チャーリー・パティーノの移籍が浮き彫りにするトップチーム台頭の難しさ
チャーリー・パティーノが1m£の移籍金でデポルティーボ・ラコルーニャ移籍に近づいていると報じられている。
ミラー紙テイラー記者によると、アーセナルはデポルティボ・ラコルーニャと1m£+再売却条項という条件で、チャーリー・パティーノの移籍に関して合意したそうです https://t.co/ELlA7mDR0k
— 山中拓磨(Takuma Yamanaka) (@gern3137) August 21, 2024
この金額を低すぎると感じるファンもいるかもしれない。確かにイングランドの基準ではその通りではないかもしれないが、スペイン2部のクラブへの移籍であることを考えると、まだトップレベルでは未知数の若手に対する金額としてはそこまで市場のスタンダードから外れた額というわけでもないだろう。
パティーノはユースレベルでは最も将来を嘱望された若手の一人だった。ブラックバーンとスウォンジーへの二回のローン移籍ではそれなりにプレイ機会を得たが、そこまで圧倒的なパフォーマンスというわけでもなく、昨季のシーズン後半はスウォンジーでほとんどプレイ時間を得られなかった。
そして今夏、まだトップチームのプレイヤーたちがチームに合流しておらず、多くのユース選手がプレシーズンに帯同した状況でもパティーノがプレイすることはなく、恐らくこの時点で移籍が決定的となっていたのだろう。
サッカー界では、時として、再び進み始めるために力をためる時間が必要なこともある。彼の父親がスペインのデポルティーボ・ラコルーニャの本拠地に近い町の出身であることも影響したのだろう。パティーノはまだ20歳で、まだまだ成長するための時間は残されている。
恐らくアーセナルはかなり高い割合の再売却条項を契約に含めるに違いなく、今夏得られる移籍金は少ないかもしれないが、彼が将来的に成長して他のクラブに移籍、となればその恩恵にあずかれるだろう。
とはいえ、パティーノのキャリアは、世代を代表するレベルで注目されており、トップチーム昇格は間違いない、と期待されていたユース選手にとってすらも、トップレベルで結果を残すことがいかに難しいかを示している。
いくつかの理由があるのだろうが、パティーノはユース年代では輝いたが、シニアレベルにそれを持ち越せなかった。そして、彼のような例は非常に多い。
2020年、アーセナルが苦戦していた時期にアルテタはなぜミゲル・アズィーズを中盤で起用しないのだ、とファンがオンライン上で不満を言っていたのを今でも覚えている。
当時彼はまだ10代だったが、アカデミーでの期待はすさまじく、不振のチームを救う救世主としての現実的なオプションと捉えるファンもいた。だが、実際には、そこから数年が経ち、アーセナル退団後スペインのセミプロクラブに加入、今季はシーズン開幕後もまだ所属クラブが見つかっていない。
ファンは彼らが準備ができる前にアカデミーの選手に質、才能、成長、どれだけトップレベルでプレイする準備が整っている等を投影してしまうものだ。
ユースでこれだけ出来ているのだからトップチームでチャンスを与えてもいいだろう、といった風に。
だが実際には、ユースチームから昇格してプレミアリーグでプレイするというのは、自動車教習所でフォード・モンデオを運転できるようになった直後にF1レースに参加させるようなものなのだ。
ジェイ・エマニュエル・トマス、アルトゥーロ・ルポリからマーカス・マギュエイン(ファンは彼がバルサBへと移籍した時怒り狂ったものだ)まで、結果的には良いキャリアを送っても、一旦アーセナルを離れることが必要だった選手は多い。
彼らは、より高いレベルで花開くためにいちど違う場所で経験を積むことを必要としており、また、そもそも結果的に花開くことができなかった選手も多い。
今のアーセナルではエンケティアが退団に近づいているようで、もちろん彼の代わりの前線のオプションを獲得できるのであれば、それはチームにとってプラスかもしれないが、それでもエディーがアーセナルで170試合近くに出場したというのは非常に大きな成功であるということを忘れるべきではない。
例えばエミール・スミスロウは一度トップチームでのポジションを掴んだが、それを継続することは出来なかった。
そして、アーセナルを離れるのに消極的であるようだが、能力的には他のクラブでレギュラーとしてプレイするに足ることは間違いないリース・ネルソンがもしより早くに自分の慣れ親しんだ環境を捨てて移籍するという決断を下して居たら、今頃どのような選手になっていただろうか、思いを巡らさずにはいられない。
ある程度の年齢になると、やはり定期的な出場機会を得なければサッカーは選手を置き去りにしていってしまう。
もちろんネルソンがアズィーズのようになってしまうだろうと言いたいわけではないが、ネルソンのキャリアのためには移籍が必要なのは明らかだ。
1人のブカヨ・サカの裏には何十・何百の才能を持ちながらトップチームに昇格できなかったユース選手がいるのだ。サカは非常にレアなケースなのだ。
多くの若手たちは自分の限界を認め(そしてこれは若者にとっては時として非常に難しいことだ)、トップレベルでのキャリアをあきらめなくてはならない。
デポルティーボ・ラコルーニャはアーセナルはかつてCLで当たったこともある、歴史と伝統あるビッグクラブだし、ここでのチャーリー・パティーノのキャリアが上手くいってくれることを祈ろう。
環境の変化に適応できればこれは彼にとっては大きなチャンスであり、もしかすると、彼の再売却条項がいつかアーセナルを助けてくれる時が来るかもしれない。
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キャリアの積み方は千差万別であっても、彼らのような看板を持った選手は、より葛藤があるかもしれない。アーセナルからラ・コルーニャへ、トップクラブからスペイン2部となれば、都落ちであるし、そう見えるのは仕方がない。
しかし、実際は若手選手のキャリアアップのスタートであり、例えば20歳の冨安はベルギーに渡ったばかりの海外初挑戦である。「アーセナルにいて将来を嘱望されたのに」という見方は、正確には多少異なるだろう。彼らを挫折と失望の棚にしまいいれる事はあまり意味が無いし、アカデミーの失敗でもない。
彼らは「これから」キャリアアップを楽しむ権利があるし、もう少し認識も寛容であればいい。パティーノが成長して、ボスが欲しがるとして、「家にあった置物をタダ同然で渡したら高値がついた。わざわざ金を出して買うなんてアリエナイ」と人間は思うのである。市場価値からいってサカで150億円儲けた訳では無いが、10年に1人、が出ればビジネス的にも後腐れ無しである。気後れ無しで普通に、キャリアアップに勤しんでほしい。