アーセナルは忍耐強く帝国の礎を築けるか?
娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理を表す、とはよく言ったもので、人間の歴史を通して常に帝国の覇権は興っては崩壊することを繰り返してきた。
だがもちろん、崩壊するためにはまず建国から始めねばならない。歴史上最大の帝国の一つであるローマ帝国は単なるイタリア中部の小さな町、今ではその名を覚えている人も少ない当時大きな力を持っていたエトルリア人から逃れるように始まった。
その後、ローマ帝国がイタリア全土を支配するようなってからも、地中海の覇権をめぐって争ったポエニ戦争など、ローマ帝国が崩壊してもおかしくはないタイミングはいくつかあった。
ローマ以外のその他の強大な帝国全てにも共通して言えることは、どんなに隆盛を誇っても、最終的には終わりを迎えたということだ。安定期を迎えた帝国はやがて力を落としていく。
現在のプレミアリーグでは、金が王者だ。巨額の富を後ろ盾に、マンチェスター・シティやチェルシーといったクラブはリーグの潮流を変えてしまったし、移籍金でタイトルを買える、といったレベルの話ではなく、マネーレースについてこられないクラブはステータスを失う時代になってしまった。
本来であればシティとチェルシーに立ち向かえるだけの金銭力があるにもかかわらず、マネージメントの悪さが原因で凋落とはいかないまでもマンチェスターユナイテッドが停滞してしまっている一方で、リバプール、そして特にレスター・シティは時代の流れに真っ向から立ち向かい、2015-16シーズンにはリーグ優勝も成し遂げた。
リバプールに関してはイングランドのファンからは"正統派のタイトルの獲得の仕方"という風に持ち上げられることもあり、多くのサッカーファンが夢を見る形だと言っていいだろう、
クラブにフィットする選手を見つけられるスカウトネットワークを構築し、チームに哲学を植え付け、それに合った監督を招聘し、そして契約延長交渉もスマートに行い給与体系を乱すような給与は選手にオファーしない。
究極的には、リバプールは成功を収める上で、ピッチ内外のクラブ運営を完璧なレベルに保った上で、かつ他のファクターが助けてくれる時期を待たなくてはならなかった。
これが実を結んだ際には、彼らはチャンピオンズリーグ優勝とプレミアリーグ優勝の両方を達成したが、今季はマンチェスター・シティの陰に追いやられている。
リバプールとマンチェスターシティやチェルシーとの大きな違いは、後者は運営において何らかのミスを犯したとしても50m£を支払って埋め合わせられるという点で、もしそれが機能しなくても、翌年同じことを行うことが出来る。
これはローマ帝国も同じで、彼らは何度も戦場で手厳しい敗北を喫し、何十年も停滞することもあったが、そこで完全に止まることはなく、敗戦から学び、ライバルたちの良い所を取り入れてさらに強くなって他国が太刀打ちできなくなるまで成長を続けた。
ただもう一つローマ帝国に関して言えるのは、彼らの栄華がついに終わりを迎えたのち、その後紀元後5世紀ごろ、ゴート、ヴァンダル、アラン族らがいなければ、再び復活できたかもしれないという点だ。
リバプールやレスター・シティは彼らと同じく、強大な帝国が少し勢いを失った機を逃さず、タイミングよく叩くことで栄光を成し遂げた。
だが、そのようなチャンスは今後何度訪れるだろうか?そして、より重要なことに、これを成し遂げる次のクラブにアーセナルはなれるだろうか?
少なくとも、今のアーセナルの体制がそれを狙っているのだということは見て取れる。いずれシティからペップ・グアルディオラが去る時が来るだろうし、ユルゲン・クロップもリバプールを去るはずだ。そして、チェルシーが不調に陥り、資金では解決できない問題に直面するときもあるかもしれない。過去にはそのようなこともあった。
したがって、アーセナルは好調を1年限りではなく、より長く維持し、トップレベルで機を窺い続ける必要がある。
2015/16シーズンこそまさにそのチャンスだったわけだが、我々はこの戦いでレスター・シティに敗れてしまった。非常に大きなチャンスを逃してしまったが、このような機会はいずれまた訪れるはずだ。
いくら強大なチームでも、常にトップレベルを維持するのは簡単なことではなく、ミケル・アルテタのプロジェクトが安定性を持出来れば、いつの日か彼らのスキをつけるかもしれない。
今のアーセナルはトップ4レベルのチームだと言えるだろうか?
もしかすると。
今季アーセナルは4位でシーズンを終えることはできるかもしれない。
だが、それが無理だからと言ってアルテタを解任すべきだという意見はナンセンスだ。なんといっても安定性こそがカギなのだから。
それこそがマンチェスター・ユナイテッドに欠けているもので、一方でリバプールは長期的な目標にフィットする監督を用意し、一貫性をもってプロジェクトを進めたからこそ成功を収めることが出来た。
市場に投入する資金が限られているクラブは、異なる成功の方法を見つけなくてはならない。
スタン・クロエンケはアブラモビッチ型のクラブ運営が出来るだけの資金を持っているが、アーセナルでそれが起こる可能性は極めて低いだろう。
だが、アーセナルがアルテタのもと少しずつ前に進めているのは明らかで、昨年より順位は上がり、若いタレントがピッチ上で躍動しているし、移籍市場をうまく活用したチームの刷新も進んでいる。
これをベースにアルテタの長期的なビジョンと共に毎年競争相手のリードを奪っていけば、これはアーセナル帝国の基礎とすらなるかもしれない。
成長が早すぎれば、変わりゆく状況に対処できなくなってしまうかもしれないし、逆に遅すぎればよりアグレッシブな競争相手に敗れてしまう。
正しい速度での成長を遂げ、その副作用にもきちんと対処していくことが結果を残すうえでの鍵となる。
どちらにせよ、一つだけ確かなのが、恐らくこのやり方がアーセナルのプレミアリーグ優勝における唯一のチャンスだということだ。
アーセナルは現在着々と過去に足を引っ張ってきた部分の改善を進めている。いざという時が訪れた時に、前に進める準備を整えられるよう、歴史から学ぼうではないか。なぜなら、いずれどんな帝国もその勢いを失うのだから。
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