チームの最大限の力を引き出すミケル・アルテタ

分析海外記事

サッカーの監督の仕事というのは究極的にはチームに在籍している選手たちをマネージメントし、彼らから出来る限り最高のパフォーマンスを引き出すことだ。

既にチームが抱えているリソースも活用しなくてはならないし、トップレベルの監督であれば、これに失敗した時点で解任が近づくことが多い。

だからこそ、一時期アルテタのアーセナルの監督としての立場は不安定になっていた。

昨季の終わりの時点で高給を得ていたウィリアンは全く活躍できておらず、2020年の夏に高額の移籍金で獲得されてきたトーマス・パーティは怪我もあり安定したプレイを見せられていなかった。超高額の給与で契約延長となったオーバメヤンはプラン通りの成果を出しているとはいえず、アーセナルのリーグ順位は再び8位に終わり、25年ぶりに欧州コンペティション出場権を逃すこととなった。

非常に残念なものになったアルテタのフルシーズン初年度を受けて、その後彼は非常に劇的な行動に出た。思うようなパフォーマンスを見せていなかった選手たち(ウィリアン、オーバメヤン、コラシナツら)は契約を打ち切られ、クラブは結果的に給与の削減に成功した。

ベテランたちに自分のやり方に適応させようとすることをある程度諦め、代わりに夏に150m£を叩いて6人の若くハングリーな選手を獲得するという手に打って出たのだ。そして、得点力と守備を更に強化するためにアルテタはセットピースコーチのニコラス・ジョヴェルも招聘した。

アルテタはアーセナルでの監督の期間を通じて、手元に揃っている選手たちの力を引き出せず、投資を要求していると批判されたこともあった。そして、確かに実際に彼はアーセナルの今のレベルに引き上げるためにある程度の金銭的なバックアップが必要だった。

しかし、彼が2019年の12月に引き継いだチームはボロボロで、性格面に難がある選手もいて、要求水準のレベルでプレイできる選手たちは少なかった。どちらにせよ、アーセナルがヨーロッパのエリートに返り咲くためには投資が必要だったはずだ。

現在のサッカー界ではクラブがある程度チームに投資するのは当たり前となっている。したがって、監督は良いチームを作るのに投資を必要とするかどうかで判断されるべきではない。むしろ、彼らはその投資をどれだけ有効活用できるかで判断されるべきだ。

そして、今季を見る限りはアルテタはKSEの彼を信じて投資を行うという決断を見事に正当化している。

今季の開幕の時点では、アーセナルにとってトップ6入りですら大きな挑戦のように思われていた。解説者たちには、アーロン・ラムズデール、冨安健洋、ベン・ホワイト、ヌノ・タヴァレス、サンビ・ロコンガ、マルティン・ウーデゴールといった獲得は皆高額だがバックアップレベルの選手ではないか、という持論を展開する者もいた。

だが現在、プレミアリーグの残り10試合を残してアーセナルは4位につけており、FiveThirtyEightのシミュレーションによると、アーセナルがシーズン終了後に4位に入れる可能性は67%だ。そして、これはかなりの部分が上の6人の新加入選手たちのおかげといって良い。

ベン・ホワイトはガブリエルと素晴らしいパートナーシップを築き、彼らはプレミアリーグで最も信頼できるコンビの一つとなっている。ラムズデールはリーグ2位のクリーンシート数を誇り、パスの精度も素晴らしい。

冨安健洋はアーセナル移籍以前はイングランドではあまり知られていなかったが、鉄壁の守備と空中戦の強さを持ち、攻撃面での貢献も良い。

ウーデゴールは既にプレミアリーグでも有数のプレイメイカーの一人としての評判を確立しており、まだ伸びるはずだ。

タヴァレスとロコンガも、もちろんどちらかというと将来を見据えての獲得だったのだろうが、既にその才能の片りんを見せ始めている。

だが、アルテタがそのポテンシャルを最大限引き出すのに成功しているのは夏の新加入選手だけではない。ブカヨ・サカはアルテタの指導の下プレミアリーグでも最高の選手の一人へと成長を遂げているし、スミスロウはファーストチームのレギュラーになった。彼ら二人がチーム得点王だ。

マルティネッリも今季一段レベルアップし非常に危険なFWとなっている。

アーセナルは冬にはより安定した得点源となってくれるFWを求めてドゥシャン・ヴラホヴィッチ獲得に乗り出したが、これに失敗したことを受けて、アーセナルが現状の選手たちからさらに力を引き出せるような工夫を施した。

従来の4-2-3-1から4-3-3ような形で、ジャカとウーデゴールを高い位置で並べて起用するような形を採用したのだ。長期的にこの形の左CMFの位置をジャカに任せるかは定かではないが、現状ジャカは守備での負担が減り、前の選手たちとの連携も良い。

そして、この変更によりトーマス・パーティは過去最高レベルのプレイを見せている。このままで失敗した移籍となってしまうのではないかと危惧されていたが、この数週間のパーティのパフォーマンスは一貫して素晴らしい。

ボール奪取、パスとドリブル両方を駆使したボール前進、前線への上りとまさにオールラウンドなMFに必要なすべてを備えている。最後のシュートの部分ではまだあまり結果は出ていないが、最近はそれも改善されつつあるように思う。彼は今やアーセナルにとって最も重要な選手の一人だ。

そして、先発が多くない選手に関しても、アルテタはよくやっている。彼は守備固めのスーパーサブとしての役割をホールディングに与え、これはアーセナルの武器となっているし、セドリックも冨安の控えを問題なく務めている。

先日レノが久々に先発した際にも安定していた。

彼らと比べると安定性は若干欠くかもしれないが、ペペとエンケティアも何度かベンチから良いパフォーマンスを見せた試合もあった。

オーバメヤンの移籍後、ラカゼットはほぼ毎試合で起用されているが、今のチームにはラカゼットがビルドアップやポストプレイでもたらす貢献の方が合っているようだ。

これらすべてがかみ合って、今のアーセナルはシーズン前の予想をはるかに上回る位置につけている。チャンピオンズリーグへの復帰も現実的な可能性として見えてきた。

そして、これこそがアルテタの監督の力量を証明していると言えるだろう。彼はチームを最適化し、最高のパフォーマンスを引き出して見せたのだ。

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Posted by gern3137