アーセナルはここからどこへ向かうのか-山積する課題 前編
先日のビジャレアル相手の敗退でアーセナルのヨーロッパリーグは終わり、まだ4試合を残しているが、来季のヨーロッパコンペティションの出場権は残り試合を全勝した上でトッテナムとエヴァートンの躓き待ち、という非常に厳しい状況で25年ぶりの欧州大会出場権なしが現実味を帯びてきている。
アーセン・ベンゲル時代終盤やエメリ体制の後半には何度も『アーセン・ベンゲルがアーセナルの監督に就任して以来最悪』などといったスタッツが飛び込んできたが、最近はアーセン・ベンゲル以来どころか、アーセナル史上ワースト記録であったり、ここ50年で初めて、など記録というか不調の桁が1つ上がってしまった印象だ。
少し大げさな言い方をすれば、向こう1,2年のアーセナルはジョージ・グレアムとアーセン・ベンゲルが残したビッグクラブとしてのアーセナルのステータスを食いつぶさないうちに再びEL・CL出場権を手にし、その資金とブランドをクラブを立て直すことが出来るのか、大きな岐路に立たされている。
かつてほどではないとはいえ、未だにアーセナルと言えば美しいサッカー、若手が素晴らしい魅力的なクラブ、というイメージは多少は残っているだろう(もしかすると、これも今のアーセナルファンのひいき目かもしれないが)。だが今の状況が3年、5年と続いていけば、もう若手選手などはアーセナルと言えばイングランド中位のクラブ、というイメージを思い浮かべるような時代が来てしまうかもしれない。既に現在の日本のアーセナルファンにはアーセナルがチャンピオンズリーグに出場しているのを見たことがない、という世代も増えているはずだし、英国のユース選手たちも、アーセナルのリーグ優勝は記憶にない、という世代にどんどん切り替わっているはずだ。
とはいえ、The show must go onというやつで、それでもアーセナルは何とか前に進む道筋を見つけ出さなくてはならないわけだが、何がアーセナルを今の状況に追いやったのだろうか?今後に向けてどのような課題を解消していく必要があるのか、今回は考察していこう。
少しだけネタバレすると、結論としてはほぼ全部、ということになるのだが。
オーナー
アーセナルの抱える問題のいくつかは非常に根深いもので、その多くがオーナーの交代に起因するものであることは間違いない。
もちろん彼らが直接的にピッチ内の事象に干渉するようなことはないはずだが、部下の責任は上司が負うもので、選手をピッチに送り出すのが監督なのだから、最終的にはその責任は監督にある、という理屈なら、その監督を選び、監督を選ぶ人材を任命するのがオーナーなのだから、最終的には辿っていけばKSEの責任という事になるだろう。
KSEの買収当時アーセナルはアーセン・ベンゲルというまるで魔術師のような監督を抱えており、オーナーが何もせずとも、全てを彼に預けておけば多少戦力に不安があっても魔法のようにタイトル争いに少しは絡み、CL出場権を獲得してくれた、という意味ではスタン・クロエンケは非常に幸運だったと言える。
だが、アーセン・ベンゲルの神通力に頼り切りで、その間にイングランドサッカーの文化や環境を学び、戦略を策定する、あるいは少なくともクラブの運営戦略を策定できるような人材を選ぶ目を養わなかったことの付けをこの数年間で手厳しく支払わされている。
ベンゲル監督退任後メディアに出ていた情報を見るに、僕は個人的には、ベンゲル時代、オーナーがベンゲル監督に資金を出来るだけ使わないように要求した、というよりも、どちらかというとベンゲル監督が行間を読むというのか、空気を読むというのか、といった形で自然とオーナーの意向を慮るような形で資金を求めなかったのではないか、と考えているのだが、もし彼らがオーナーに就任してから数年の間にきちんとベンゲル監督をサポートできる体制、もっと具体帝に言うのであれば、ベンゲル監督にきちんと進言できるような専門性のある人材を揃えられていたら、今のアーセナルは全く違うことになっていたに違いない。
クロエンケは全くアーセナルのことなど気にかけていない、というのはよく言われることではあるが、厳密にはそれは事実ではないだろう。彼は多くのスポーツクラブを保有するビジネスマンだし、アーセナルに悲願のタイトルを、などとは考えていないだろうが、アーセナルが中位に沈みクラブの市場価値がどんどん下落していくのはクロエンケにとっても好ましい状況ではないはずだ。
ただ彼は、前述のベンゲル監督時代のうちにポストベンゲル体制の準備が整えられなかったことに加え、Tim Stillman氏も指摘の通り、クラブ運営における重要な場面で誤った決断を下すところが目立っている。
ポストベンゲル体制の構築をイヴァン・ガジディスに一任した結果、ガジディス・ミスリンタート・サンジェイの体制は即座に崩れ去り、当人のガジディスすらアーセナルから去ってしまったし、その際に彼の後任のサンジェイをフットボール長に任命するにあたって、当然行われるべき熟慮やデューデリジェンスが行われた形跡は全くなかった。
単にガジディスの推薦に基づいてサンジェイをその座に据えただけで、最終的にクロエンケは自身の代わりとなる弁護士を取締役会に送り込み、調査を行ってサンジェイを解任しなくてはならなくなった。
年商500億円を超える規模の企業でこのような人事が行われるというのは杜撰という他ない。
また、もちろんまだ最終的な結果は出ていないが、アルテタをManagerにするという決断が賢かったとは言い難いし、細かい点も含めればオーナーが運営面で改善しなくてはならない点は数えきれないほどある。
ただし、問題はオーナーは自分自身がクラブを手放すことを決断しない限り、どれほど運営がマズかったとしても、絶対に解任されない、という点だ。
したがって、どれほどオーナーの姿勢や運営の問題を挙げた所で、これらが改善されるかどうかは結局クロエンケの気分次第、ということになる。
(続きます)
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