何故アメリカの投資ファンドが欧州のサッカークラブを買うのか?

分析

『フットボール・マネー: 資本主義と権力闘争のゲーム』の内容をもとに、前回の記事に引き続き、今回は何故米ファンドが欧州のサッカークラブを買うのか、に関する解説です!


欧州サッカー界を大きく変えてしまうようなインパクト、という点ではアブラモヴィッチによるチェルシーの買収と、その後の中東国家資本の参入、の方が影響は大きいかもしれないが、単純なクラブの数で言えば、それよりはるかに存在感があるのがアメリカ人オーナーやファンドによって進むクラブの買収だ。

アメリカの各アクターがサッカーというスポーツが世界的にいかに魅力的なコンテンツになりうるか、は1994年のアメリカW杯がきっかけだった。

地元の名士や資産家がクラブを保有し運営する時代はとうの昔に過ぎ去り、特にプレミアリーグに関して言えば、リーグ全クラブの半分を超える、なんと12クラブがアメリカ人オーナーによって保有される事態になっている。

また、プレミアリーグだけでなく、英二部や三部、四部にも多くアメリカ資本が参入しているし、これはイングランドでのみ起きていることではなく、リーグアンのクラブも半分以上が海外の投資家によって保有されている。

ではなぜこのようなことが起きているのだろうか?

過小評価されている魅力的な投資対象としてのサッカークラブ

究極的には、その理由を一言で言ってしまえば、何故その土地に縁もゆかりもない投資家が欧州のサッカークラブを買収するのかといえば、彼らがそれを資産価値が過小評価されている魅力的な投資対象であると考えているからだ。

前回の記事で触れたとおり、チェルシーやマンチェスター・シティのクラブとしての価値は買収時に支払われた金額の数十倍になっているし、KSEはアーセナルの買収に段階的に約2000億円程度を支払っているが、現在のアーセナルの価値は5000億円程度と見積もられている。

2016-2023年の7年間において、欧州の主要32クラブの時価総額は96%上昇しており、これはFTSE100(ロンドン証券取引所版の日経平均株価・S&P500のような指標)の上昇率を上回っている。

多くのアメリカの投資家が欧州サッカークラブへの投資を狙うのは、基本的には他の業界の企業買収と同じ理屈だ。彼らは欧州サッカー界が経済面で効率よく運営されているとは考えておらず、経営の主導権を握り効率化を行えば、クラブ財政規模を数倍に引き上げることができると考えている。

その典型例がマンチェスター・ユナイテッド、例えば彼らはボーダフォンとのスポンサー契約終了後に、セクションや業界ごとに細かく切り分けたスポンサー契約を結ぶことで商業収入を大幅に増加させた。

NFLが3億人の観衆から130億ドルを生み出していることを考えれば、20億人もの観衆を抱える欧州サッカーははるかに大きなポテンシャルを抱えている、というのが一般的な見方だ。

コロナ禍、キャッシュフローと社会インフラ

また、アメリカ資本の欧州サッカー界への参入を一気に加速したのがサッカー界に大打撃を与えた新型コロナウイルスのパンデミックであったというのも皮肉なことだ。

『フットボールマネー: 資本主義と権力闘争のゲーム』の中で、デラニー記者は『葬儀は中止になったが、フラムvsウエストブロムの試合は開催された』例を挙げるが、これが示したのは、その地域との密着性や社会インフラ的な性質、その社会における重要性から、サッカークラブ、サッカーの大会というビジネスが遂行されることは、他の業界にはない形で強く保護されている、ということだった。

加えて、サッカークラブの収益の多くを占める放映権料は複数年単位で契約が結ばれており、長期的なキャッシュフローが担保されている点も他の業界の企業と比べて魅力的な点だった。

コロナ禍でサッカー界が示したレジリエンスが逆に安全な投資先としての評価を高め、また無観客試合等の影響でクラブの評価価値自体は下落していたため、割安な投資先として一気に欧州サッカークラブへの投資がこの時期行われることとなった。

オープンな欧州サッカー界

また、欧州サッカー界はアメリカのスポーツと比べて投資に対して非常にオープンでもある。プレミアリーグの悪名高い『オーナー適正テスト』は英国での犯罪歴がない限りはパスできる、という実質的に存在しないも同然のもので、特にサポーター保有の伝統がまだ残っている国のリーグと比べてイングランドは特にサッカークラブの買収が容易だ。

これはプライベートエクイティによる株式保有が10-30%に制限されていることの多いアメリカの主要スポーツリーグとは対照的だ。

また、例えばNFLではクラブを買収しようとする際に、借入金を充てられるのは12億ドルまでという制限があり、これもまた、グレイザー家がマンチェスター・ユナイテッド買収の際の資金の半分以上を借入金で賄ったのと対照的だ。

さらに、昇降格が存在する、開かれたリーグであるという形態の違いも、アメリカのスポーツリーグのクラブよりも参入障壁が低い大きな理由の一つとなっている。

日本のプロ野球を想像してみるとわかりやすいかもしれないが、限られた企業とクラブがトップリーグのメンバーとして固定されている場合、クラブの現保有者のうちのいずれかに売却のつもりがなければ、実質外部からリーグに参入するのは不可能で、アメリカのスポーツリーグでも似た現象がみられるが、欧州サッカー界では、いきなりプレミアリーグのクラブを買収せずとも、下部リーグのクラブを買収し、経営や運営体制を強化しプレミアリーグ昇格やCL出場権獲得等を狙う、というルートが存在する。

そのよい例がイプスウィッチ・タウンで、アメリカのコンソーシアム、ゲームチェンジャー20が2021年に当時三部に在籍していたイプスウィッチを買収すると、そのわずか数年後にはクラブは2年連続の昇格を果たしてプレミアリーグへの昇格を勝ち取り、プレミアリーグ初年度には降格してしまったものの今季はチャンピオンシップで現時点で3位と、再びプレミア昇格が狙える位置につけている。


『何故アメリカの投資ファンドが欧州のサッカークラブを買うのか?』という問いに対してより詳しく知りたい、あるいは開催が迫る今年のアメリカW杯の候補地選定の裏側などに関してが気になる方はぜひ本日発売の『フットボールマネー: フットボール・マネー: 資本主義と権力闘争のゲーム』をどうぞ!

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Posted by gern3137