ボール保持力を高めるアーセナル
『我々は敵陣で3万本のパスをゆったりと繋げばよかったのだ。そして、相手がボールを奪いに出てきたところを見計らって適切なタイミングで攻撃を仕掛けるべきだった。だが、アーセナルにはそれができず、試合は最後の最後までオープンになってしまった。』
これは、3月のワトフォード戦でアーセナルが3-2で勝利を収めた試合後の会見の、アルテタのフラストレーションの溜まったコメントだ。この試合でアーセナルのボール保持率はそこまで低い訳ではなかったが、試合をコントロールすることはできず、まるでバスケットボールのような攻守交代を繰り返すオープンな試合展開だった。
3-2へとアーセナルのリードは縮まり、試合終盤に緊急的なストッパーとしてロブ・ホールディングがウーデゴールに代わって登場した。
ロブ・ホールディングが指を5本立てて5バックの指示をチームに伝え、彼がボックス内をパトロールする姿はインターネット上で話題になった。
だが一方で、このようなやり方で常に守り切れるとは思えないし、若かりし頃を羅バルセロナのアカデミーで過ごし、グアルディオラに従事したアルテタの目指すものとも異なるだろう。
ワトフォード戦後のコメントにもそれは現れており、彼はむしろボールを繋ぎ続け、相手にボールを持たせないことが重要だと主張した。
だが昨季の時点ではアーセナルにはそれが可能なだけの選手が揃っていなかった。例えば、サイドバックは怪我が相次ぎ、ボールを失うことが多いセドリックとタヴァレスがプレイしていた。
この夏アーセナルはオレクサンドル・ジンチェンコ獲得が間近に近づいている。ジンチェンコはそのパスの上手さから分かる通り、非常に技術の高い選手だ。
彼と同じようにサイドバックと中盤両方が務められ、中に入るサイドバックとしてのプレイが出来る選手としてはクラブにナイルズが居るが、彼とのジンチェンコの大きな違いは、ジンチェンコはイングランドでの5シーズンでパス成功率90%以上を記録しているということだろう。ナイルズは80.6%で、この二人のテクニカルレベルの差は明らかだ。
トレイラも同じような存在と言っていいかもしれない。もちろん彼自身が移籍を希望しているというのは大きな要因だが、トレイラがパーティの控えとしての座を勝ち取れなかったのはやはりボール保持時の技術面が要求水準に達していなかったからというのもありそうだ。
夏に新加入のガブリエル・ジェズスはタイトなスペースで相手のプレッシャーに対処するのを苦にしない選手だし、エンケティアは元からボックス内での得点力には定評があったが、最近前線から降りてのプレイも大きく改善を見せている。
そして、同じくこの夏にクラブに加わったファビオ・ビエイラはまるでアーセン・ベンゲル時代中期を彷彿とさせる獲得だ。彼は8番、10番、あるいはゼロトップ、ウイングとしてプレイできる選手だが、彼もまた、チームの技術レベルを引き上げてくれるに違いない。
昨夏のアーセナルの補強は守備陣がメインだったが、この夏のテーマは得点力を強化すること(ジェズスの獲得とエンケティアの契約延長)と、ウーデゴールのように、ボールを持った時のプレイが上手い選手を増やすことであるとみて良いだろう。
アルテタはアーセナルのボール保持時のプレイ精度を上げる事には攻守両面で多くのメリットがあると考えているに違いない。
マンチェスター・シティは非常に失点数が少ないが、彼らはクリーンシートを鉄壁のCBを揃えることで成し遂げているわけではない。
彼らはそもそも相手にボールを持たせず、攻撃のチャンスを与えないのだ。
そして、アーセナルにとってビルドアップをよりスムーズにし、かつボール保持の時間を増やすことは相手がボールを追いかける時間が増えることでより疲労がたまり、自チームの攻撃を行いやすくなるというメリットもあるだろう。
アーセナルの最終ラインには今季からタヴァレスとホールディングに代わりジンチェンコとサリバが入ることになる。これはよりボール保持時の安定感を増すための一歩だし、攻撃陣にはビエイラとジェズス(ジンチェンコが中盤でプレイする可能性も大いにある)が加わる。
ここまでは多くの得点とアシストを挙げているスミスロウとマルティネッリの二人だが、恐らく今季はその前の部分、よりタイトなスペースで、ショートパスを使った連携面を磨くことを求められることだろう。
アルテタがチームのボール保持力強化を目指すのは特にサプライズだというわけではない。そもそもホワイトとラムズデールの獲得も、部分的には最終ラインからのボール運びを強化するための選手獲得だったはずだ。
今季は守備陣がボールを前へと運んだ次の段階、更により前のエリアでよりボールを保持し、攻守両面の改善を図ることが課題となるだろう。
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