アーセナルを支える守備の基盤
アーセナルには過去にも、いくつかの素晴らしいCBコンビが在籍していた。私が子供の頃はジョージ・グレアム監督のもとトニー・アダムズ、スティーブ・ボールド、マーティン・キーオンがアーセナル陣を見事に警備しており、恐らく欧州中を見渡しても、90年代にこれと同じだけ堅固な守備陣を誇っていたのはマルディーニやバレージを擁していたACミランくらいのものだったはずだ。
アーセン・ベンゲルがこのスカッドを引き継いだ時にはチームはベテラン揃いになっており、イアン・ライト、ウィンターバーン、シーマンは33歳で、アダムズも30歳、ボールドは34、リー・ディクソンは32だった。
クラブ史上初の外国人監督の就任と、これらのイングランド人のベテラン選手たちの相性はあまりよくなく、守備のシナジーを評価しないのではないか、という懸念をイングランドのファンは抱き、監督は即座にチームの刷新を目指すのではないかと思われた。
だが、当時の多くの人々を驚かせたことに、ベンゲルは彼らの世代交代を非常にゆっくりと進めていった。のちにベンゲルは、彼のトレードマークでもある哲学的な言い回しで『私はアーセナルにきて、彼らが大学で守備のアートを修めた卒業生であることに気付いた。そして、トニー・アダムズは守備の教授だった』と話した。
アシュリー・コールがウィンターバーンに代わって台頭し、ベンゲルは(まさに彼らしいことだが)ディクソンに代わって右サイドバックを務めさせるためにスペインからカメルーン人MFを獲得してきた。キーオンはコロ・トゥーレがやってくるまではチームの常連としてプレイを続けた。
最も困難だったのがトニー・アダムズの代わりとなる選手を見つけることで、アダムズは自身の肉体が限界を迎えるまで、プレイを続けた。
だが、99/00シーズンと00/01シーズン、アーセナルは首位のマンチェスター・ユナイテッドに大きく勝ち点の差をつけられ、チームの柱となる新たなCBが必要なことは明らかだった。
だがアダムズのような選手の後継を見つけるのは簡単なことではなく、2001年の2月にはルズニー、ステパノフス、グリマンディ、シルビーニョという布陣で臨んだアーセナルの4バックはユナイテッドに6-1で粉砕されてしまった。
恐らくこの敗北が、アーセナルが既存の給与体系を曲げてでも、トッテナムからのソル・キャンベル獲得を決めたことにかなり影響を与えたのではないかと思う。
彼(キャンベルもまた、トッテナムデビュー時はセンターフォワードだった)に中盤からコンバートされた選手2人と、元ウイングを加えたローレン、トゥーレ、キャンベル、コールの4バックはモダンで抜け目なくかつ力強く、走力もある21世紀に相応しい守備陣だった。
そして、それはコンバートされた選手が多かったのと無関係ではないだろう。彼らはハーフラインでの守備を苦にしなかったし、全員が後ろのスペースをカバーすることができる、高い1対1の守備能力を備えた選手たちだった。
そしてそれは、高いラインを保って試合を支配することを狙うチームにとっては必要不可欠なものだった。
ユルゲン・クロップ率いるリバプールでのマネ・フィルミーノ・サラーの3人は伝説的と言ってもいい、クラブ史上最高の3トップの組み合わせの一つだったはずだが、16/17シーズンには彼らを擁していながら、リバプールはリーグ4位に負わった。
ではそこから何がリバプールをプレミアリーグやCLを優勝できるようなチームに変えたかと言えば、それはアリソンとファンダイクの獲得だった。
アーセン・ベンゲル時代後半のアーセナルではメルテザッカーとコシェルニーのペアは非常に良く機能し、コシェルニーが前でハンターのようにボールを追い、メルテザッカーがボックス内に訪れる危機に対処した。
もちろん今の時代でもこのような役割分担は見られるが、現代サッカーではこの役割は少し進化している、トップレベルにおいては高い位置でプレイするDFが一人だけでは十分ではなく、CB二人ともがそのような機動性を備えてある必要がある。
今のアーセナルで言えば、サリバとガブリエルの二人がアーセナルのレベルをワンランク上に引き上げた。
冨安、ホワイト、ガブリエル、ティアニーの4バックという構成はトップ4を狙うには十分だったとは思うが、ホワイト、サリバ、ガブリエル、ジンチェンコ(+この4人の誰ともそん色のない活躍が期待できる冨安)という布陣が、アーセナルのタイトル挑戦を可能にしたのだ。
ジンチェンコはアーセナルのプレイスタイルを大きく変えたが、これもガブリエルが彼の明けたスペースをカバーすることができて初めてのものだ。
同様に、サリバも全く焦っているようには見えない優美な走り方から繰り出す俊足で高い位置で守ることができる。ガブリエルの苛烈なアプローチとサリバのよりエレガントなスタイルは良いバランスが取れている。
サリバは眉一つ動かすことなく相手FWのランに対応することができ、このような守備ができる22歳のDFを私はいまだかつて見たことがない。
そして、ガブリエルのセットプレイからの得点力にも注目が集まり始めている。
更に、今のアーセナルには彼らの前に位置するデクラン・ライスまでおり、ボールを持っていない際の守備力は世界でも有数だ。
もちろんそれに素晴らしい戦術やコーチング、布陣の形がものをいうのは間違いないが、一方で守備陣に過負荷がかかっても問題のない選手が備わっていることも必要条件となる。
ジンチェンコは守備を得意にする選手とはいえず、サリバとガブリエルは時として侵入者に野球のバットで対応する必要がある。ただし、個人的には、ジンチェンコに課されたタスクの難易度は適切に評価されておらず、ファンのジンチェンコ評は時に厳しすぎるとも感じる。DFとMFの2つのポジションを一試合でこなすというのは非常に難しいものだし、それは彼のポジションに他の選手を置いて同じ仕事を要求した際に何が起きてきたかを見れば明らかだ。
アルテタが守備陣の構築からアーセナルのチーム作りを始めたのは、必然性に駆られてのことだっただろう。既にラカゼット、ペペ、オーバメヤンという高価なアタッカー陣がおり、彼らをすぐに入れ替えるのは現実的ではなかったし、サカやマルティネッリも既にクラブに在籍していた。
コラシナツ、ムスタフィ、ダビド・ルイスといった選手たちから入れ替えを始めることの方が重要だったのは間違いない。
だが、時系列とは関係なく、アーセナルがトップ4候補から遂にタイトル争いができるチームに変貌するにあたって重要な基盤となったのが、サリバとガブリエルの二人であることは間違いない。
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