アーセナルの道具箱

分析Tim Stillman,海外記事

ファンがスカッドの『層の厚み』の話をする際に、主に念頭に置いている要素は3つある。

①けがをした選手の控え
②選手間の競争と、ある選手が調子を落とした場合に異なる選手を起用できるような状態を作り出すこと
③(立場を失う可能性があるような競争は存在していない)選手を休ませること

だ。

シティはフィットネス上の必要性がなければデブライネやロドリ、ハーランドを休ませることはないだろうし、インビシブルズ時代のアーセナルもアンリやヴィエラ、ピレスやキャンベルをローテーションしたりということはなかった。

ペップのバルセロナもメッシ、シャビ、ブスケッツ、ピケ、イニエスタをできる限り起用したし、それは今のアーセナルにとってのサカ、ウーデゴール、サリバ、ライスについても同様だろう。

基本的にこれらの選手に関してはローテーションや競争という概念は適用されず、(けがによる欠場を除けば)休養やローテーション、競争が関係してくるのは彼ら以外の選手たちだ。

ただし、もう一つスカッドの厚みにはより多彩なオプションを監督にもたらすという面もある。

例えば、シティ戦でアルテタはジョルジーニョを中盤で起用したが、これは彼の今季プレミアリーグ初先発だった。

もしかするとパーティのコンディションが万全であればジョルジーニョではなく彼が先発に起用していたかもしれないが、デクラン・ライスが6番8番両方でプレイできるというのは非常にチームにとって有用であり、いずれにせよ、アルテタはこれまでのライス-ウーデゴール-ハヴァーツという形ではなく、ライス、ウーデゴール、そしてパーティあるいはジョルジーニョという形を選択していただろう。

マンチェスター・シティ戦はまさにジョルジーニョのような選手が必要な試合だった。

試合を落ち着かせてくれるような経験豊富な選手は今のアーセナルには多くない。

この試合までジョルジーニョは主に途中からの起用がメインで、冨安健洋と同じように『試合を畳む』ための選手という役割を担うことが多かった。

ジンチェンコが先発した直近6試合のプレミアリーグでのうち実に5試合で冨安と途中交代を行っており、これが監督の意図的な戦術であることは間違いないだろう。ジンチェンコの怪我歴も考慮されているだろうが、失点せずに試合を終わらせたい、というアーセナルの意図が冨安の左サイドバック起用からは窺える。

ジョルジーニョも同じような形で起用されることが多く、いわばマンチェスター・シティ戦は『試合を畳む』ための布陣をスタメンから起用した試合だったといえるだろう。

ジョルジーニョは昨季4月のニューカッスル戦でマンオブザマッチを獲得しているが、この時も状況は似ていた。

言うなればジョルジーニョはビッグゲーム用の選手なのだ。中盤にけが人が続出したりしない限り、彼が例えばボーンマスやシェフィールド・ユナイテッド相手の試合で先発することはないだろう。

そして、これこそがスカッドの層の厚みがもたらすものだ。

選手獲得は行った際に前任の選手に居場所がなくなる新型iPhoneの購入のようなものではなく、道具箱に新しいツールを加えるようなものだ。

そして、この観点からみると、アーセナルは中盤が最も充実している。恐らく今後はボール保持で圧倒手出来そうな試合ではライス、ハヴァーツ、ウーデゴールがプレイし、そうでない場合にはハヴァーツの代わりにパーティあるいはジョルジーニョが入る、という試合が増えるのではないだろうか。

また、ハヴァーツは試合の途中からセンターフォワードへとポジションを移すこともある。このポジションで彼が先発したのはコミュニティシールドのみだが、今季すでに、9番として4度試合を終えている。

これもアルテタが推し進めようとしている方策の一つで、スカッドは様々な役割をこなせる選手たちの集団であり、主演俳優とモチベーションの低い控え選手たちではない、ということなのだろう。

アルテタは正ストライカーのジェズスを現状トロサールや冨安、パーティと同じような立場にあるエディー・エンケティアを起用するためにポジションをサイドに移すこともいとわない、という姿勢を今季見せており、このような施策はマンチェスター・シティが長年上手く行ってきたものでもある。

グアルディオラはマフレズやグリーリッシュ、フォーデンとシウバといった選手たちをオプションとして揃え、ゲームプランや相手に応じて使い分けてきた。

カイル・ウォーカーは絶対的なスタメンというわけではないシーズンもあったが、相手にトリッキーなウイングがいる場合に彼の瞬発力で対応するためにほぼ常に起用されてきた。

ノコギリが必要な時もあれば、ノミが必要な時もあるように、仕事を始める道具が必要なこともあれば、仕事を仕上げるのに堂が必要なこともある。

例えばファビオ・ビエイラは今季様々な使われ方をしているが、エヴァートン戦ではハヴァーツを控えにおいてビエイラが出場となった。

アーセナルのプランはボールを地上にとどめ、強固なエヴァートンの守備陣相手に全く空中戦を挑まない、というもので、これにはハヴァーツよりもビエイラが向いていたからだ。

8月のフラム戦には試合途中でビエイラとジンチェンコを投入し、実際にアーセナルは左サイドから2得点を生み出した。

先発が発表された際には、序列というよりも、出場選手の役割と彼らの起用がどのようなゲームプランを示しているのかをファンも考えることがより多くなっていくのかもしれない。

source(当該サイトの許可を得て翻訳しています):

関連記事(広告含む)

Posted by gern3137