アーセナルの凋落とエジルの不調の関連 後編
(この記事は、昨日の前編の続きとなっています)
エジルの成績
これらのデータでアーセナルファンを絶望させ、いったい私が何をしたかったかというと、エジルの活躍が少なくなってきている背景を整理したかったのだ。
もし私が単純にエジルの過去数年分のスタッツを並べて、このことを指摘しようものなら、コメント欄は『でも』で溢れ、彼らは私にエジルのスタッツは勘違いしやすいのでもっときちんとしたデータを持ってくるようにという指摘で溢れてしまっていただろう。
だが、純然たる事実として、エジルはアーセナルでの直近の4119分で5アシストしか出来ていない。これは824分(9試合)あたり1アシストという数字で、これレートだと、仮にエジルがプレミアリーグ全試合90分出場したところで4アシストしか記録できないことになる。
だが一方で、エジルが毎年アーセナルでチーム1位のキーパス数を記録しているのも事実だ。それは今季も例外ではなく、昨季は45本、今季は31本のキーパスをここまで記録している。
エジルのアーセナルでの初シーズン(13/14)は76本のキーパスでチーム1位、14/15シーズンはアレクシスとカソルラに次いで3位だったものの69本、15/16シーズンには146本ものキーパスを記録し、16/17は100本、17/18は84本と15/16シーズン以外は常にチーム一位だ。
これは信じられないような記録だが、少しずつ衰えてきているようにも感じられる。
だが問題は、これがどれだけアーセナルの攻撃全体の衰退と関係性があるのか、という点だ。
記事の前半を読んでもらえるとわかるが、アーセナルは17/18シーズンから18/19シーズンにかけて、ファイナルサードへのパス数が27%減少している。エジルのパス数の減少割合も26%で、ほとんど同じだ。
したがって、より心配なのは、19/20シーズンにはアーセナルのファイナルサードへのパス数はさらに12%減少しているが、エジルのそれは35%も減少している(7.72から5本)という点だ。
サンプル数が少ないため確かなことは言えないが、他にも懸念すべきデータがいくつかある。
キーパスとアシスト期待値
キーパス数は選手の攻撃への関連を図るうえで悪くない指標だが、単純な数では、そのパスがどれくらい良いものだったか、どれくらい得点につながる可能性があるものだったかまでは測れない。
ゴール前から30mからの短いパスでミドルシュートにつながったようなケース(訳注: シュートにつながったパスはキーパスとカウントされる)ゴールエリア内で流し込むだけのゴールを演出する折り返しは区別されるべきだろう。
ここで役に立つ指標がアシスト期待値だが、悲しいかな、エジルの90分当たりのアシスト期待値も今季は非常に低いものとなっている。
とはいえ、アシスト期待値も時として誤解を招くスタッツではある。期待値系のスタッツの常として、チャンスの室による優劣がないため、得点につながる可能性が非常に低いパスやシュートでも数を多くこなせば結果として期待値は大きくなってしまうのだ。
したがって、クオリティの低いパスでも出し続ければ、アシスト期待値は高い値が出てしまうことがある。つまり、より正確なデータを得るためには、平均的な選手の一本のキーパスが、どれくらいのアシスト期待値を持っているかを核にする必要があるかもしれない。
現在リーグトップのキーパス数を誇るのはケビン・デブライネで、したがってアシスト期待値もリーグトップだろうと予想できるが、確かにその通りだ。
デブライネの数字は素晴らしく、1本のキーパス当たり0.16のアシスト期待値を記録している。彼のチームメイトのマフレズは0.19だ。
これはつまり、彼らが出すキーパスはほとんどビッグチャンス相当ということだ。アレクサンダー=アーノルドの数字も0.12と悪くなく、サラーは0.16、シルバも0.14だ。
一方でエジルのキーパス一本当たりのアシスト期待値は0.05しかなく、キーパス数ではチームトップに立っているかもしれないが、彼のキーパスはペナルティボックスの外側での横パスくらいの脅威しか作り出せていないということだ。
エジルが記録した今季31本のキーパス中、ビッグチャンスの数はゼロで、彼のアシストの数字が伸びていないのも納得だ。
その理由は?
記事の前半から、アーセナルの攻撃全体が不調であることが分かった。アーセナルはボールを前に進めること自体に苦戦しており、シュートも放てず、後ろでボールを回すことが多い。
したがって、エジルの衰えは部分的には説明がつく。アーセナルの攻撃はリーグ中位レベルなので、当然といえば当然だ。また、エジルは後ろに下がらざるを得ない状況に置かれていることも増えている。
2016/17シーズンのヒートマップと今季のものを比べると、エジルのプレイエリアが劇的に変化していることがわかる。
赤いゾーンがエジルの主なプレイエリアだ。相手のDF間にいることが最も多く、ここでボールを受け、相手が潰しに出てくればその裏のスペースを味方が活用することが出来る。
一方でこちらが今季のものだが、その違いは劇的だ。エジルはよりサイドに展開することが多く、また、ボールをもらいに低い位置に降りることを強いられている。これではチャンスが創出できないのも当然だ。
また、同時にラカゼットの今季のヒートマップも見てみよう。
ラカゼットは得点不足を批判されているが、彼がどれくらい多くセンターサークル付近でボールタッチをしているか見てほしい。これは異様な事態と言ってもよく、それは18/19シーズンのものと比べると明らかだ。
結論
これらのデータから、どのような結論を導き出すかは、読み手の皆さんに任せるが、これだけは言っておきたい。私はアーセナルの選手で嫌いな選手などいないし、アルテタがアーセナルをもとの場所に連れ戻してくれると信じている。
この記事は、インターネット上でマウントをとるために用いられるべきではなく、むしろ、今のアーセナルがどのような状況に置かれているのかを見つめ、ほとんど過去最悪と言ってもいい状態にあるということを認識してほしかっただけだ。
これが、アルテタの向かい合っている課題であり、この2年間でどこまでアーセナルが壊れてしまったかということだ。
またいつかアーセナルが、アーセン・ベンゲル時代に知られていたように、リーグで最高のアタッキングチームとして知られる日が来るのを楽しみにしている。
(Source: https://arseblog.news/2020/02/the-7amkickoff-index-mesut-ozils-stats-a-deep-dive/)
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません