アルテタ戦術の柔軟性とそのカギを握るブカヨ・サカ【戦術コラム】
意表を突いた5バック
試合が近づけば、我々は対戦相手ごとのトレーニングを始める。相手の弱みに付け込み、相手の強みを無効化するために、自分たちのスタイルを少し変化させるのだ。
とは、最近のインタビューでアーセナルコーチのスティーブ・ラウンドが語った言葉だ。
この傾向は、木曜日のサウサンプトン戦で非常に顕著に表れていた。リーグ再開後に2連敗した後で、アーセナルでは初となる5バックをアルテタは起用した。
彼がグアルディオラとベンゲルのもとで学んだことを考えると、これは少し意外だといえるかもしれない。
だがアルテタは、どうやらセインツ戦を前にビエルサの本を読んでいたようだ。ビエルサはツートップ相手には常に1枚多くのCBを起用することを好み、1トップ相手には2枚のCBで、2トップ相手には3/5バックで試合に臨む。
サウサンプトンのイングスとオバフェミに大してアルテタも3人のCBを用いることを選択した。
攻撃陣の配置の工夫
また、アーセナルの攻撃時の布陣も、セインツ対策として用意されたものに見えた。中盤に3人を置くのではなく、ジャカとセバージョスの二人だけを配置し、その分サイドで数的優位を作ることを狙ったのだ。
ハーゼンヒュットルは幅の狭い4-2-2-2で、サイドの選手が二人ともトップ下のような形でプレイするフォーメーションを好む。
中央に選手を集め、中盤での争いを激しくし、中央の支配権を握るか、相手をサイドに追い出すのだ。
だが、アルテタはこれに対し、サイドの圧力を強めて中央を争点にしないことで対策とした。普段はアルテタは右サイドバックに中に入らせるが、今回の試合ではベジェリンはずっと外に張ったままで、サカも同じように左に居た。
このすぐ内側にペペとオーバメヤンを配置し、セインツが形成する狭い台形の中ではなく、その外でプレイするようにしたのだ。
とはいえ、普段とフォーメーションこそ変わっても、アルテタの基本的な戦術は変わらなかった。チームはこの試合でも、ピッチを5人ずつ2セクションに分ける形でプレイしていた。
ベジェリン、ペペ、エンケティア、オーバメヤン、サカの5人が良い距離間で攻撃時には散らばっていた。
オーバメヤンの役目はこれまでと全く変わらず、あるいは今までよりも中央寄りなくらいだった。セインツのヴァレリーはオーバメヤンと味方のCBの一対一を作らないように中に入るべきか、それともサカに寄せに行くべきなのかの判断で非常に苦戦していた。
結果的にはオフサイドだったが、彼がサカを放っておいた際にはサカはエンケティアに素晴らしいボールを通した。だが、サカをプレスに行くとオーバメヤンがロングボール一本でフリーになってしまう。ここも、オーバメヤンがポストに当ててくれたおかげで事なきを得たが。
オーバメヤンはセインツにとっての凄まじい脅威となっており、アーセナルの迫力ある攻撃は全て左が起点だった。エミ・マルティネスの素晴らしいキックもあり、この場面ではエンケティアに流し込むだけのアシストが出来ていてもおかしくはなかった。
後半のジョー・ウィロックの投入とタフなアーセナル
サウサンプトンが後半主導権を握りだした後で、アルテタは5バックを継続したままウィロックを投入し、フォーメーションを5-3-2に改めたが、ガナーズは試合を落ち着かせるためのポゼッションを保持するのに苦戦した。
だが、戦術的にあまりうまくいっていないながらもアーセナルは良く戦い、貴重なアウェイでの勝利を手にした。この経験はチームが自信をつける良いきっかけになることだろう。
エンケティアの素晴らしいプレス
また、このチームにおいてエンケティアは非常にシャープに見えるし、天性の得点感覚は素晴らしい。もちろん得点が相手GKのミスに見えることは間違いないが、そのミスを誘うようなプレイをエンケティアは見せられていた。
エンケティアは相手の中盤に向かってサイドからプレスをかけると、バックパスを余儀なくさせ、それを完全に読み切っていたエンケティアはボールがべドナレクに出される前に既に走り出していたのだ。彼は左に出せたかもしれないが、エンケティアがそちらに一歩踏み出したので、ボールをゴールキーパーまで下げなければならなかった。
そして、もう一度この場面を見返してほしいのだが、エンケティアはマッカーシーを追いかけながら、右に一歩踏み出し、相手のGKを逆方向に誘導し、その後見事ボールを奪っている。
予測も鋭いだけではなく、エンケティアが意図的にボールを奪えるかもしれない状態を知的なプレスと相手を惑わすステップをうまく使って作りだしたのだ。単なる幸運ではない。
サカの活躍
アカデミーの選手といえば、サカの活躍も見逃せない。サウサンプトン戦では彼は伝統的なウイングバックのようなポジションでプレイした。
それだけではなく、特に彼のブライトン戦でのパフォーマンスは素晴らしかった。
オーバメヤンの外側を何度も駆け上がり、4-4-2を作るような形で素晴らしいプレイを見せており、これは、レアル・マドリード時代のディ・マリア(その時オーバメヤンのポジションにいたのはロナウドだった)、あるいは今のシティのデブライネを思い起こさせる。
サカは既に非常にオールラウンドな能力を備えており、ピッチのどんな場所でもプレイできる。彼の才能とこの受難性のおかげで、アルテタは色々な興味深い戦術に挑戦できるのだ。
願わくば、我々が彼を留められることを祈ろうではないか。
特に、もしセインツ戦のように、相手の強みと弱みに応じて自チームの戦術を変えていくのであれば、アルテタにとって彼は重要な存在となる。
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コメント一覧
基本的考え方はベンゲル。とにかくベストメンバーというのが根底にある。違いは指示すること。そのやり方を学ぶために、アルテタはcityにいった。何を指示し、何をしないのか。アーセナル的解釈をアルテタは発見していた。自分と違った考えに耳を傾ける、というのはどうなるのか。私は今この一点を注視している。