アーセナルの負債を巡る状況の解説
アーセナルの経営状況を評価する際において、クラブのキャッシュリザーブと、そのうちのいくらが既に選手の給与や移籍金、運転資金などに使われているかを考慮するのがスタンダードとなりつつある。
残額が、アーセナルがチームの補強などに実際に自由に用いることのできる資金だというわけだ。
その一方で、アーセナルがどれくらいの負債を抱えているかという情報にはあまり注目は集まってこなかった。その主な理由は、アーセナルが毎年負債の返済と利息支払いに充てているのが20M£程度にすぎず、かつ基本的に毎年の支出額が一定だからだ。
だが、今回のCOVID-19の影響で、抱える負債はより影響が大きくなる
なぜなら
1) 放映権料やマッチデー収入の穴埋めをするために追加で負債を抱える可能性がある
2) 負債にはアーセナルの資金の使い道を制限するものがある(DSRAと呼ばれ、18か月分の返済に足る額を常にキープしておかなければならない、という制度だ)
からだ。
今回は、アーセナルが抱えている負債の色々な形式について解説していきたいと思う。
エミレーツスタジアム建設に関する負債
エミレーツスタジアム建設プロジェクトの総額は430M£で、アーセナルはこのうちの260Mを返済期間が長期にわたる借り入れによって賄った。
2006年7月にアーセナルが発行した担保付き債券の内訳は以下の通りだ。
・金利固定(5.14%)による210M分の債券: 返済期限 2029年
・流動性金利(現在は5.94%で固定)の50Mの債券(元金の返済はまだ始まっていない)
これらの金利は現在の情勢を鑑みると高額に思えるが、2006年の時点では、金利を固定するという判断は懸命に思われた。当然ながら賭けに勝つときも負ける時もある、ということだ。
2020年5月31日の時点で残っている負債は
・94M分の金利固定債券 次の支払いは2020年9月で支払いが終わるのは2029年の9月
・50M分の流動性金利債券 2029年9月に14.3M、2030年9月に17.2M、2031年に18.5Mを支払う必要がある。
ちなみに、430Mのうちの残りの170Mをアーセナルは以下のように捻出した。
・55M ナイキからのスポンサー料
・35M エミレーツ航空からのユニフォーム+スタジアム命名権料
・30M グラナダメディア/ITVへの5%の株式売却
・25M クラブが保持するリソースからの捻出(ハイバリー跡地の開発など)
・15M デラウェア・ノースへの20年間分のケータリングライセンス(2026年に失効)
・10M C&D社債 これについては下に解説する
社債
1991年5月にハイバリーのノースバンクスタンド建設の資金をねん出するために、クラブはA社債(1500£)とB社債(1100£)をサポーター向けに発行した。
これには10年間のチケットの優先購入権が付随しており、アーセナルは14.4M£を調達した。この社債の支払い期限はなんと、2143年、123年後となっている。もしサポーターがこの債権をずっと大切にとっておけば、彼らは1500£か1100£の払い戻しを受けられる、というわけだ。
エミレーツスタジアム建設の際に資金不足が生じたため、クラブはまたしても同じようにC社債とD社債を2003年6月に発行し、10.2M£を調達した。これらの金利は2.75%となっており、2028年7月に、クラブは15.4Mを払い戻す義務がある。
オーバードラフト(預金残高が0になってもさらにお金を引き出すこと)
アーセナルはバークレイズ銀行と50Mのオーバードラフト(当座貸し越し)可能な契約を結んでいる。2019年の時点でアーセナルの利用可能なオーバードラフトの枠は50M丸ごと残っているが、我々の予測では、2020/21シーズン向けのシーズンチケット更新の資金がアーセナルには入らないため、この枠を使わなくてはならないはずだ。
本来であれば4-5月がシーズンチケット更新の期限だった。また、アーセナルは預金額のうちの36MをDRSAのために保持しなくてはならないことも思い出す必要がある。
選手獲得に関する負債
アーセナルは過去三年間で300M£以上を選手獲得に費やしている。そして、このうちの多くが何年間にもわたる分割払いだ。我々の概算では、2020年の時点で獲得先のクラブに120M程度の支払いがまだ残っており、そのうちの40M程度を2020年に支払う必要があるはずだ。
まとめ
アーセナルの抱える負債の一覧
・94M£ スタジアム建設に伴って発行した債券(今後9年間で返済)
・50M£ 同上 ただし2029-31年の3年間で返済
・15.4M£ 2028年に払い戻し予定のサポーター向け社債
・40M£ 今年中に支払う必要がある移籍金
・120M£ 来年またはそれ以降にし貼る必要がある移籍金
合計: 279.4M£
アーセナルの抱える負債の多くは長期間にわたって返済されるものであり、毎年の支払いが20M前後に収まることを考えると、恐らく喫緊の問題は移籍金分の支払いだろう。
スタジアム建設に伴う負債は2031年までかけて建設すればよいが、移籍金の各クラブへの支払いはそういうわけにはいかない。アーセナルの毎月の運営費は27M£程度だが、収益が入らない期間中、この支出をカバーするのに恐らくオーバードラフトが使われるだろう。
だが、この限度額を超えてしまいそうな場合は、アーセナルは追加で資金をどこかで調達する必要があり、クロエンケはどこかで決断を下す必要がある。
クロエンケが用いることのできるオプションは以下の通りだ。
・自身の資金をクラブに貸し付ける
・バークレイズ銀行、あるいは他の金融機関からの貸付枠を広げる交渉を行う
・追加で株式を発行する
・(極端なケースの場合)自身の保持する株式の一部を売却する。例えば、10%を売却すれば、150M£を調達できる。
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コメント一覧
クロエンケが自身の持つ株を売ったとしてとアーセナルにはお金は入らないのでは?
それ僕も思ってました!でも結構いろいろなところでそれが方策の一つとして論じられているんですが、だれか詳しい方がいたら教えてください!笑
なるほど、ていうか普通に健全経営ですね
コロナショックさえなければ
とはいえあらゆる企業が苦しくて融資受けて当座しのぐしかない訳ですから
契約少ない選手の安売りは避けられそうにないマーケットかなぁ
今更ながら選手人件費とCL参加であまりに経営左右されるモデルが厳しいです
プレミア以外なら人件費抑えてトップ4の競争力維持は可能なんですけど
あまりに経営の浮き沈みが激しいのでuefaの枠組み自体考えるヒトが出てくるのもわかります
CLで結果出せないので説得力無いですが、、
そうですね、毎年の売上が400M程度あることを考えると負債の水準は別にこんなものなのかなと僕も思いました!
まあサッカーが再開しないことには入ってくるお金がほぼゼロになってしまうので厳しいですけど、、、
いつも拝読させていただいてます。
記事中、「債券」と「債権」が混同してるように思います。
真逆の意味になってしまいますので、誤解する方がいるかもしれません。
失礼しました!
ありがとうございます!直します!