ハヴァーツの起用法に関して-ライスの役割と再現されるアレクシス-エジルのダブルゼロトップ?
去年の今頃オレクサンドル・ジンチェンコがアーセナルにやってきて、チームを変革してしまうだろうと予測していたファンは誰もいなかったに違いない。だが彼はチームシート上は左サイドバックでも実際には中盤のようにプレイし、彼とトーマス・パーティのコンビ、そしてサリバとジェズスがアーセナルのプレイスタイルを大きく変えた。
パーティとジンチェンコが疑似的に中盤を形成し、ホワイトが右サイドバックとしてプレイし、その後ろのスペースをサリバがカバーする、などという可能性は話題に上がりすらしなかった。
アーセナルは夏のたびに大きくプレースタイルを変更することが多くあり、そういった意味で今年の夏も非常に興味深い。
そしてこの夏アーセナルがどうやら巨額の移籍金をつぎ込むことに決めた二人がカイ・ハヴァーツとデクラン・ライスのようだ。
デクラン・ライスが今のパーティの位置でプレイすることを想像するのは容易だ。彼はミドルサードで、相手の誰かが少しでも大きなボールタッチを見せることなどがあれば、ボールを奪い取ってくれるだろう。
このような役割を任すにおいてライスはプレミアリーグ最高の選手の一人で、また同時にボールをもって前に運ぶことも出来る。
だが、恐らくより興味深いのはハヴァーツの獲得だろう。ハヴァーツはクラブ退団が濃厚となっているグラニト・ジャカとは全く異なるタイプの選手だ。
もちろんスカッドの層の厚みは重要であり、ハヴァーツが必ずしも絶対的な先発要員とは考えられていない可能性もあるが、多くの場合、移籍金額は選手の立ち位置を判断する材料になる。
それぞれトロサールとジョルジーニョは非常にソリッドで、結果的に多くの出場機会を得たもののどちらかというと選手層を厚くするというタイプの獲得だった。
アーセナルはハヴァーツ獲得のために60m£を超える額を支払っており、彼をトロサールと同じようにユーティリティ性が高くどこでもプレイできるローテーション要員として起用する予定だとは思えない。
ある程度明確に先発選手として期待していなければ、これだけの移籍金を払うことはしないはずだ。
そして、そこから逆算して考えると、今のアーセナルのチームで唯一席が空きそうであるのが、昨季はジャカが務めたCMFのポジション、ということになる。サカやマルティネッリ、ジェズスのうちの誰かを外して起用するためにハヴァーツが獲得されたとは考えづらい。
ただし、ジャカに代わって先発メンバーにハヴァーツが名前を連ねるとしても、彼の役割がジャカと全く同じであるとは限らない。例えば、先発ストライカーはラカゼットからジェズスへと変更となったが、彼らのプレイは異なる。
The AthleticのTIfo Footballポッドキャストが以下の動画でハヴァーツがアーセナルで果たしうる役割を非常にわかりやすく解説している。
Mikel Arteta really wants Kai Havertz at Arsenal. The versatile attacker hasn’t set the world alight at Chelsea, so why might it work in North London?
— Tifo Football (@TifoFootball_) June 20, 2023
🗣 @jj_bull explains
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どちらかというとこの動画内ではハヴァーツの役割はストライカーのサポート寄りに想定されている。確かにハヴァーツはオフザボールの走り込みが得意だし、スペースでボールを受けるのが上手い。
ただ、同時にハヴァーツは素晴らしいパサーでもあり、前線からのプレスも得意だ。ハヴァーツ起用時に、アーセナルの非ボール保持時の守備がどのような形になるのかは興味深い所だ。
最近はウーデゴールが前線からのプレスの開始役として4-4-2で相手を追うことが多かったが、もしかすると、その先頭をウーデゴールではなくハヴァーツが担う可能性もあるのだろうか。
もしかするとアルテタはジェズス、ウーデゴール、ハヴァーツを前に並べ、その後ろの広大なスペースのカバーをデクラン・ライス一人に任せる、というハイリスクハイリターンな戦術を志向するのかもしれない。
その場合に興味深いのは、ハヴァーツがアーセナルのボール非保持時にどのような役割を担うかだ。
以前も書いた通り、恐らくジャカに最も適したポジションは中盤の底よりもより前目のポジションだったのだろう。
ハヴァーツはパスも上手いので同じポジションで攻撃時に輝けるはずだし、セットプレイの時などにはその空中戦の強さもチームにとって有用だろうが、より深い位置での守備を任された場合にジャカと同じだけの守備力を発揮できるとは思えない。
チェルシーが2020年にハヴァーツを獲得した際に、彼らが彼のためのプランを用意していないことは明らかだった。パンデミックの影響でバイエルン・ミュンヘンはハヴァーツ獲得レースから撤退したのを見て、既にヴェルナー、ツィエク、チアゴ、シウヴァとメンディを獲得していたチェルシーだったが、ハヴァーツのような選手を獲得できる機会はそう簡単には訪れないと見て獲得を決めたのだろう。
アーセナルはもう少し明確なプランをハヴァーツに用意しているのではないかと思われるが、それはライスの守備力を信頼する、というものなのだろうか。
上の動画で触れられていた通り、ジェズスとハヴァーツのコンビは非常に良く機能しそうだ。
ジェズスはボールを引き寄せる磁石のような選手で、対戦相手とのコンタクトもいとわないし、ボールをもってドリブル突破も出来る、とにかくプレイに絡むのが得意な選手だ。それとは対照的に、ハヴァーツはボールを持たずに相手のスキを突くのが上手い。
2016年にアーセナルがアレクシスをゼロトップとして起用した際、これはエジルとのダブルぜるとっぷのような形だった。
アレクシスがボールを引き寄せ、エジルはすっと消えると中央に魔法のように走り込んだ。ジェズスとハヴァーツにも同じようなプレイが期待できるのではないだろうか。
ジェズスがピクニック会場に現れた蜂のように相手の注意を一手に引き付け、その隙にハヴァーツが食事を全て盗み取る。実際に似た役割をジェズスはネイマールのためにブラジル代表ではうまく果たしてきた。
ウーデゴール、サカ、マルティネッリが得点を量産したことからもわかる通り、ジェズスはチームメイトのためにスペースを作り出すのが非常に上手い。
もちろん、既に述べた通り、この戦術が機能するためにはより守備力の高い中盤の底の選手が必要だが、もしこの役割に今のプレミアリーグで最も適しているのが誰か?と聞かれれば、それはデクラン・ライスということになるのではないだろうか。
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