【戦術コラム】FA杯優勝をもたらしたアルテタアーセナルの柔軟性 前編
従来のポジションにとらわれず、よりフレキシブルで役割間の入れ替えが多いスタイルを学ぶのは、なかなかに複雑な作業だ。
土曜日のアーセナルのFA杯決勝の勝利は、単に素晴らしい結果だっただけではなく、選手がアルテタのコンセプトについてき始めたという最も明確な証だったかもしれない。
少なくとも、彼らがスタート地点に立ったのは間違いない。
ボール非保持時の布陣として、アルテタは最近慣れ親しんでいた3-4-3を選択した。アルテタのフォーメーションを分析するのは少しずつ難解になってきつつあるが、今回もその例外ではない。
チェルシーも3-4-3で試合に臨み、プリシッチとマウントがジルーの後ろで自由にプレイするような形だった。だが、アーセナルの方が遥かに流動的なフォーメーションだったといえる。
アルテタのチェルシーへの対応策と、それに対応しきれなかったランパードの差が、アーセナルにトロフィーをもたらした。
試合の序盤では、チェルシーのフロント3がアーセナルに手を焼かせていた。ハイプレスをかけるアーセナルはセバージョスとジャカがそれぞれコバチッチとジョルジーニョをマンマークする形をとっていた。
それまでの試合ではラカゼットが中盤の選手のマンマークを行うことが多かったが、チェルシーも3バックでミラーマッチとなったことで、ビルドアップ時にはアーセナルの3トップは相手の3人のCBとマッチアップすることになった。
アーセナルの主な問題点はその後ろで、マウントとプリシッチがアーセナルのバックラインと中盤の間に入り込むことで起きた。彼らはフリーでボールを受け、アーセナルDF達を窮地に陥れた。
その結果、クリスティアン・プリシッチに上手くやられ、アーセナルはすぐに失点してしまった。プリシッチがボールを受けた際に、ティアニーとホールディングは彼に向っていこうとすらせず、ホールディングは(下の画像の丸)そこでは必要とされていないにもかかわらず、ルイスの横に戻ることを優先してしまった。
だが、アーセナルはここからよく対応し、いくつかの変更を行った。まず、ジョルジーニョとコバチッチにより強めのプレッシャーをかけることで彼らに前を向かれないよう心掛けた。
そして、さらに重要だったのは、2人のサイドのCB、特にティアニーが相手タイトにくっつくような形で対応しプレスを助け、前のスペースをふさぐようなプレイを見せ始めたことだ。
これにより、チェルシーは中盤の中央で自由にプレイすることは出来なくなり、失点から教訓を得たティアニーはアグレッシブだったが、同時に相手に簡単にかわされるようなことはなかった。
下の画像は失点数分後の時点だが、チェルシーがリードこそしていたものの、試合序盤ほど自由にボールを持てていないのがわかる。
ティアニーは極端とさえいえる程度にまでこのタスクを遂行し、バックラインを飛び出してマウントについていくだけではなく、ナイルズと比較しても、遥かに高い位置をとることがあり、陣形をコンパクトに保つためにダニ・セバージョスと並んだ際にはMFのような位置にいることもあった。
彼ほどのアグレッシブさはなかったが、ホールディングも相手にタイトに張り付くようになっており、チームとして何らかの方針の変更があったとみてよい。この時間帯にチェルシーに試合を支配されてはならず、よりアグレッシブに相手についていく、というのは共通理解だったのだろう。
実際、フォーメーション上はCBだったティアニーが後ろに4,5人のアーセナル選手を置いたまま前に出て相手を負いに行く場面も何度かあり、このアグレッシブさと規律のバランスをうまくとったアプローチに、チェルシーは得点後10分間枠内シュートを一本も打てなかった。
ティアニーの方がポジション面でのミスをカバーできるスピードを備えているためより明確に違いが分かったが、ホールディングもまた、より高い位置までカバーしようと心掛けていたことは評価されるべきだろう。
もちろんマンツーマンの意識を強く持ちすぎることにはリスクもあり、選手たちが一対一のバトルに敗れてしまうようだと、その代償は高くつくこともある。プリシッチやペドロがホールディングを翻弄していた場面を見ればそれは明らかだろう。 プリシッチがゴールに迫った際には彼がハムストリングの怪我をしたことで辛くもアーセナルは難を逃れたが。
(後編に続きます)
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