サンジェイの退団はアーセナルの新たな時代の始まりとなるかもしれない
アーセナルのようなサッカークラブのトップには、どのようにしたら就任できるのだろうか。組織のサイズ、そして仕事のスケール、要求水準や扱わなくてはいけない金額を考えると、非常に慎重に、その座に興味を示すであろう多くの候補者から、業界内でもトップの人材を選び出すプロセスがあると考えるのが普通だ。
だがもしあなたが幸運なことに、正しいタイミングで正しい場所に居たというだけの理由で選ばれたとしたら?もし上のような長く複雑なプロセスなど存在せず、前任者があなたをたまたま推薦してくれて、オーナーが『了解だ。』と一言いうだけだったとしたら?
もちろんこれは少し単純化しすぎではあるものの、ざっくりいえばサンジェイがいかにアーセナルで最も権力を持つ男になったかの経緯だ。
彼はガジディスによりアーセナルに連れてこられ、リクルートの天才ミスリンタートが人材を発掘し、その交渉にあたる役割を果たす予定だった。そして、その二人をコーディネイトするのがガジディス自身というわけだ。
だがガジディスはミランから断り切れない待遇のオファーが届いたとたんにアーセナルを去り、権力闘争にミスリンタートは敗れた。そして、KSEが信頼を置くガジディスがクラブのトップに推薦したサンジェイが逃走に勝利し、アーセナルのトップの座を勝ち取った。
基本的にスタン&ジョシュ・クロエンケはガジディスのことを全面的に信頼しており、彼がサンジェイは信頼できる人材と告げたのを疑ったりはせず、そのまま受け入れた。
実際の所、ガジディスが去る以前から、サンジェイの影響は即座に表れた。ヴェンゲル監督の退任に伴って、その後任にはミケル・アルテタが収まるかに思われた。中々勇気のある決断だ。
だが、最後の最後でウナイ・エメリが選択された。これは大きなサプライズといってもよかった。そもそも、エメリの当時の英語力を考えればガジディス・ミスリンタート・サンジェイの3人と行われた面接で前の二人をどう感心させることができたのが不透明だったのだ。
そもそも候補者としてエメリを連れてきたのがサンジェイで、彼はサンジェイと長く親密な関係にあるアルトゥーロ・カナレスという人物が代理人を務めていた。そして、突然エメリがアーセナルの監督の座に収まったのだ。
昨日、アーセナルがラウール・サンジェイの退団を発表した。公式サイト、メディアを含め全員がまるでこれはアーセナルとサンジェイ双方が友好的に別れを告げたように見せかけるのに必死になっている。
公式サイトでクラブは彼への感謝を述べ、サンジェイ自身も声明を発表した。
しかし、まず思い出さなくてはならないのは7/1にアーセナルがティム・ルイスを取締役会入りさせたことだ。クリフォード・チャンス所属の弁護士で、彼はKSE側を代表し、クラブの運営をチェックするためにやってきた人物だ。
ここ数週間彼は全ての部門の数字をチェックし、移籍の取引に関して詳細な分析を行っていたらしい。
そして、それから一か月半後、アーセナルがラウール・サンジェイの退団を発表した。もしかすると、これはとんでもない単なる偶然かもしれないし、あるいはティム・ルイスが何かクラブ運営における瑕疵を発見したのかもしれない。2+2は4だろうか?
今回のケースでは、これが無関係だと思えない。
実をいうと私は11月に非常に信頼のおけるソースから、どうやらエメリが退団するようだ、ペペの取引に関して不審な部分があり、サンジェイもこれに続いて去るようだ、という情報を受け取った。
もちろん、これは実際には起こらなかったわけだが、既に当初からペペの移籍に関して何らかの怪しい懸念点があると感じていた人はクラブ内部にいたわけだ。
そして、その後、私はどうやらアーセナルはペペに関して相場を大幅に上回る額を支払ったようだ、と告げられた。(もちろん、これが誰かを驚かせることはないと思うが) 念のために言っておくが、これは数m£などといったレベルの話ではない。
ペペの獲得にスーパーエージェントが絡んでくるのは当初から非常に不自然だった。なぜならリールのディレクターはイングラで、サンジェイのバルセロナの同僚だからだ。
(ちなみに彼はクラブの財政と法律上の虚偽情報をフランスリーグに提出した咎で、3か月クラブ運営に携わることの禁止処分を食らっている)
もちろん、一応言っていくが、これは選手自身とは何の関係もない。ペペは非常に才能のある選手で、彼の移籍がどのような経緯で実現するかなどはペペのコントロールの及ばない範囲だろう。
だが、彼に支払うアーセナル史上最高額の72m£(頭金として20m£、残りの52m£を5年間で支払っていく、という契約だ)という額は非常に疑問の余地がある。
クラブでのサンジェイの影響力が強まるにつれて、アーセナルの彼の友人である代理人との取引は増えていった。先日Athleticのジェームズとエイミーが指摘したように、カナレスはベルント・レノの移籍にも絡んでいたようだ。
アーセナルで何が起こっていたかを推測するのに大学の学位は必要ない。外から見ても、サンジェイ、ジューラブシャン、エドゥの蜜月関係は異様なものがあった。
私自身が何度もこれに関して声を上げ、記事にしてきたし、エイミーとジェームズもそうだ。Le Groveのピートも同じ考えだったはずだ。
あまりにも不自然な点が多すぎた。もちろん我々だけではなく、クラブ内部にも懸念を抱く人物はいたはずだが、基本的にオーナーとコンタクトをとれる人間はサンジェイしかおらず、何人か懸念を表明されたスタッフはクラブを追い出されたりもした。
昨夏、アーセナルはコシェルニーがフランスに帰りたがっているという事は認識していた。怪我の後彼は使われすぎだと感じており、残りのキャリア破滅の危機にあると感じていたからだ。
“何か月もの"話し合いの末、アーセナルのキャプテンは進展のなさにうんざりし、アーセナルにおける9年の遺産を台無しにしてでも、移籍を強行することを決断した。
もちろん、これは言い訳できない行動だが、あまりにもコシェルニーらしくない行動で、本当に我慢の限界に達していたのだろうな、というのは感じ取れる。ではそれはなぜだろうか?
このせいで、アーセナルは嫌々ながら移籍市場の最後の最後でCBを探さなくてはならなくなった。アーセナルが選んだのはチェルシーのダビドルイスだった。彼は新契約を結んだばかりだったが、ランパードの仲が悪化したのに加え、もしかすると、より好待遇のオファーがあったのかもしれない。
Athleticでまたしてもエイミー・ローレンスがアーセナルはルイスを1年契約で獲得するのに仲介料、給与などすべてを含めて24m£もの額がかかったと報じた。
代理人側からこれを否定するコメントは出ているが、説得力のある反論と言えるべきものは何もなく、記事を取り下げる要求すら行われていない。
この獲得がジューラブシャン関係の最初の取引だったが、1月にはまたしても彼が主役に躍り出た。アーセナルがサウサンプトンから、その時点で怪我をしていたセドリック・ソアレスを巨額のローン料を払って獲得したのだ。
パンデミックのおかげでトレーニンググラウンド以外でセドリックをアーセナルが評価するチャンスはほとんどなかったはずだが、セインツが不要と判断した右サイドバックはアーセナルで4年の長期契約を勝ち取ることになった。
アーセナルの一月のもう一人の獲得はパブロ・マリで、もちろん彼が良い選手であるよう心の底から願っているが、彼はスペイン二部とオランダを中心にプレイし、最終的にフラメンゴでプレイしていた選手だ。
彼はブラジルリーグを優勝したチームで1季良いシーズンを送り、またすぐに移籍することとなった。アーセナルへと。彼の代理人?アルトゥーロ・カナレスだ。
アーセナルはマリにローン料と給与を支払い、そして最終的に完全移籍で移籍金を支払うこととなった。
そして今週、アーセナルは32歳のウィリアンを3年契約で獲得した。これは、この年齢の選手に与える契約の長さとしては、アーセナルの歴史上全く持って例のないことだ。
既に今週わたしは彼の能力について記事を書いたし、チームにとって有用な選手だとは思う。単独で見ればそこまで奇妙ではないものの、ここまでの流れを考えるとこの契約期間は少し不自然ではある。
クラブ内外からアーセナルの最近の選手獲得は精査の対象となっている、とだけ言っておこう。
もちろん選手獲得を巡る不自然さを脇に置いておいたとしても、そもそもサンジェイのフットボール長としての能力に疑問の余地が大いにある。
今季は素晴らしいFA杯優勝で救われたものの、我々はあと一歩でここ25年で初めて、ヨーロッパ大会に出場しないシーズンを送る危機に陥った。最終的にアーセナルの順位は8位だったのだ。
昨季終盤チームが崩壊し、EL決勝でぼろ負けした際に、もしアーセナルの成績を真剣に考える人物であれば、監督の変更を検討したに違いない。だが、代わりにサンジェイはエメリと契約の延長を行おうとした。いったいなぜだ?
そして今季、皮肉ではなくアーセナルが降格争いに参戦するかもしれない、という成績にあり、既に今季は終わったかとさえ思われた状況で、サンジェイはエメリを守ろうとしたのだ?
忠誠心というのは素晴らしいものだ。だが、結果を残せていない監督を守るためにクラブとファンの断裂を引き起こすような行動に出るというのは非常に奇妙に感じられた。
契約管理などもサンジェイがフットボール長になってから改善されたという兆しはない。相変わらず売却は上手くいかず、残り契約が1年となり、契約満了が近づく選手も多くいる。フリー移籍も未だにある。
もちろん、その一部は前体制からの遺産であり、それを全てサンジェイの責任にすることはできない。アーセナルの凋落がサンジェイがクラブにやってくる前から始まっていたことは否めない。
しかし、冷静にアーセナルのパフォーマンスを観察してみると、サンジェイがアーセナルのトップの座に就任して以降、衰退は止まったどころかむしろ加速した。
何度か書いているが、選手や獲得は結果が出なければすぐ変更するのに躊躇はないのに、クラブ運営のレベルでは同じ基準を適応するのが遅すぎるのだ。サンジェイの退団は、少なくとも私はアーセナルに良い影響をもたらすと思う。
では今後はどうなるかというと、まずアルテタがより強い権限を持つことになるだろう。これも個人的な意見だが、アルテタはHead CoachではなくManagerになれる人物だと思う。
そして、注目なのはエドゥにスポットライトが当たるだろうという点だ。KSEは彼とキア・ジューラブシャンの関係性について懸念を抱いているはずだが、今後彼はテクニカルディレクターとして結果を残すことが求められる。
彼はうまくやるだろうか?これに関して私が持っている判断材料はなく、私の推測も読者の皆さんの推測と同じくらいの精度のはずだ。これを言い当てるのは不可能に近い。
移籍のプランはエドゥとアルテタが中心になって立て、これらを実現させる責任を彼らが負うのだろう。噂の左利きのCBの獲得が近づいているようだが、恐らくまだまだ獲得も放出も動きはあるだろう。
私は特に今回の刷新がオーバメヤンの契約延長にネガティブな影響を与えるとは思えないし、正直な所、今回の動きをアルテタは歓迎しているのではないだろうか。
アルテタがオーナーと直接コミュニケーションをとっている、と話していたのは示唆に富んでいた。
これから彼とテクニカルディレクターが10/6までに良い仕事をしてくれるのを願おうではないか。
クラブの発表によると、当面アーセナルのトップはヴィナイ・ヴェンカテシャム(どうやら好人物らしい)になるようだ。だが、現状では上層部に少し人材が足りていないように感じられるので、もしかすると数週間中に新たな人材招聘があるかもしれない。
とはいえ、ヴィナイの幸運を祈ろう。
アーセン・ベンゲルが去ったのちのアーセナルが不安定な状況に陥るのはある程度避けられない事だった。彼が残した穴は大きく、時間をかけて埋めていかなければならないものだ。
将来振り返った時にアーセナルファンがエメリ・サンジェイ時代は再び前に進むために支払わなければならなかった犠牲だと思えるように祈ろう。
正直、私はアルテタをトップに据えることは正しい決断だと思っている。彼の非常に高い要求水準についてこれない人材もピッチ内外で入るだろうが、彼がアーセナルで何を成し遂げてくれるのかを見守るのが楽しみだ。
アーセナルはここ数年の混沌以上のものとより良い成績に値するクラブだ。どん底を脱し、アーセナルのことを最優先に考えてくれる人々のもと、クラブが前に進んでいってくれるように願おう。
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コメント一覧
当時は明確な解決策提示したエメリを多くが支持したはずで、ジョシュも戦術的な戦いが好みと語ってて、今のアルテタはシティ経て準備が整ったはずです
クラブはマーケットでより上手く立ち回るのを望んだはずで、実際目を見張るものもあったはずでしたが、横暴が加速して許容範囲を越えたのでしょう
それを許した構造自体クラブとしてわきが甘いと言わざるを得ないです
もっと注意すべきはクラブの文化を破壊したことです
シティ裁判に陳述主導してはペップから苦言、シェフィールドでスパーズ煽ってはモウから苦言、分別なく振る舞っては評判貶めて
内部で強権的に振る舞っては人を切り捨て、問題あれば干す、連帯を迫っては簡単に約束反故
クラブが注意を払って培ってきた信用、文化を気にもせず破壊するスペインの悪い例です
一方で、これまでの理想主義的なクラブ(間違っちゃいけないのがベンゲルは競争原理は何より大切にしてきた)に徹底した合理主義を持ち込んで違ったノウハウがあったのも事実です
極端過ぎるんです、合理的であれば何をしてもいい訳なくて、結局はクラブは人の為にあるもので理想無くして誰もついてこない、両方バランスが必要なんです
もしクロエンケが毒をもって毒を制す、今後の明確なプランの元しがらみを伴うアイデンティティの破壊、ある程度の目処でお役御免したのならたいしたものです
願わくば後任には、クロエンケという合理主義のなかにあって、フットボールクラブとしての理想主義を全体像をもってアルテタと共有できる人物が就任してほしいです