【戦術コラム】アーセナルはいかにしてついにマンチェスター・シティを打ち破ったか

分析Lewis Ambrose,海外記事

マンチェスター・シティ相手に試合をするにあたって、いかに彼らにプレスをかけ、ビルドアップを阻害するかは非常に重要となる。

マンチェスター・シティからボールを奪い、少しでも彼らが圧力をかけてくる時間を減らすつもりがあるのであれば、プレスをかけるほか選択肢はなく、それ以外の対応策は撤退してバスを停めるくらいのものだ。

試合の序盤アーセナルは非常に不安定に見え、観客も不安げだったが、そこからアーセナルはうまく立て直し、ボール保持時日保持時両方で何とか対応して見せた。

昨季のエティハドスタジアムでの試合ではアーセナルはマンツーマンでシティに対応することを選択したが、シティの予想外の戦略に対応策を講じる間もなく試合は終わってしまった。

シティはパーティをつり出すことでガブリエルが前に出ざるを得ない状況を作り(これにより、デブライネがフリーになる)、ハーランドへのロングボールへの落としにデブライネが走りこむスペースが生まれてしまった。

アルテタ自身も『シティは試合前だけでなく、試合中やハーフタイムにも形を変えることができる。これは試合を支配できるチームの強みだ』と語っている通り、ペップ・グアルディオラの試合中の修正力を認めているが、近年のアーセナル-マンチェスター・シティ戦ではアルテタはこれに翻弄され、修正が遅すぎたり、あるいはグアルディオラが投げかける問いかけに対しての答えを用意できていないことが多かった。

だが、ついに日曜日にアルテタは試合中の変更で試合の主導権を握り、勝利に導くことに成功したのだ。

最前線へのプレスとハーランドへの対応の変更

試合の序盤アーセナルは再びマンツーマン気味の対応を見せたが、これはシティがウイング不在とも呼べる布陣を送り出したためより容易になった。

ガブリエル・ジェズスが左CBのアケの所まで出ていき、チームとしてプレスをかけられているように見えたが、このアプローチの問題点はすぐ明らかになった。

プレスをかけることで、アーセナル全体がかなり前に吊り上げられてしまうのだ。ジェズスについてホワイトが左サイドバックのグヴァルディオルへのコースを消そうと出て行ったが、ここにシティの選手がさらに見方を手助けするために寄って行った結果、ジョルジーニョもそちらに引っ張られ、ホワイトが上がった後ろのスペースをカバーする形でフィル・フォーデンを見ていたウィリアム・サリバまでそちらに引き寄せられてしまった。

このような形になったとしても、大体の場合は大きな問題とはならないのだが、マンチェスター・シティとあーリング・ハーランドが相手の場合は話は別だ。

基本的にハーランドに対応するにはサリバとガブリエル2人ともを残す必要がある。

この次の場面で同じようにボールが相手陣で右に流れた際にはサリバは前でのプレスに加わるのではなくハーランドとともに後ろに残り、代わりにジョルジーニョがより積極的にプレスに加わったが、ボールを前に運ばれたためウーデゴールがフォーデンを追っていく必要があり、ジョルジーニョはコバチッチをマークする必要があった。

ジョルジーニョがイエローカードをもらうとともにアルテタはジョルジーニョに声をかけ、そこから徐々にアーセナルはプレスの形を変更していった。

ジェズスはアケまで出ていくことをやめてグヴァルディオルを見るようになり、これにより空いたホワイトが中央まで出て行ったりもしながらフォーデンについていくことができるようになった。そして、ジョルジーニョはその後ろでボールがこぼれてきた場合に備えてバックラインの前で控えていた。

これは試合最序盤の形と比べると、より保守的なアプローチかもしれないが、この対応によりアーセナルはよりソリッドになり、シティに簡単にはボールを前に運ばせないようにしながらも、ハーランドに2人のDFで対応できる形となった。

ウイング不在のシティに助けられたアーセナル

また、シティは前線の大外にウイングを配置しない形を選択したため、ホワイトとジンチェンコが外に残る必要はなく、フォーデンとアルバレスについていくことになった。

過去にグアルディオラのチームはアーセナル相手に全く同じ方法で何度も成功を収めており、そんな彼がウイングを使ってサイドバックを外にピン止めしない、という選択をしたのは非常に奇妙だった。

今季のシティでカイル・ウォーカーが第三のCBの陽にプレイするのではなく、右サイドの横幅を保つ役割を担っているが、彼は位置取りがウイングほど前係ではないため、対するジンチェンコのタスクは比較的シンプルだった。

同じように、その逆サイドでも、もし本職がウイングの選手を起用していれば、あるいは単純にフォーデンをより外に配置するだけでホワイトは彼についていくべきかより迷うことになり、カバーにジョルジーニョはつり出され、アーセナルの守備陣形はより引き延ばされただろう。4月の試合ではまさにそれが起きていた。

シティの攻撃を抑え込むことに成功

もちろん、グアルディオラがアーセナル戦で採用した戦術がそこまで効果的ではなかった(あるいは慎重すぎた)とはいえ、それでもマンチェスター・シティを打ち破るのはたやすいことではない。

だが、アルテタが施した修正により、その後のアーセナルはシティの攻撃を封じ込むことに成功した。この試合のシティの全ボールタッチ中ファイナルサードでのものは16%のみで、これは過去3シーズンのシティのプレミアリーグ全試合で最低のことだ

マルティネッリ登場により迫力を増すプレス

シティの2人のMFとハーランドの周りを4人でタイトに固めることに成功したアーセナルだったが、後半マルティネッリが登場したことで、攻撃だけでなく守備にもアグレッシブさを加えることもできた。

レアンドロ・トロサールは守備時のハードワークを行ってくれる選手ではあるが、マルティネッリのように守備時に2人分をカバーしてしまうようなスピード(とスタミナ)はない。

前半のトロサールの主な仕事はリコ・ルイスを見ることだった。だが、マルティネッリはディアスを追いかけながら、もし必要があればウォーカーやルイスに対応できるポジションにすぐ戻ることができる。このため、アーセナルのプレスの迫力は一段階増すこととなった。

マルティネッリの攻撃面の貢献

とはいえ、守備時以上にマルティネッリのアーセナルの攻撃への貢献は大きかった。ボール保持時にアーセナルは両サイドでダイレクトにゴールに圧力をかけられるようになり、シティとは対照的にアーセナルは両ウイングが相手のサイドバックを外にピン止めすることができていた。

ボールを回しているときには、サリバとホワイト、ジョルジーニョ、ウーデゴールとジェズスがそろったアーセナルの右サイドがよりボールロストの可能性が低いサイドとして機能しており、彼らがシティの選手を呼び寄せ、マルティネッリ(そしてライス)が逆サイドで1対1となるような形を作れていた。

基本的にはこの試合でアーセナルは安全志向で後ろからボールを繋ぎ、相手のプレスに対して数的有利を作ってボールを運ぼうとしていたが、マルティネッリの登場により左右両サイドで前への推進力が生まれたのだ。

この結果、アーセナルは前半よりも少し前がかりになり、シティを押し込むことができ、かつより多くファイナルサードでプレイできるようになった。

例えば、以下の場面はジェズスが中に入り、グヴァルディオルを引き連れていったことでホワイトがオーバーラップするスペースが生まれ、またグヴァルディオルがジェズスについて中に入っているため、フォーデンが戻る必要が生まれた。

その後細かなワンツーでアーセナルはグヴァルディオルを無効化することに成功し、慌ててベルナルド・シウバが隙間を埋めることとなった。

だがこれにより、7人ものシティの選手がボールに引き寄せられてこの20-25m程度のエリア内に位置することになった。

残りの3人はハーランド、アルバレス、ウォーカーだが、ハーランドは遥か前方に離れていたため守備には参加しておらず、ウォーカーがマルティネッリを見ており、逆サイドのマルティネッリにボールが届いた瞬間にアルバレスがマルティネッリとウォーカーが1対1になってしまうのを防ぐためにそちらに走った。

だが、そのためその後ろのジンチェンコには広大なスペースが与えられ、余裕をもってクロスを上げることができた。

その後選手交代が行われても、多少形を変えながら基本的には右サイドでオーバーロードを作る形は続いた。

リスクを冒さなかったシティ

同じような形でシティが前に出ようと試みた場面もあり、アーセナルはそれに対して良く守ったものの、リスクをとったり後ろにスペースを空けずにボールが奪えそうなシチュエーションはあまり多くなかった。

しかし、数少ないチャンスが訪れた際には得点場面に象徴される通り、アーセナルは与えられたスペースをきちんと活用することに成功した。

実際はシティにもアーセナルが得点したシーンのようなチャンスは訪れていたが、彼らはそれを生かせず、そしてこれが文字通り勝敗を分ける違いとなった。

上の場面で、ドクがサイドにいるのでホワイトは中に入ることができず、サリバとの間隔が広がり始めている。さらに、ストーンズもトーマス・パーティをボール側のサイドに引き寄せているので、このままだとアーセナルにとっての右サイドでチャンスが生まれそうだ。

だが、ここで裏へと走りこむシティの選手は誰もいなかった。

これは昨季グラニト・ジャカが何度も何度もアーセナルで見せていたようなプレイで、この場面で左サイドバックのグヴァルディオル、あるいはマテウス・ヌネスがホワイトとサリバの間のスペースに走りこんでいたら、アーセナルの守備陣は困ったことになっていただろう。ホワイトはそのランを放っておくか、ついて行ってドクをフリーにしてしまうかの2つしか選択肢がないからだ。

もちろんグヴァルディオルはまだシティに加入して日が浅く、もしかするとグアルディオラのやり方を完全に把握していないのかもしれないし、あるいは単純にシティは途中でボールを失った場合に備えて、そこまでのリスクを冒したくなかったのかもしれない。

だが、結果的に、このおかげでアーセナルの守備は楽になった。

勝敗を分けた冨安の『グラニト・ジャカ式のラン』

そして、一方でアーセナルはピッチの逆側でシティとは異なるプレイを選択した。

マルティネッリが外にいたので、ウォーカーはマルティネッリと中に走りこむ選手を同時に見なくてはならず、先ほどのホワイト同様の問題を抱えており、どちらかをフリーにしてしまう必要があった。

そして、この場面でのアーセナルとシティの違いは、実際に冨安健洋が縦に走りこんだ、という点だ。この先何が起きたかは言うまでもないだろう。

もしかすると、違いとなったのはホームでプレイし、長期にわたってシティ相手に勝てていなかったアーセナルの方が、より大きなリスクを得点のために背負う用意があった、ということなのかもしれない。

試合を通して、アーセナルとシティの両チームはそこまで無理して攻めることはせず、引き分けでもよいと考えているように見える場面もあった。だが、最後の最後でよりリスクをとる選択をしたアーセナルが、それに見合った結果を手に入れることとなった。

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Posted by gern3137