【アーセナル新加入】スカウトレポート: マルティン・ズビメンディ

分析Phil Costa,海外記事

何年もの間、マルティン・スビメンディをサン・セバスティアンの地から引き抜くのは不可能ではないかと思われてきた。

彼はドノスティア(サン・セバスティアンのバスク語名)で生まれ育ち、生涯その湿った気候の中で静かに生活をするのもも厭わないような人物だ。そして、この地域ではそれは珍しいことではない。

だが、これまで彼を外の土地へと招こうという試みは何度か行われてきた。

最初にアプローチを拒否されたのはバルセロナで、その後、アーセナル、レアル・マドリードと続き、昨夏にはリヴァプールが契約解除金6000万ユーロを全額支払うことで合意に至ったが、最終的に本人が移籍を断った。

しかし、236試合出場、1万8000分近いプレー時間をレアル・ソシエダで過ごしたズビメンディだが、ついに新たな挑戦が必要であること、そしてレアル・ソシエダというクラブ自体が監督とスポーツディレクターの退任に伴って再建期にあることを理解し、アーセナルへの加入に合意した。

彼は、名高いズビエタ・アカデミー出身選手として、34年ぶりにチャンピオンズリーグ出場とタイトルを勝ち取ったという功績とともに、クラブの祝福と共にこの地を旅立つ。

ズビメンディのプレースタイル

では、スビメンディは実際にどのようなプレーを見せるのだろうか。

彼はレアル・ソシエダでは典型的な6番として、一人で中盤の底を担った。最終ラインの前に位置し、彼らの盾となると同時に、ビルドアップ時にも重要な役割を果たした。

スビメンディは、1試合で110本のパスを95%の成功率で捌くような中盤の司令塔でもなければ、ハードに走り回ってボールを刈り取るボールハンターでもない。むしろ、その両者を兼ね備えたハイブリッド型の選手だ。

ソシエダのスタイルの影響もあり(今季は苦しいシーズンでもあったため、これもデータに影響を与えている)、彼は時に粗削りに見えることもあるが、実際には前線の選手がカウンター時に走り込めるスペースへワンタッチでボールを浮かせるようなプレーもよく見られる。

もちろん、だからと言って彼がじっくりとボールを持った際のプレイを苦手とするというわけではない。

SkillCornerのデータによれば、スビメンディは昨季のラ・リーガにおいてラインブレイクパスの本数でリーグ2位(141本)を記録し、バルセロナのペドリ(163本)に次ぐ数字を残した。また、プログレッシブパスの本数でもMFとしてはリーグ5位だった。

彼は他のMFほど、パスやボールタッチ数が多いわけではないため、近い距離間でのプレイを分析するのは少し難しいかもしれない。

だがスビメンディは、センターバックの間に落ちたり、横に動いたりして、プレッシャーを受ける味方への逃げ道を作るようなプレイを得意としており、ワンタッチでボールを捌いて再びポジションを調整するようなプレイをよく見せる。

また、彼のパスが100%成功する、という訳ではないが、素早く縦にプレーしようという意識が強く、両足で自信を持ってボールを扱うタイプの選手だ。これは、アーセナルが横パスばかりで前に進められない、のような事態に陥ることを防いでくれるだろう。

彼はオウンサードからボールを運ぶプレーにも慣れており、鋭いターンと加速力で相手をかわすことができる。FBrefによると、ドリブル成功率は68%で、これは現在のアーセナルのどのMFよりも高く、欧州5大リーグ全体でも上位7%に入っている。

ズビメンディの強み

私が思うに、スビメンディの一番の魅力はは「サッカーの基本」を深く理解しているところにある。

彼の身体の向き、どこでボールを受けるか、味方にどうパスを出すかからは、明確な意図が感じられる。

どこに立つべきか、いつプレーを速めるか、いつ縦に入れるか、パスのスピードと強さはどうすべきか、試合の展開や相手に応じて自分が影響力を発揮すべき位置はどこか、そうした細かなニュアンスも彼のプレーには含まれている。

これは、アーセナルの戦術に多くの可能性をもたらしてくれるだろう。昨季のアーセナルではトーマス・パーティやジョルジーニョがフォーメーション上はアンカーを務めたが、実際のアーセナルはビルドアップをサポートするために、左SBが内側に入ったり、ライスやウーデゴールが下がったりといった形が多い。

ズビメンディは、単独のアンカーとして申し分なくプレイできる。クラブでも代表でもその役割を担ってきており、彼が居れば他の選手はより前方へ出て、相手に脅威を与えやすいエリアでのプレイに集中することができるはずだ。

また、ライスとダブルボランチを形成してプレイする可能性もあるだろう。ライスは守備面でのズビメンディのサポートをほとんど必要としないはずで、その持ち味である相手へのプレッシャー、セカンドボールの回収、相手の出口を封じる守備をこなすことができる。

仮にそれでも相手が中盤を突破する方法を見つけ出したとしても、そこに待っているのはサリバとガブリエルの両CBだ。

スビメンディ自身も、チャンスがあれば自陣を飛び出して前線のプレッシングに加わり、高い位置でのボール奪取を狙うことができる。

守備面でズビメンディは秀でた点が多く、特に試合の読みが優れている。

多くの人は、アンカーの選手を「火消し役」として捉えがちだが、スビメンディはそもそもその「火事」を起こさせないタイプの選手だ。

彼はポジショニングの意識が非常に高く、常にピッチ全体を見渡し、味方の立ち位置を把握して、次に必要となるであろうものを先読みしている。

彼は積極的にボールを奪いに飛び込むというよりも、持ち場を守りながら体の微妙な動きでパスコースを遮断し、相手を特定のプレイに誘導するのが得意なタイプの選手だ。

まず相手を密集地帯やタッチライン際に誘導し、そこで初めて獰猛にボールにアタックするのだ。

昨季のソシエダでスビメンディより多くタックルを成功させたのはアランブル(103回)のみで、スビメンディは73回を記録し、インターセプトは44回でチーム最多だった。これは彼が必要があれば激しく、かつ的確にボールにチャレンジできる能力を持っていることを示している。

彼はタイミングを計るのが上手いため1対1でもクリーンなコンタクトで、相手ごと吹き飛ばすのではなく、狙い澄ましてボールだけを奪う。

懸念点とまとめ

運動能力に関しても問題があるというわけではないが、プレミアリーグの激しさと強度に彼がどう適応するかは注目すべき点ではあるだろう。

今のアーセナルはボールを保持することが多いチームではあるが、被カウンターの局面が多くなってしまうと、、彼が孤立しやすくなったり、スピードの限界が露呈する場面があるかもしれない。

選手の多くがそうであるように、ズビメンディは前への加速は速いが、後ろ向きのスプリントはそこまで得意ではなく、ピッチ上に陣形が押し広げられている際にはカバーしきれないこともあるだろう。

また、スビメンディの身長は183cm程度だが、スペインでは空中戦では圧倒的な強さを誇り、ソシエダでデビューしてから6シーズン、ラ・リーガで空中戦に250回以上関与したMFの中で最高の勝率(67%)を記録している。

これはアーセナルのセットプレイコーチのジョヴェルにとっては嬉しい報せだろう。

彼はアーセナルの中盤の待望の新戦力だが、ズビメンディに対する懸念の声も上がっている。

スビメンディは明確な「試合を決める力」を備えたタイプではないし、スタッツ面でも突出しているわけではないため、彼はチームの中心的なMFとして、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ制覇を現実にする存在になれるのか?と抱く人もいるだろう。

もちろん、彼がその役割を果たせず、トップレベルでの要求に応えられないとい可能性もあり得る。

だが、私がいつも思い出すのは、2024年7月のEURO決勝で、ロドリが下がり、スビメンディが代わりに投入された場面だ。

多くのイングランドのファンが喜んだが、我々は、スビメンディが執拗にコール・パーマーを追いかけてボールを奪い取ったり、中盤でジュード・ベリンガムを振り切ってオヤルサバルにチャンスを生み出した場面を目撃することとなった。

この試合の終盤にも、彼の良い判断によってオリー・ワトキンスのシュートをブロックする位置に入った場面があった(その時点で試合はまだ同点だった)。このような大舞台で途中出場でも、試合のテンポに圧倒されず、自分の存在感を発揮したのは見事だった。

そして、その彼がアーセナルが獲得した選手なのだ。

彼は典型的なファンよりも『選手に愛される』選手だ。

基礎的なプレーや立ち位置について心配する必要がないので監督たちが安心して送り出すことができ、かつたいていの場合に監督が望む通りのことをきちんと行ってくれる。


だからこそ、スペイン代表監督ルイス・デ・ラ・フエンテは彼を「間違いのない選手」と呼び、「求めたことはすべてやってくれる」と評価している。

それゆえに、レアル・ソシエダ監督イマノル・アルグアシルは彼を「ほぼ代えが利かない存在」と語り、バルセロナ時代に獲得を試みたスペインのレジェンド、シャビは彼を「ボールの有無にかかわらず試合を掌握できる選手」と評した。

ズビメンディは世代交代を必要としていたアーセナルの中盤に必要なインテンシティ、反発力、半打力の三つをもたらしてくれるだろう。

幸いなことに、今のアーセナルは彼の故郷との繋がりが多く、移籍初期の適応を助けてくれるだろう。

ズビメンディは、アーセナルを本来あるべき場所へと導く足がかりになってくれるに違いない。

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Posted by gern3137