アーセナルのこの夏の予算とお金の動きをSwissRamble氏が徹底解説!

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サッカークラブの財務/経営に関して語らせたら右に出る者はなしでお馴染みSwiss Ramble氏が、昨日ツイッター上でアーセナルのこの夏のお金の使い方に関して非常に興味深い内容を投稿していましたので、まとめつつ訳してみました!

物凄く専門的かつ面白い内容なので、SwissRambleさんはそろそろこういうのをツイッターでやるのではなく、ブログか何か開設して欲しいものです。笑

自分が財務上の知識があまりないので、専門用語の訳などは日本での慣習と一致しない場合もあるかもしれませんが、あしからず。

この夏の獲得と売却のまとめ

この夏の序盤、多くのメディアが、CL出場権を逃した結果、アーセナルの夏の予算は45M£(訳注: million punds=100万£、つまり1Mであれば今のレートだと1.3億円くらい)しかないと報じていた。しかし、この夏アーセナルは100Mをゆうに超える額を選手獲得に費やした。今回は、どうしてこのようなことが可能だったのかを見ていこう。

とはいえ、もちろんクラブ側がこの数字を事実だと認めたことは一度もなかった。アーセナルのディレクター、ヴェンカテシェムは『そのような数字は我々が発表したものではない。私たちが公に予算について話をすることは絶対にないよ。それは我々の移籍市場での動きを非常にやりにくくしてしまうからね』と語っていた。

まず、アーセナルのこの夏いくらを費やして選手を獲得し、売却からいくら得たのかを整理しておこう。(移籍金や給与に関しては、通貨換算レートなどの差のせいで報道により微妙に誤差はあるものの、以下の数字は今回の話に関しては特に問題ない程度には正確なはずだ。)

まず支出だが、アーセナルはこの夏8Mのボーナスを含め、143Mを選手獲得に費やした。

ペペ: 72M
サリバ: 27M
ティアニー: 25M
ルイス: 8M
マルティネッリ: 6M
セバージョス(レンタル代): 5M

そして、アーセナルは7Mのボーナスを含め64Mを選手売却から得た。

主要なものはイウォビの34M、ビエリクの10Mコシェルニーの5M、オスピナの3Mなどだが、他にも数人のユース選手の売却と、ベナセールの転売条項から4Mを得た。

『夏の予算』の色々な定義

私はよく、『アーセナルのこの夏の予算はいくらなのか?』という質問を受けるが、このような質問は実質的には答えるのは不可能だ。何故なら、『夏の予算』という言葉には多くの定義の仕方があるからである。以下に、考えうる10個の『移籍の予算』の定義を見ていこう。一つの数字でこれらすべてをカバーするのは難しいとわかるはずだ。

移籍金の総額(グロス支出)

多くのファンが恐らく直感的に最も理解しやすいのは、キャッシュの支払いの時期に関わらず、すべての移籍金の総額を見るやり方だ。だが、これでさえ、将来的なボーナスを含めるかどうかによって、今夏のアーセナルの支出は135Mあるいは143Mという2つの数字があることになる。

ネット(総計)支出

そして、また他によく聞くのがネットスペンド(net spend: 総計支出)、つまり、選手獲得に費やした額から、選手売却によって得た額を差し引きした額だ。この定義に従うと、ボーナスを含めるかどうか次第で、アーセナルはこの夏78-79Mを費やした、ということになる。

キャッシュ(現金)支出

だが、この夏アーセナルファンは、一括払いではなく分割払い、という支払いの方法を頻繁に耳にしたはずだ。メディアの報道といくらかの推測を含め、我々の推定では、この夏アーセナルが支払う実質的な額(=キャッシュ支出)は46Mだ。

その一方で、当然ながら、売却によって得る64Mもこの夏その全てが支払われるわけではない、推定では、アーセナルがこの夏手に入れるのはそのうちの23.5Mだ。

したがって、キャッシュの動きという点から見れば、先ほどと同じようにグロス(単なる支出額)とネット(売却益との総計額)に分けて考えれば、アーセナルのキャッシュ支出はグロスで46m、売却益と差し引きし合計したネットでは22.5Mということになる。

つまり、アーセナルがこの夏実際に支払ったキャッシュの額だけを見れば、46Mというのは事前に報道された45Mと非常に近い額だと言うことだ。

分割払いに関して

さらに重要なことに、この分割払いのおかげでアーセナルは限られた予算でペペのような選手を獲得することが出来た。

補足しておくと、そもそも移籍金の分割払いというのは特に目新しいものでは全くない。2017/18シーズン終了時の時点で、プレミアリーグの全クラブ分合計すると、未だに支払われていない移籍金は1500Mあり、アーセナルも移籍金の支払いをまだ100M残していた。(ユナイテッドがダントツのトップで、258Mという数字を記録しているが)

このようなケースでは、多くの場合売る側のクラブは第三者の金融会社に移籍金の受け取りの権利を売却することで、(若干手数料などで総額は減るものの)移籍金の総額を一括で手に入れることが多い。もちろんこのような場合、取引はサッカー界を離れることになるが、だがこのようなやり方は特に問題があるわけではない。

移籍金以外の支出

当然だが、選手獲得にかかる費用は移籍金だけではない。もちろん選手の給与も負担する必要があるからだ。したがって、『移籍予算』を考える際にはこの2つのファクターを両方考慮する必要がある。ジョシュ・クロエンケが言ったように『アーセナルはELのクラブなのにCLクラブの給与を抱えている』のだ。

私の推定では、この夏の獲得でアーセナルは週給50万£程度の給与を増額させることになり、これは年額に換算すると26Mだ。したがって、ルイスの2年契約以外は全員の新加入選手が5年契約という報道に照らして考えると、給与分のコストは93Mということになる。

(内訳としては、ペペ週給14万£、ルイス15万£、ティアニー7.5万£など)

だが、恐らくアーセナルはフリーとはいえラムジー、ウェルベック、チェフとリヒトシュタイナーを放出しており、これと移籍金と共に去っていた選手たちの給与総額を合わせると、週給70万£、1年あたり38Mの給与のカットに成功しているはずだ。

(内訳としては、ラムジー週給13万£、ウェルベック11万£、コシェルニー9万£、リヒトシュタイナー・イウォビ7万£など)

これらを合計すると

したがって、これらの移籍金と給与を合計すると、アーセナルはこの夏の移籍に関して、初年度の支出はグロスで71.1Mということになる(移籍金の今年の支払い分46M+給与1年分が25.7M)。だが、ネットで考えると、たったの10.5Mということになる(移籍金のネット支出が22.5Mのところに、12M分が給与から削減される)。

また、すべての総額という目線で見ると(つまり、移籍金と給与の年額×契約年の合計)、アーセナルは143M+93Mで236Mを支出することになるが、もちろん、この負担は放出による給与削減と移籍金収入で緩和されることになる。

会計上の扱い

また、話はより複雑になるが、クラブの収入や支出の会計上の扱いは、これらのどれとも異なる。鍵となるのは、『移籍金の支出は契約年数で割った分が毎年計上されるが、選手売却から得た利益は一括で即座に計上することが出来る』という点だ。

単純に言えば、会計上は、サッカークラブは選手を資産(アセット)としてみなすため、その調達費用(=移籍金)を選手を獲得した年にすべて一括で計上する必要がないのだ。そうではなく、償却(amortisation: 減価償却とほとんど同じだが、機械などではなく無形資産に用いられる)を通して、契約満了まで、毎年、移籍金÷契約年数が支出として計上されていくのだ。(注: これは実際に移籍金がいつ支払われたかとは無関係なので、分割払いか一括払いかなどとは関係がない。)

例えば、ペペは72Mで5年契約での獲得となったため、毎年の償却費は14.4Mということになる(=72M÷5)。つまり、会計処理上は、ペペの簿価は最初に72Mとして計上され、毎年14.4Mごとに減少していく。したがって、3年後にはその価値は43M減少し、29Mになるということだ。

もし仮にこの時点でペペが100Mで売却されたとすれば、会計的目線で見るとペペの売却によって上げられる利益は71Mということになる。つまり、ペペの簿価29Mを71M上回る額で売却になった、ということだ。

別の見方をすれば、100Mは獲得時の移籍金72Mを28M上回っており、ここに、既に支出として計上した43Mの3年分のペペの償却費を上乗せして利益とすることが出来る、ということだ。

第10の定義

したがって、会計的にはこの夏の取引がアーセナルの経営に与える影響は比較的少ないと言える。今季の獲得によりアーセナルの1年あたりの支出は54M(償却費28M+給与26M)増加したが、売却により45M(償却費7M+給与38M)を浮かすことが出来、またこれは57Mの選手売却による利益で楽にカバーすることが出来る。

そして、これこそが10番目の”移籍予算”の定義で、上に書いた通り、この夏の獲得が会計上アーセナルに与えるインパクト、という意味では償却費28M+給与26Mの合計である54Mということになる。

まとめ

つまり、私が何が言いたいのかというと、 移籍に費やせる予算を定義するやり方は 、このように数多くあり、そのそれぞれが目的や環境に応じて意味を持つ、ということだ。同時に、メディアが”夏の移籍予算”の金額を報道する際には、少しばかり注意してかからないといけない、ということでもある。

では、このうちのどの見方が最も意味があるものなのだろうか?

報道された数字と最も近かったのは46Mのキャッシュ支出額ではあるが、この一致は単なる偶然、という可能性ももちろんある。

ジョシュ・クロエンケはインタビューで”ワクワクするような”移籍市場になるだろうと語り、その通りアーセナルは事前の予想よりも高額を費やし移籍市場で大きな動きを見せた。

アーセナルがこのようなアクロバティックなお金の使い方をするようになったのは、経営陣が以前ほど保守的ではないキャッシュの使い方を許可し始めた、というのが背景にあるように思われる。過去には、アーセナルは将来の支払いを全てカバーできるだけのキャッシュを貯蓄しておきたがる傾向にあったが、それは流石に慎重すぎるというものだ。

何にせよ、アーセナルにとってこの夏は近年まれにみるほど興味深い移籍市場だった。それは、ピッチ上で選手が与える影響だけではなく、アーセナルの会計上での影響という意味でも同じだ。

(Source: @swissramble)

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