デクラン・ライス: サッカー史上初『105m£の大バーゲン』

分析Tim Stillman,海外記事

何度かこの話はしていると思うが、サッカーライターにとっては、より賛否両論あるような選手についての記事を書く方が簡単だ。誰の目から見ても素晴らしい選手というのは、そこまで長く書くことがないからだ。例えば『ウィリアム・サリバは守備が非常に上手い』という内容を1200語かけて書くことは出来ない。

グラニト・ジャカ、オリビエ・ジルー、セオ・ウォルコット。彼らについて長文のコラムを書くのは容易だった。彼らは分析の必要のある様々な要素を含んでいたし、調子は上下し、彼らのプレイスタイルが合うチームメイトも合わないチームメイトもいた。これらが深みのある議論を生み出した。

さて、では今のアーセナルのスカッドを眺めてみよう。ガブリエル、サリバ、ベン・ホワイト、マルティン・ウーデゴール、ブカヨ・サカ。ガブリエル・マルティネッリに関しては彼らは素晴らしいという以外にはもう特にこれ以上言うことがないように思われる。

彼らは素晴らしい選手だ、と言い続けられる回数には限りがあるし、プレミアリーグの月間MVPが常にバロンドール候補レベルの選手が受賞する、などといった事態にならないのも同じ理由だろう。

この賞を受賞するのはどちらかというと、想定以上に素晴らしい活躍を見せた選手で、階段を一歩上ったと思わせるような選手たちだ。毎月ハイレベルで素晴らしいパフォーマンスを見せている選手たちにはそこまでスポットライトは当たらない。

さて、ではそろそろデクラン・ライスの話をしよう。

彼は常に素晴らしい。そして、この分析に何かを付け加えるのはなかなか難しい。彼の素晴らしさには特に複雑なところもなく、一目で分かり易いタイプのものだからだ。

獲得の経緯からして、昨季アーセナルがボール保持時に相手にスキを突かれることが多くなり、タイトルレースで勝利できなかったことを考えれば、リーグ最高の守備的MFを獲得するというのは非常にロジカルなアプローチに思われた。

ライスの獲得は前シーズンに明確になったチームの課題を解決するためにリーグ随一の実績のある選手を獲得するという意味では、2012年に起きた悲しい出来事、マンチェスターユナイテッドがプレミアリーグ優勝を得失点差で逃した翌年に昨年のリーグ得点王(彼の名前は何と言っただろうか?よく思い出せないが)をチームに加えたときのことを少し思い起こさせる。

また同時に、ライスの獲得は2013年にアーセナルがエジルを獲得した時のアーセン・ベンゲルの『エジルを獲得するのにスカウティングは必要ない、必要なのは資金だ』を彷彿とさせるところもある。

もちろん今季のアーセナルの堅守はライス一人の力によるものではないだろうが、彼の加入がチームの守備の変革において最も大きいファクターなのではないだろうか。

ライスは自身のキャリアを通してその学習能力の高さも見せており、毎シーズン新たな側面をプレイに加えている。21/22シーズンウエストハムではスーチェクの後ろで低い位置でのダブルボランチの一角としてプレイしていたが、22/23シーズンにはライスはボールをもって前へ運ぶなど攻撃的なプレイもこなし始めたので、その役割を入れ替え、より攻撃的な位置でプレイするようになった。そして、それが今のアーセナルでのプレイにも生きている。

彼の足は時折奇妙に見えるほどよく伸び、突然何もない所から現れて相手のボールを弾く。もちろんこの素質はボールを持った際にも発揮され、一見相手のタックルにさらされそうな一にボールを置いていても、素早く外にボールを動かし、かつそれをキープすることができる。

一方で、アーセナルファンにとっての嬉しいサプライズは、ライスがこういったアスリート力だけではなく『スーパーヒーローの素質』をも備えていたことだろう。

ライスは試合中の非常に重要な局面で適切な判断を下すことができ、エリア内での最後の最後でのタックルや、ゴールライン上でどの位置で相手のシュートをブロックすべきかを直感的に感じ取ることができる。

ただ、華やかなプレイの陰に隠れがちではあるが、彼の一番の強みは適切な時に適切な所に位置取り、適切なアクションを行うことができる能力だろう。

もちろん、スタジアムを沸かせるようなスーパータックルや、惚れ惚れするようなボールを前に運ぶドリブルを見せる時もあるが、彼は非常にシンプルなプレイを何の問題もなく常に行い続けることができ、全く例外がない。

もしかすると、デクラン・ライスはサッカーの歴史上初となる『105m£の大バーゲン』となるかもしれない。

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Posted by gern3137