クロエンケが運営しているのはビジネスだが、我々がサポートしているのはサッカークラブである

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この4,5か月間に起きたことを考えれば、会社の経営者を襲っているプレッシャーは理解できる。収益が大幅に減少してしまった企業もあれば、あるいはゼロになってしまったところもあるだろう。企業援助のための仕組みを政府は用意しているが、それでも苛酷な時期であることは間違いない。

昨日アーセナルが55人のスタッフの解雇準備に入ったとする声明を発表した。声明の署名はラウール・サンジェイとヴェンカテシャムだったが、これがさらに上のスタン&ジョシュ・クロエンケ、KSEの意向によるものだろう。

もちろん、状況が複雑であることは理解しているつもりだ。サッカークラブもCOVID-19の影響を受けており、無観客試合の与えるダメージは大きい。シーズンチケット更新料や平常時のマッチデー収入の減少などなど、サッカー界がどのような影響を受けているかは中継に映るスタジアムの空席を見ればわかる。

したがって、表面上はアーセナルほどのクラブでも55人を解雇しなければならないというのは驚きではない。だが、それでも私は大きなショックを感じた。

まず第一に、解雇された人々はこのような状況下で次の仕事を見つけることは出来るのだろうか。既に解雇を言い渡されたスタッフもいれば、金曜日までに決定して連絡する、と告げられた人もいるそうだ。彼らは不安にさいなまれ、解雇決定の連絡がこないことを祈りながら待たねばならない。

そして第二に、タイミングも最悪だと言わざるを得ないだろう。アーセナル史上最も難しいシーズンの一つがFA杯優勝で幕を閉じた3日後にこのような発表があり、お祝いムードは霧散してしまった。風船が針でつつかれたかのように。

このタイミングでこのような決定を下せる人物は、ファンや選手、クラブのスタッフの気持ちについてなど慮れないに違いない。

アーセナルの選手たちはプレミアリーグで唯一、給与カットを受け入れた。スタッフの解雇を行わないという条件でだ。

だが、シーズンで有終の美を飾った数日後にそれは事実ではなく、彼らは結局解雇されると告げられることとなった。選手たちが当惑するのも当然だ。

彼らは騙されたのだろうか?監督についてはどうだ?上層部のために一肌脱ぎ、クラブスタッフのために給与カットが必要だと選手の説得に乗り出したミケル・アルテタは?これは彼と選手の関係、あるいは彼とフロントの関係に悪影響を与えるだろうか?

私が特に悪質だと思ったのが、声明の中にファンの感情に訴えかけようという見え見えのトリックがいくつか隠されていたことだ。

そもそも、声明文にyour clubという言葉が含まれており、『チームへの投資を継続するためには、コストカットを行い、持続可能で責任のあるやり方でクラブを運営しなければならない』との文章が見られた。つまり、解雇は移籍市場で投資するためには必要不可欠、という言い分だ。

“持続可能で責任のある"というのは一見当然の言い分に思える。だが、これはここまでのクラブの運営とは全く合致しない。

例えば、数か月後にフリーで獲得でき、かつ怪我をしている選手に7億円のレンタル料を支払うのは持続可能で責任のあるやりかただろうか? 巨額の選手獲得のために、自クラブとも選手の所属先クラブとも全く無関係なスーパーエージェントに巨額の手数料を支払って介入を頼むのは健全だろうか?

ベテラン選手をクラブでプレイさせるために20億円を超える額を支払うのは?もしこれを読んでいる読者でキア・ジューラブシャンが否定したのを信じている人が居たら私にメールをしてくれ、買い取ってほしい壺がある。

もちろん、現在の状況がのっぴきならないものであることは否定はしないし、アーセナル以外のクラブでもスタッフの解雇に踏み切らざるを得ないところは出てくるだろう。

だが、だからといって、"チーム強化のために一般人は解雇する必要がある"のような言い方をするのは全く持ってナンセンスだ。

ファンがどれほどチーム強化、スター選手の残留と獲得、を望んでいるかを知ったうえで、このような言い方をして企業の世界での最悪のダブルスタンダードをごまかそうとするとは恥ずべきことだ。

これに関して、何人かの人が『だからと言ってクラブはどうすればいいんだ、仕事がない人にお金あげるのか?それじゃあビジネスじゃない』というのを目にした。

確かに全員ではないにせよ、無観客試合の影響で、そもそも与える仕事がなくなるスタッフもいるだろう。

だが、アーセナルはサッカークラブなのだ。ローカルコミュニティを代表する存在で、地域の柱で、その地域に貢献する存在だ。これは私としては絶対に軽視できないポイントだ。

このパンデミック下でも、アーセナル基金は北ロンドンや地域の枠を超えて非常に重要やな区割りを果たしたし、この組織で素晴らしい人々が無私の気持ちをもって素晴らしい仕事をしている。

アーセナルは、このような地域での立ち位置を誇るべきだし、対外的にどれほどの善をもたらしているかを発信していく権利がある。

サッカークラブと言うのは単なる金額が書きつけられた帳簿ではない。単なるビジネスでもない。もっと意味の大きいもので、そのコミュニティの心臓の鼓動なのだ。そしてそれはサッカーのグローバル化に伴って、ロンドンだけでなく世界中で拍動している。

それにもかかわらず、都合が悪くなると急にアーセナルはビジネスに、バランスシートへと姿を変える。サッカークラブが存在するだけで貢献できる善意やその受け取られ方への責任は急に放り投げられる。

私は収支が合わないのだからそれも致し方ない、という意見には納得できない。オーナーのせいだ。もしアーセナルが億万長者によって所有されていないのであれば、その理屈も通るかもしれない。だが、スタン・クロエンケは1兆円以上の資産を保有している。彼にとっては、一年間55人のスタッフを雇う分の金など雀の涙のようなものだ。

もし、金銭的苦境に関する声明が発表され、その後慎重に検討を重ねた結果コストカットは避けられないという結論に達するのであればまだ理解も出来る。

だが、実際には、COVID-19のパンデミックから数週間後にまるでチャンスを活かすかのように選手たちの給与を削ることを発表し、その数か月後に選手以外のスタッフの給与削減にも手を出した。

私のいうことを聞いて、それがビジネスというものだろうが、馬鹿め!と思い、これが億万長者のやり方というものだ、と指摘する人もいるかもしれない。恐らくそれは正しいのだろう。

だが、だからと言って私がそれを好ましいと思わなくてはいけないというわけではない。私は何千億円もの資産を持つ男が小銭を節約するために、世界中の人が悲嘆にくれるこの情勢の中で、55人のスタッフを失業させるというのを容認は出来ない。

彼と彼の下で働くフロント陣が、アーセナルファンに向かってこれは選手補強のためには仕方なかったのだという説明をするのも納得がいかない。

これまでアーセナルはこの55人のスタッフの給与何年間分もをカバーできる金額の支出を間違ったものに対して行ってきた。

我々は企業の理屈に慣れすぎてしまったあまり、『もうこういうものだから』とこのようなとんでもなく酷い状況を受け入れなくてはならないのだろうか?いや、そのような考え方をするべきではない。

また、何人かの人がエジルを議題に上げるのを見たが、当然彼の給与はクラブにとって大きな負担だが、ファンがエジルに怒りをぶつけるようであれば、クロエンケの思うつぼだろう。

究極的には、アーセナルには2018年にあのエジルの契約を締結するほか選択肢はなく、エジルには色々な点でフラストレーションがたまるが、今回はそれとは全く関係ない。だがオーナーは矢面に立たず、他のスケープゴートが批判されるのを望んでいるのだろう。

私は他人にどのように考えるべきか指図することは出来ないが、もしこれを読んでいる人が億万長者のオーナーを擁護し、FA杯の優勝と共に訪れたポジティブなムードを損なうのも致し方なかった、と考えているのだとすれば、私にできるのは、もう一度よく考えて欲しい、ということだけだ。それでも考えが変わらないのであれば、もう私に出来ることはあまりない。

クロエンケファミリーにとってアーセナルFCはビジネスだ。だが、私やこれを読んでいるあなたにとって、ビジネスの枠には留まらないものだ。

本当に貴重な機関であり、何十年にもわたって我々の人生の一部であった存在だ。それは、億万長者の数あるスポーツチェーン店のうちの一つ以上の意味を持つものだ。

我々は、このような存在をどうすれば守っていけるのかを考える必要がある。どんな形でごまかそうとしても、この声明が発表により、アーセナルの評判と価値は大きく棄損されてしまった。仮にビジネス面で正当性があったとしてもこれはアーセナルにとってとんでもなくネガティブな事件だ。

このようなことについて書かねばならないのは非常に悲しい。スタン・クロエンケの行為によりアーセナルの評判は著しく悪化してしまった。恐らく彼はそんなこと気にかけないのだろうが、私は気にかけるのだ。

もしかすると私は理想主義者で、左翼で、愚かなのだろう。だが、この声明を見て私がまず考えたことは、アーセナルについてであり、サッカークラブについてであり、これにより職を失うことになる人々に関してで、スタンとジョシュにとってこれは最適な方策なのだろうか、ではなかった。

世界中に、億万長者ではなくごく普通の人々によって経営されながらも、この不況下で雇用を守るべく全力を尽くしている企業は数えきれないほどある。アーセナルが彼らと同じ姿勢をとらないというのは本当に残念なことだ。

最後に付け加えると、今回の解雇者の中にはチーフスカウトのカジガオや国内担当チーフスカウトらも含まれており、さらにスカウティング部門の解雇が進むようだ。

世界のどこに、移籍市場が開く瞬間にスカウトを大量解雇する正気のクラブがあるというのだ?ここ最近アーセナルは脱データ、脱情報、脱スカウティング-最もモダンな選手獲得の手法からの脱却-が進み、より代理人主導の選手獲得に移行している。

これにより、一部の人々のアーセナルへの影響力と発言力が急速に増しているのはアーセナルファン全員にとって懸念すべき事項だ。実際のところ、これはクロエンケも懸念するべきで、もし彼らが本当に『持続可能で責任のあるやり方』に興味を持っているのであれば、何か手を打つべきだろう。だがそれが起こりそうな気配はない。

確かに実際に取引を実行できる代理人との関係は保つべきだが、もしアーセナルが彼らの顧客からしか選手を獲得しないのだとしたら、彼らが釣り上げる魚は、より小さく、より高価な湖に住む魚だけになってしまう。

その外側にも多くの才能は眠っており、アーセナルのように金銭的な制約を抱えるクラブは、資金をスマートに使わなくてはならない。我々はスカウティングをより向上させる必要があると思うが、スカウト陣の大量解雇というのはこれとは真逆だ。

もしあなたがこれにも何の心配もしていない、というのであればそれはそれで一つの意見だが、私は深刻にとらえている。もしこれがアーセナル以外のクラブで起こっており、一人の代理人がクラブの獲得方針を決めるほどの影響力を持っているとしたら、何が起きているかは明らかだろう。少しずつある種の腐敗が起きているのは間違いない。

最後に、今回のアーセナルの酷い決断に影響されることになったスタッフの方や、数週間後には解雇されるかもしれないと考えざるを得ない状況に追い込まれた方に幸運と慰めを祈るが、恐らくその何倍もの額が依怙贔屓的な経緯で獲得された選手の給与に費やされるのを見て、彼らの心が癒されることはないだろう。

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Posted by gern3137