メスト・エジルのプロフェッショナルな姿勢を称えよう
新時代のシンボルから一転、エジルの苦難
アーセナルがメスト・エジルをレアル・マドリードから獲得した際の衝撃はいまだに記憶に新しい。エミレーツスタジアム建設の借金返済のためにマンチェスターやバルセロナに選手を売り飛ばしていたアーセナルがレアルマドリードの10番、世界でもトップクラスのトップ下とされていた選手を獲得したのだからそれも当然だ。
だが、新時代の到来の象徴とされたメスト・エジルは次第に華やかさはあるものの、よく悪くもアーセン・ベンゲル時代後期のアーセナルの象徴とみなされるようになり、新監督ウナイ・エメリの到来とともにアーセナルでの活躍は終わったかに見えた。
エジルを重用するベンゲル監督が去ったことで、フロントはエジルを代替可能な戦力とみなし、彼の破格の週給は誰かほかの選手に費やした方が良いと考えるようになった。
そもそものきっかけがエメリの判断だったのか、あるいは初めからフロント主導だったのかは明らかではないが、エジルは特にアウェイ戦でベンチ外になることが増え、いわゆる"干されている"という状態であることは明らかだった。エメリが暗にエジルに『出番を得られることはないから移籍が最善の道だ』と告げた、という報道すらもあった。
エメリはエジルのメンバー外を何度も単に戦術的な理由だ、と口にしたが、スタメンを外れることは理解できるとしても、エジルをベンチにさえ置かないという判断が戦術的に理に適っているとは到底考えづらい。彼の代わりにジョー・ウィロックやエディー・エンケティアがベンチ入りしたりもしていたのだ。エジルよりもユース選手が試合を変えるうえで役に立つ場面を想像するのは難しい。
腐らなかったエジル
このような事態が何週間も続いており、契約はまだ残っているとはいえクラブ側の意図は明確で、冬には買い手が見つからないにしろ、エジルの夏の移籍は確定的だとみられていた。なにより、未だに同ポジション内では世界トップクラスであり、ドイツ代表でW杯も優勝した男にとっては非常に屈辱的な事態だったはずだ。
この時点でアーセナルとエジルの関係に決定的な亀裂が入っていてもおかしくはなかったが、エジルは(多少の皮肉めいた投稿はあったにせよ)クラブや監督を公の場で批判するようなことは一切せず、ただ繰り返し『僕はアーセナルに残りたい』と口にし続けた。
エジルのツイッターアカウントのフォロワー数はアーセナルのクラブ公式アカウントのフォロワー数をはるかに上回っており、そのSNS上での影響力を用いれば、(実際の事情がどうあれ)クラブあるいは監督を悪者とする構図を作り出すことも出来たはずだ。
だが、BBCのオーンスティン氏が報じていた通り、エジルはチームでの立場を取り戻すために腐ることなく練習を続け、チームの和を乱すような振る舞いは一切見せなかった。アーセナルの選手に対するインタビューでどの選手もエジルは本当にいい奴なんだ、と口にしているのがその証明だろう。
Embed from Getty Images復活
これらの姿勢がエメリからも好意的に受け取られ、エジルはベンチ入りを果たすようになり、徐々にその出場機会が増えていく。W杯やそれに伴うごたごたの影響なのかシーズン前半は調子を落としていたが、ここに来てかつてのような輝きを取り戻してきたのも非常に大きい要因だったはずだ。
そして、ついに復活の時が訪れる。3/10、マンチェスターユナイテッド戦で、ビッグゲームでのエジルの起用は避けるだろうという大方の予想に反して、エメリ監督がラムジーと同時にエジルをピッチに送り出したのだ。ここまでFA杯、アウェイでのユナイテッド戦共にエジルは先発していなかった。
この試合でエジルは素晴らしいパフォーマンスを見せ、見事にチームでの立ち位置を再びつかんだかに見える。ここまでエジルは4試合連続でスタメン出場を果たしており、これは今シーズンでは最多の連続記録だ。エジルはエメリが求める役割を理解し、また、エメリもエジルをどう活用すればいいのかを見出したように見える。数か月前の不穏な空気と比べれば、これがアーセナルにとって大きなポジティブであることは疑いの余地がない。
これに関して、干されながらも貫いたアーセナルへの愛、そして、監督が起用してくれないのであればハードワークをして実力を認めてもらうだけさ、といわんばかりに不満を言うことなく練習を続け、有言実行でチームでの立場を再び勝ち取ったことは賞賛されるべきだろう。
もちろんプロ選手であれば当然だ、という意見もあるだろうが、エジルほどの地位を得ている選手が一から自分を証明しなおすことを強いられるという経験は容易なものではなかったはずであるし、そのプロフェッショナルな姿勢こそ、彼がワールドクラスの選手に上り詰めた理由の一つなのかもしれない。
もちろん、これを受けて、フロント陣が意見を変えたかどうかまではわからない。もしかすると、未だに給料に見合う獲得は見せていないと考えている可能性もある。だが、少なくともエジルとエメリの関係性は良好に見え、監督がエジルを起用する意思を見せている以上、彼の夏の移籍の確立は大きく低下したといえそうだ。
ロシツキーは引退し、ウィルシャーとウォルコットは去り、ラムジーもこの夏にユベントスへと去る。今やアーセナルに残る最後のアーセン・ベンゲルの忘れ形見ともいえるメスト・エジルが過去のアーセナルと未来のアーセナルをつなぐ架け橋となり、新たな時代を築き上げていくのかもしれない。
ディスカッション
コメント一覧
いつも拝見しています。移転1発目にステキな記事でした。
ロシツキーやウィルシャーもそうですが、こないだのバルサ戦のカソルラを見ていると、よくもこんなに素晴らしいチャンスメーカーを集めたな、と改めてヴェンゲルさんに感心します。
あのメンバーでタイトル取れれば、言うことなしだったんですけどね。怪我などもあり上手く重なりませんでした。
エジルには本当に頑張ってもらいたいです。アーセナルで引退の道はないものでしょうか。
ありがとうございます!!
本当にその通りですね、その最後の生き残りともいえるエジルには出来るだけ長くアーセナルでプレイして欲しいものです。
120パーセント同意します。
ベンゲル後期、特に主力が毎年引き抜かれる時代に獲得したエジルは、まさにグーナーにとってはタイトルと同じくらいのかちと衝撃があったと思います。ハードワーク前提の今の時代、なんとかエジルがアーセナルでプレーする姿を見続けたいと願う今日この頃です。
やはりエジルにはとりあえずこの調子で好調を維持していって、アーセナルでの将来を勝ち取ってほしいですよね!
Webリニューアル、おめでとうございます。
エメリへの最大の不満はエジルを活かす方策を見い出せていないことでしたが、最近はそれが解消しつつあるので、嬉しい、というか、ほっとしてます。
個人的には、フロントからのプレッシャーよりも、エメリが最適解を得られなかったことが主な要因と思っています。(最近、何となくエメリの性格が見えてきたように感じていて、あまり策略的なことが好きなようにはみえません。頑固なだけ?w)
ありがとうございます!!
これはエジルに限らず言えると思いますが、確かに最近はようやくチームの選手たちのことをどう扱えばいいか理解してきたせいか、チームの調子も上向きだした印象がありますね!