トロサールの多彩さの真骨頂
夏に私はレアンドロ・トロサールについての記事を書き、彼の活躍は少々過小評価されている、という話をした。
2023-24シーズンにはアーセナルが優勝を懸けてマンチェスター・シティと死闘を繰り広げ、最後の18試合で16勝を挙げる中、トロサールはまるで2002年のフレディ・ユングベリのようなゴール前での爆発的な活躍を見せた。トロサールは2023-24にプレミアリーグで12得点を挙げ、うち9点はシーズン後半のものだった。
この頃のアーセナルは怪我人が少なく、ウーデゴール、サカ、ハヴァーツといったビルドアップにも長けた創造性豊かな選手が揃っていた。そのチームに本当に必要だったのはフィニッシャーであり、その役割を担ったのがトロサールだった。
特に彼はハヴァーツとの相性が良く、エリア内でボールに走り込みワンタッチで決める形が大半を占めていた。
彼は左右どちらの足も高い精度を持ち、バックリフトが極めて小さい。これらの特性が優れたシューターかつフィニッシャーとしての才能を支えている。
両足を使える選手はバランスが良い傾向があり、アヤックスのアカデミーが両足の使用を徹底するのは読みづらさだけでなく、より安定した重心を身につけられるからだ。
トロサールは左足でシュートを打つときも、一般的な選手が逆足でシュートを打つときにやってしまいがちな大きく振りかぶる動作をほとんど見せない。彼は右足の時と同じような技術を左足でも見せ、当て方も常に安定している。
多くのアタッカーは逆足を避けて中へ切り返すか、思い切り足を振ってボールを強打するかのどちらかだ。それでも得点はできるが、フィニッシュの幅はどうしても狭くなる。
だがトロサールは左足も十分な能力を持つため、バランスを崩さず、ボールへ触れる際にさまざまなアレンジが可能になる。
スラヴィア・プラハ戦でもバーンリー戦でも、トロサールの左足でのクロスからアーセナルは得点を挙げた。両足を自在に扱えることが、彼を相手サイドバックやDFにとって非常に読みづらい存在にしている。
昨季のノースロンドンダービーでの決勝点を見ても分かるように、彼はアーセナルで数多くの重要なゴールを決めてきた。
あの場面でも右足で打つことは可能だったが、彼は低くまっすぐ隅へ流し込むため左足を選択し、鋭く低いシュートを放った。両足を使えるということは、単純に選択肢となるシュートの種類が多い、ということも意味している。
2024-25シーズンのトロサールは前年ほどの称賛を受けなかったが、これはアーセナル全体のシーズン自体が前年ほど人々の想像をかき立てなかったからだと私は考えている。
しかし同時に、トロサール自身の貢献の比率も変わっていた。彼は2023-24のプレミアリーグで12得点1アシストを記録したが、2024-25では8得点7アシストだった。
合計はむしろ良くなったが、重心はフィニッシュからチャンス創出の方へ移っていた。
実際のxGは大きく変わっておらず、2023-24の12得点は7.9xG、2024-25の8得点は7.2xGから生まれたものだ。2023-24はやや期待値を上回って決めており、その揺り戻しが起きたとみることもできる。
だが、攻撃陣に怪我が相次ぐ中でも彼の得点とアシストは安定した水準を保っていた。
ウーデゴールは負傷後に不調が続き、ハヴァーツとサカも長期離脱があったが、その中でトロサールはよりチャンス創出にも関わり、求められる役割に応じて自身のプレーを変化させたのだ。
2023年1月にブライトンから加入した時点ですでに、彼が複数ポジションをこなせる選手であることは明らかだった。
アーセナルでは左ウイングでの出場が主だが、そのポジションから果たしてきた役割は時期によって大きく異なる。左サイドバックの人選だけを見ても、ジンチェンコ、冨安、ルイス・スケリー、カラフィオーリと常に変化してきた。
にもかかわらず、彼が特定のSBとは相性が悪い、のような話が出たことはあるだろうか?トロサールの真価は、単なるポジションの多彩さではなくそのプレイの多彩さにある。
彼は周囲の状況に応じて、自身のプレーを自在に調整できるのだ。
夏にはエゼ、ギョケレス、マドゥエケを獲得し、アーセナルは攻撃の厚みを強化した。多くのファンと同じく、私もトロサールの重要性は今季やや下がるのではと感じていた(戦力外になるとは思っていなかったが)。
アルテタは、前線の選手たちがボール非保持時にこなす膨大なハードワークが多くの怪我につながっているのではないかという難題にも直面しているかもしれない。
しかしトロサールはここまで見事なまでに、怪我のない状態を保ってきた。ただし、彼の価値は単なる稼働率にとどまらない。今季もまた、彼はチームが必要とする姿へ柔軟に変化してきた。
アーセナルには新加入の攻撃陣が3人おり、そのうちエゼとギョケレスはほぼフル稼働している。一方でハヴァーツとウーデゴールはほとんど出場できず、サカとマルティネッリも離脱している。
そんな中でもトロサールは求められる役割を担いながら、攻撃陣が急造チームのように見えないための軸として機能し続けている。
時にやや気難しい存在として映るため誤解されがちだが、彼のリーダーシップも、外部では過小評価されていると感じられる。
2023年夏、アーロン・ラムズデールがトロサールについて語ったインタビューが個人的には非常に印象に残っている。彼は「トロサールは『誰かのポジションを奪うために来た』という意識でアーセナルに加入したんだ。一見彼はチームのスカッドの一員となるために移籍してきたみたいに見えるが、本人の頭の中では前線3人のうち誰かの席を奪ってやる、と思っているはずだよ」と語った。
彼の気難しさは競争心の裏返しでありながら、チーム内で担ってきた役割は常に利他的で、必要に応じて柔軟に変化してきた。
今夏の昇給は当然の結果であり、彼のプレイはすでに十分にその価値があると言っていい。
もしこのチームが本来手にすべきタイトルを掴むことが出来れば、トロサールは確実にアーセナルの物語の一部としてその名を刻むことだろう。
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