またしても岐路を迎えるカラム・チェンバースのアーセナルでのキャリア
最近のアーセナルにおいては、チェンバースのようにクラブ在籍期間が長い選手は比較的珍しい。既に2度のローンとACLの怪我を乗り越え、アーセナルの7シーズン目を迎えている。
ローン先のフラムとミドルズブラでのパフォーマンスはソリッドだったものの、両チームだけ降格の憂き目に合っており、未だアーセナルで、ファーストチームでの常連というほどの地位にいたことはない。
エインズリー・メイトランド=ナイルズ現象と呼んでも良いかもしれない、ポジション面で融通が利くゆえにチームにとっては有用だが、個人としての成長が軌道に乗らない、という事態にチェンバースも陥っている。
アーセナル時代にはCBとして、そして右サイドバックとして、フラムでは守備的MFとして、それなりの活躍は見せたが、あくまでそれなり以上でも以下でもなかった。
常にメンバー争いに食い込めるぐらいの位置にチェンバースはいたものの、アルテタに監督が変更となった直後、2020年の1月にACLの怪我をしたことで、彼のアーセナルでのキャリアは終わりに近づいているかに思われた。
チームにはルイス、ムスタフィ、ホールディング、ベジェリン、ナイルズがおり、ローン先にはサリバもいて、この月にセドリックも獲得されたことを考えると、もうチェンバースの居場所はないかに見えた。
だが、チェンバースのアーセナルのキャリアはいつも不死鳥のようによみがえる。まるで、よくあるホラー映画のシーンで、主人公が悪役を倒したと思い、武器を地面に置く場面のようだ。いつもここで我々は『最後までちゃんと確かめろ!!』と叫ぶことになる。
既にベジェリンとセドリックがチームに在籍しており、今季開始時点で、アーセナルはチェンバースをファーストチョイスの右サイドバックに据えてシーズン終了を迎えると予想していたアーセナルファンは1人もいなかっただろう。
だが、いざふたを開けてみれば、ヘクターのアーセナルでのキャリアは終わりに近づきつつあり、セドリックの獲得はビールを8杯飲んでから送ったメッセージのようなもので、その時点では良いアイディアに思えたが、翌朝にはそうは思えない、というタイプのものではないか、と感じられつつある。
チェンバースのアーセナルとの残り契約はあと1年となっているが、ベジェリンは移籍が濃厚で、セドリックは右サイドバックの3番手で、チェンバースが契約延長を勝ち取る可能性はかなり高そうだ。
恐らく理想的にはアーセナルはベジェリンとセドリックの両方を獲得し、チェンバースをバックアップに据えたい(ナイルズが完全移籍をするという前提での話だ)はずだ。だが、セドリックはそう簡単には売却できないだろう。
冷静に考えてみよう、アーセナルに移籍してきた時点でセドリックは恐らくローテーション要員だろうと思いながら4年契約にサインしたわけだ、現在の状況が彼にとって想定外なものだとは思えない。
彼が自分からアーセナルとの残りの3年の心地よい契約を手放すとは思えないし、一方でセドリックを同水準の待遇で獲得したいと多くのクラブが列をなして待っているとも思えない。
だとするのであれば、問題は、もしかすると控えとして置いておくのであればセドリックで事足りるため、より売却して資金捻出の見込みが高そうなチェンバースを売却するしかアーセナルには選択肢はないのではないか、という点だ。
だが、ホームグロウン制度が事情を複雑にしていて、カラムはホームグロウンだ。ナイルズやネルソン、ウィロックといった選手たちに退団の可能性があることを考えると、ホームグロウンの選手を一人でも多くチームに残すことは重要となる。
恐らくアーセナルがチェンバースの去就をどう決断すべきか、という問題に関しては、アルテタがチェンバースにどういう役割を果たさせるために右サイドバックとして起用したのか、というのを考える必要がある。
監督就任直後はアルテタは右サイドバックに中に入らせるシステムを用いており、第3のCMFあるいは第3のCBtとしてもプレイできるような選手を望んでおり、ナイルズを右サイドバックとして起用していた。
この点では、チェンバースはCMFと右CBとしての経験もあり、これらのスペースをどう埋めればよいかはわかっているはずだ。また、彼は身長もあるのでファーサイドを守る上で追加の空中戦要員となれる。
恐らくベジェリンが右サイドバックとして起用されなくなったのは間接的にティアニーが原因で、サイドをオーバーラップするタイプのサイドバックを両サイドに起用するのはカウンター時のリスクが高すぎるからだろう。
チェンバースは快足というほどではないものの、前線への上りは遅くはないし、実際に彼がオーバーラップした場合のクロスの精度が素晴らしい。
特にダイレクト、あるいはボレーでも高精度のボールが上げられるのがチェンバースの大きな強みで、左から右に素早くサイドチェンジをしてそこから彼がクロスを上げるのはアーセナルの一つの攻撃の形となっている。
特にそれがよく表れていたのがウエストハム戦の3-3のドローで、チェンバースは右からの低く素早い弾道のクロスからアーセナルの2点を演出した。
彼のクロス精度がベジェリンとセドリックを上回っているのは間違いないだろう。守備面で、彼の裏のスペースを突かれるのではないか、というのは若干不安ではあるが、実際のところチェンバースのスプリント能力は悪くなく直線であればかなりスピードはある。細かい敏捷性という意味では、相手のターンなどにどれくらいついていけるかは懸念ではあるが。
実際のところ、6年半前にチェンバースが右サイドバックとして先発し、ジェファーソン・モンテーロにずたずたにやられた試合の印象が強いが、面白いことに、それ以外にチェンバースが右サイドバックとして守備で怪しかった場面はそこまで多くはない。
さらに、現在のアーセナルの右サイドバックは中に入ることも多いため、そこまで守備面で晒されてしまうことはないだろう。
もしチェンバースがこの夏に契約延長を行うという事になれば、ファンにとっては複雑な心境になるのは理解できる。我々はスカッドの刷新を求めているし、ダビド・ルイス退団の発表がファンに見向きもされなかったことからもそれは明らかだ。
チェンバースのいくらかの移籍金で売却するチャンスは何度かあり、確かにアーセナルはもっと選手(特に、市場価値はあるものの、クラブを次のレベルに引き上げてくれるというほどではない選手)の売却をうまく行わなくてはならない、控えレベルの選手に投資を続けるのは控えるべきだ、という主張は最もだ。
だが、全ての選手を必ずしも同じように扱わなければならないとは言えない。
私が思うに、チェンバースの契約延長に関して考慮するべき主な点は以下の2つだ。
・セドリックの放出は可能か?
もし放出できないのであれば、アーセナルが3人の右サイドバックを抱えるのはリソースの無駄だし、真剣に中位脱出を目指すのであれば、チェンバースとセドリックは二人ともファーストチョイスとしては心細い。
・チェンバースの好調は一時的なものか?
かつてアーセナルにやってきたばかりの頃のチェンバースも、数か月間、上述のモンテーロ事件のまでは右サイドバックとして良いプレイを見せられていた。契約延長を行ったとしたら、その数年の間にチェンバースは相手に研究され、いずれその弱点を露呈してしまうだろうか?
アルテタは好調の選手を彼らの残り火が消えてしまうまで起用し続ける傾向にある。
ムスタフィにも似たようなことが起こり、当初は監督からの信頼を得ていたようだったが、最終的にムスタフィはいつものムスタフィに戻ってしまった。
チェンバースの右サイドバックとしてのキャリアを終わらせたかに見えたのは2014年のベジェリンだったが、その彼がチェンバースよりも先にクラブを去る可能性が高いのは運命の悪戯というしかない。この頃右サイドバックにはドビュッシーもいた。
さらに言えば、そこからアーセナルはサウサンプトンから2人目の右サイドバックまで獲得しているが、チェンバースは既に自身のキャリア200試合出場を達成しており、これらの右サイドバックのうち誰よりも長くアーセナルの選手として残ることになるかもしれない。
こうしてみるとなかなか数奇なストーリーだが、アーセナルは常に契約延長の基本ルールを忘れてはならない。新契約は過去の実績への報酬ではなく、将来の貢献の見込みに対する者なのだ。チェンバースの去就について考える際にもアーセナルはこの原則にのっとって決定を下すべきだ。
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