ルイス獲得にかかった費用の詳細から明らかになったサンジェイ体制とキア・ジューラブシャンとの関係性の問題点
高すぎる代理人手数料
先日、スカイスポーツがダビド・ルイスとアーセナルの契約が実は1年契約で、アーセナルはまだ契約延長オプションを行使しておらず、この夏退団の可能性がある、と報じた。これだけでも十分に驚きだったが、それに続く形で、The Athleticのエイミー・ローレンス氏が驚きの記事を発表した。
なんと、アーセナルはルイスとこの1年の契約を結ぶためだけにアーセナルは移籍金に8m£、ボーナス等も含めた年俸に10m£、そして破格の移籍金手数料6m£を合わせ、24m£もの大金支払ったというものだ。
あまりに高すぎるともうずっと言われ続けているエジルの年俸ですら18m£であり、これが選手を一年クラブでプレイさせるために支払う対価としてどれほど高いかがわかる。
通常の場合であれば、代理人手数料の相場は多くとも年俸の10%程度までとされており、ルイスのケースでは1m£が妥当ということになるが、6m£といのはなんとその6倍だ。
毎年プレミアリーグがクラブごとに代理人に支払った移籍金手数料の総額を発表しているのだが、2018シーズンは夏・冬合わせてアーセナルは約11m£だった。トレイラ・リヒトシュタイナー・ゲンドゥージ・ソクラティス・レノ・デニス・スアレスらの獲得全員分に必要とされた代理人手数料の半分をルイス一人分に支払うというのがいかにとんでもないことなのかがわかる。
注意したいのは、当然ながら、だからといってルイスの獲得が失敗だった、とは限らないことだ。コシェルニーの退団のタイミング的に急遽穴埋めが必要だったアーセナルにとって致し方ない出費だった、という主張は必ずしも的外れとは限らない。
ただ、例えば噂に上がっているアクセル・ディサシの移籍金が20m£だとして、週給10万ポンド£を支払っても5m£、ここに0.5m£の代理人手数料が加わっても総額26m£程度で収まることを考えると、賢い資金の使い道だったのかは大いに疑問の余地がある。
道義的な問題
ただ、より問題なのは、サンジェイがアーセナルの資金を用いて、見方によってはアーセナルよりもサンジェイ自身を利するためとすらとれる取引を連発している、という点だろう。
いわゆるスーパーエージェントをうまく活用し、魑魅魍魎の闊歩するサッカー界で有利に立ち回れるように取り計らう、というのはある程度必要かもしれないし、代理人主導の移籍を全面的に否定するつもりはないが、特にミスリンタートがアーセナルを去って以来、キア・ジューラブシャンやジョルジュ・メンデスといった代理人がかかわる案件があまりに多すぎる。
ベンゲル監督がトップにいた時代と比べ、明らかに健全性を欠いていると言わざるを得ない。
ミスリンタートが去って以降のアーセナルの選手獲得を見てみよう。(独断と偏見で、人脈がものを言った/代理人手数料が高そうな獲得とそうでもなさそうな獲得に分けてある。セバージョスに関してだけは、スペイン方面からの獲得ということで怪しいが、代理人案件という確証はないので真ん中に置いた。)
マルティネッリ
サリバ
ティアニー
ダニ・セバージョス
デニス・スアレス(ミスリンタート退団の契機となったとされている)
ぺペ
ダビド・ルイス
パブロ・マリ
セドリック・ソアレス
デニス・スアレスは古巣バルセロナからの獲得だし、ペペはジョルジュ・メンデスに仲介を依頼している。ルイスとソアレスはジューラブシャンの案件で、パブロ・マリはネイマール獲得時からサンジェイの腹心の部下とされるカナレスという代理人の顧客だ。
今季アーセナルが代理人手数料にいくら支払ったかはまだ公表されていないが、恐らく来季の11m£の倍は超えているのではないだろうか。注意深く発表を待ちたいところだ。
これの何が問題かというと、代理人に手数料を支払い恩を売ることで、得をするのはアーセナルではなくラウール・サンジェイ個人だということである。
一時期スールシャールが監督の立場を利用して自身のポケットにお金が入るような獲得をしていると批判されていたが、それと似ている。
サンジェイがアーセナルのトップでいる間は、これらの代理人に支払った額相応の見返りをいずれ得ることができるかもしれないが、もしディレクターが交代するようなことになれば、これらの関係は一瞬にして終了するだろう。代理人たちは、これはあくまでサンジェイへの恩だと考えているはずだ。
サンジェイが去った後も、以前アーセナルには良くしてもらったので、といって優良な案件を優遇してくれるとは思えない。
まとめ: これらの獲得を正当化できるのか
サンジェイやスールシャールと(一部の)代理人との蜜月関係は周知の事実であり、ここまで露骨に入札側と支払い側の関係が親密であれば、サッカー界以外の業界であれば明らかに問題となる、あるいは法律に触れることすらあるだろう。
ルイスの1年契約+契約延長オプションという形態の契約で恐らくある程度の額がさらに代理人に支払われるのも不可解だと言わざるを得ない。
ただもちろん『サッカー界はそういう世界なのだ』『こういった手段をうまく活用したクラブが良い成績を収める』といった見方にも一理ある。
事実、昨季リバプールはアーセナルの11mが可愛く見える衝撃の43m£を代理人手数料に支払っている。そして、リバプールのピッチ上での成績は誰もが知る通りだ。(もちろんジョルジュ・メンデスとバレンシアのように、代理人との関係性がピッチ上での低迷につながった例もあるが)
したがって、これらの代理人への支払いがスポーツ面でのメリットにつながるのであれば、致し方なし、ということもできるかもしれない。
ただ、ここまでペペ(もちろん今後次第だが)とルイスに関しては悪くない、程度、デニス・スアレスとセドリック・ソアレス(そもそも怪我をしているのだから夏にフリーでの獲得を目指せばよかった)は大失敗、マリはCOVID-19のせいで不明、とこれらの獲得でアーセナルが大幅に得をしているようには思えない。
今後もラウール・サンジェイがスーパーエージェントを活用した選手獲得をアーセナルで続けるのであれば、これが本当にクラブの有効な強化につながるということを、ピッチ上での結果で示してほしいものだ。
ディスカッション
コメント一覧
大変貴重なご指摘。私自身近年のアーセナルに抱いていた疑問点の大方を暴いていると思われます。ベンゲルは可能な限り代理人を排除して商売してきましたが、こうなってしまった。ルイスの代理人は今も忙しく働いてますが、もう十分。こんな奴らとつるむならつぶれた方がいい。ただ私はまだアーセナルを信じています。っていうか最後のあがきじゃないでしょうか、代理人たちの。サンジェス氏も当然道ずれにして。コロナ後、サッカーと牛肉以外売るものがない国々に、世界はかまってる暇はない。
資本主義の競争原理ですからアメリカのプロスポーツみたいに代理人を止めることはできないでしょうね
どう付き合っていくかだと思うんですよ
リバプールの手数料に目がいきがちですが、代理人ではなくクラブがイニシアチブを持って、ここぞの時に活用した結果ですから
それすら成功し続ける訳ではないでしょうが
アーセナルの問題は、クラブの価値観にそぐわない人間に権力が集中してやりたい放題できる構図だと思います
意外と短命に終わるか、GM置いて下働きに集中させることになるのではないでしょうか