは逆サイドへの展開でこれを選択してればレスターの5人ほどのアタッカーのプレスを無効化することが出来た。

だが、ジャカは代わりに判断を下すのを遅らせ続け、結果としてウィリアンが後ろのDFを引き寄せながら近づいてきたが、ジャカのパスの精度が悪く、そのままボールロストに繋がってしまった。

ボールロストの時点で既にウィリアンとジャカはかわされかかっており、二人とも守備に最適なポジションにいるとは言えない。

理論上はジャカがこの場面のファーストディフェンダーなのだが、守備の開始時点で既にこのレースに負けている。

ジャカはこれまでの勢いでティールマンスから離れていく体勢になっており、ただでさえ瞬足とは言えないジャカがこのような状態からティールマンスとの競争に勝つのは難しい。

さて、ここで重要になってくるのが上で説明した守備の理論だ。

ティールマンスが突破に成功、走り出し、リカバリーラン(後ろに戻る走り)を開始するジャカ

ただし、この際に少し注意しなくてはいけないことは、アルテタのMFへの要求を考慮しなくてはならないという点だ。

この場面で既にファーストディフェンダーのジャカは突破され、後ろに戻っている。したがって、この場面ではマリあるいはエルネニーのどちらかがファーストディフェンダーになる必要がある。

アルテタが基本的にサイドのスペースのカバーを中盤の選手に行わせることが多いことを考えると、恐らく本来はエルネニーが緑の矢印のようなルートで走り、ジャカをカバーしてファーストディフェンダーにならなくてはいけない、というルールのはずだ。

そして、マリがヴァーディの動きに目を光らせながらセカンドディフェンダーになる。ルイスはあまりに離れすぎているので、あくまで4番目のディフェンダーとして、もし逆サイドにボールが展開されれば対応することが出来るくらいだろう。

少し時間を進めて、ティールマンスがボックスに向かって走っているが、この二人の間のスピードに差がありすぎるせいで、ジャカはもうこの場面で彼には追い付けず、ディフェンダーとは呼べなくなっている。

したがって、この時点でエルネニーかマリのどちらかがファーストディフェンダーとしてボールを持ったティールマンスに対応する決断を下さなくてはならない。ティールマンスがボックスに到着した際に彼の前にあるスペースをつぶさなくてはならないからだ。

この画像の時点では、走っている方向と勢い的によりボール保持者に対応しているのに向いているのはエルネニーのはずだ。ヴァーディを見るためにポジションを調節したマリとは違って、エルネニーはそのまま真っすぐ走り続ければよい。

そして、ジャカが計算外になったことで、ルイスにも役割が生まれている。彼はサードディフェンダーであり、マリとエルネニー両者の位置が見えているはずだ。したがって、彼がこの2人に代わって判断を下し、どちらがボール保持者に対応するべきなのかコミュニケーションをとらなくてはならない。

同時に、この時点でルイスがもう少しでヴァーディに対応できる位置にたどり着く、ということをマリに知らせるべきだ。

そして、アーセナルの失点が決定づけられてしまったのがこの上の画像の場面だ。エルネニーは途中で走るをの辞めてしまい、ヴァーディの後ろに位置している。

そして、マリもボックス内のヴァーディを意識したままなので、ティールマンスに広大なスペースを与えてしまっている。ルイスが既にボックス内にいるのだから、本来彼はマリにヴァーディを捨ててティールマンスに対応するよう伝えなくてはならなかった。

最後の最後の場面でマリがティールマンスのスペースを埋めに行こうとした場面ではすでに遅すぎ、彼にはシュートを打つために十分なスペースと時間が与えられていた。こうなってしまうと、もうアーセナルとしては彼のシュートミスに期待するしかない。

もちろん、実際には失点となってしまったわけだが。

期間限定

まとめ

最初に言った通り、この失点場面のシュート自体は素晴らしいものだった。だが、いかにしてアーセナルの小さなミスが積み重なってティールマンスがこのシュートにたどり着くのを楽にしてしまったかを見てもらえたと思う。

本質的には、ファーストディフェンダー、セカンドディフェンダー、サードディフェンダーの理屈は基本的かつシンプルなものなのだが、やはりコミュニケーションが効果的に行われないと、このような事態を招いてしまうというわけだ。

失点を見て、これは誰かの正だ、というのは簡単だが、現実はしばしばより複雑なもので、今回の記事を通して失点には一人のミスというより多くの要因が絡んでいることが多い、ということを理解していただければ幸いだ。

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Posted by gern3137