【戦術コラム】FA杯優勝をもたらしたアルテタアーセナルの柔軟性 後編
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マンツーマン気味にプレイする際のもう一つのリスクが、陣形がいとも簡単に乱れてしまうことだ。だがアーセナルはむしろこれを活かし、チェルシーのハイプレスを制限した。
ジャカが試合序盤でマウントにボールを奪われ失点につながりそうだった場面があったが、それ以降マウントはアーセナル陣の中央でプレスをかけることはほとんどなかった。アーセナルがボール保持時の布陣を変え、ティアニーのポジションによって、彼がサイドに引っ張り出されることが増えたからだ。
アルテタの布陣を一般的なフォーメーションで定義するのは難しいと記事の最初で述べたが、ウェンブリーでの試合もその好例となり、マウントをサイドのティアニーについていかせることで、深い位置からのビルドアップはほとんど通常の4バックのように行われた。
これに関しては、ペップ・グアルディオラの影響が明確に見て取れる。アーセナルは試合中にフォーメーションを柔軟に変更するのが上手くなりつつあり、特にティアニーやメイトランド=ナイルズというポジション面で融通が利く選手のおかげで、これを選手交代なしで行えるようになっているのだ。
既存のフォーメーションに拘らないことでアーセナルはチェルシーを縦横共に引き延ばすことに成功した。
この試合でアーセナルはロングボールを放つ前に出来るだけチェルシーの選手たちを自陣に集めることを狙っていたのは明らかだった。特に、ナイルズとオーバメヤンでアスピリクエタと攻撃的なWBのリース・ジェームズのサイドを狙っていた。
前半にはこの戦術は何度か成功し、PK獲得につながったのもそのうちの一つだった。
2:00 – ティアニーからナイルズへ、オーバメヤンがヘッドを外す
10:24 – ルイスからナイルズへ、ペペにわたりコーナー
18:05 – ペペからナイルズへ、ボックス内でボールロスト
25:15 – ティアニーからオーバメヤンへ PK
34:55 – ティアニーからオーバメヤンへ パスミス
40:17 – ティアニーからナイルズへ、ペペのクロスにつながる
主な例だけでもこれだけの数があった。そして、ティアニーのパス能力に関して言えば、下の場面でのペペへのパスはとんでもなくゴージャスだった。これに関しては分析を行うつもりはない、単に読者の皆さんにこの美しさを感じてほしいだけだ。
それはともかく、チェルシーのハイプレスに対してこれらのロングボールは非常に効果的だった。また同時に、後ろからショートパスでつないでいくリスクを軽減するという意味合いも含んでいた。
また、ティアニーがマウントをつり出したとはいえ、その後ろではどちらにしろチェルシーと1対1のマッチアップを作られていたが、アーセナルはGKのエミ・マルティネスを有効に活用することで数的優位を作り出せていた。
ハイプレスを行ってくる相手に対してボール保持にGKを参加させるのはお決まりの手段で、ジャカとセバージョスも下がって組み立てに参加していた際に、チェルシー側はプレスを続けるか、アーセナルに自由にボールをつながせるかの選択を強いられることになった。
結果として彼らはプレスを続けたが、下の画像でコバチッチとジョルジーニョがどれほど高い位置まで来ているかを見てほしい。だがアーセナルは彼らをかわし、ペペとナイルズがその内側のスペースを活用することが出来た。
ちなみに、上述の通り、画像外で左に張っているティアニーについて言っているためマウントはこの画像に映っておらず、中でのプレスには参加できていない。
ペペが中に入ってくることで、アーセナルの数的優位を作り出し、チェルシー側はDFを60mほど上がらせてまでペペのマークにつくリスクを冒すべきか悩むことになる。
この画像のケースでは結果的に、逆側でプリシッチとマウントが行っていたように相手陣前でフリーになり、おう少しでナイルズへのチャンスを演出するところだった。
また、ボールが逆サイドにある際には、しばしばナイルズが中に入るような動きを見せていた。基本的には中に入るのはティアニーであることの方が多かったが、下の例でみられるように、オーバメヤンが外に張り付いてリース・ジェームズを引き付け、ナイルズが中に入ることでオーバメヤンかナイルズどちらかをフリーにせざるを得ない状況を作り出す場面もあった。
また、同じような状況はこれよりも高い位置でも起こっていた。ティアニーがジャカとセバージョスの前に位置したような形の中盤の状態で、ナイルズはアーセナルの最前線に組み込まれ、前の4人だけでピッチの横幅をフルに使い、チェルシーの守備陣が前に出てくることを阻むことが出来ていた。
オーバメヤンのスピードを相手に警戒させるために外に彼をキープするゲームプランは非常にうまくいった。PK獲得ももちろんだし、後半の得点もそうだ。
新聞の見出しをかっさらったのは我らがキャプテンだったが、私個人としては、戦術的な目線で際立っていたのはティアニーだった。守備時に彼がチェルシーの脅威に柔軟に対応したことで試合の流れが変わった。
また、ボール保持時外でボールを受けてチェルシーを引き延ばすと、ロングパスでボールを前に進めることにも成功し、一人二役をこなしていた。
ウェンブリーの試合では二人の監督が3-4-3を採用したが、相手に上手く適応し、弱みをつけたのはアーセナルだけだった。その結果、ミケル・アルテタは監督就任からたったの28試合で初タイトルを獲得したのだ。
これが数多くのトロフィーの最初の一つとなることを願おうではないか。
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コメント一覧
アンチェロッティのナポリのリバプール戦みたいに
相手に合わせてゲームプランを遂行できていて見てて楽しい