【アーセナル新加入】スカウトレポート: クリスティアン・モスケラ

分析Phil Costa,海外記事

実はクリスティアン・モスケラは幼少期からずっとバレンシアでプレーすることを目指していた、というわけではなく、そもそもサッカーすらプレイしていなかった。

彼が最初に夢中になったのはバスケットボールだったが、アリカンテの地元で行われるフットサルの大会で、従兄弟のチームが臨時の選手を必要としていたため、そこで助っ人として出場したことが、彼の人生を変えることとなった。やがて地元クラブのエルクレスでプレイをはじめ、そしてその後には地域の名門・バレンシアに引き抜かれたこととなった。

この歴史あるクラブはピーター・リムがオーナーを務める期間中激動の10年間を過ごしてきた。2度のリーグ4位はあったものの、大半の期間を中位で過ごし、降格の危機に瀕することすらあった。原因は、ずさんな補強、迷走した監督人事、そしてダビド・シルバ、イスコ、ジョルディ・アルバらを輩出してきた名門アカデミーの運営の手際の悪さである。

モスケラのバレンシアでの実績

こうした不安定な環境は、本来ならば成長途中の若手選手にとって好ましいとは言えない。しかし、モスケラが2023年8月にトップチーム入りして以来、彼は全72試合中70試合に先発出場し、U-21選手としてはヨーロッパ最多出場時間を記録している。2位のギョーム・レステスはGKであり、しかも彼と約1000分もの差をつけている。

彼は単なるローテーション要員ではなく、責任感とリーダーシップを備えた主力として機能していた。守備の相棒だったガブリエウ・パウリスタの退団以降は、自らが若手の中心となって最終ラインを率いる存在となった。秩序ではなく混沌の中からこそ成長が生まれるということを、これは示しているのかもしれない。

モスケラの強み: 1対1の守備

アーセナルの新任スポーツディレクター、アンドレア・ベルタがスペイン在任時に彼をアトレティコに引き入れたがっていたという噂もあることから、この移籍は全くのサプライズではない。

恐らくベルタやスカウト陣の目に特に留まったであろうのは、彼の1対1の守備だろう。

左センターバックとして、長身で冷静なセサル・タレガとコンビを組んだモスケラは、相方よりもよりアグレッシブなタイプだ。相手のミスやトラップの乱れを見逃さず、ポジションを飛び出してボールを奪い、素早くトランジションに移ることをためらわない。

この比較を喜ばしいと感じるかは人によるだろうが、フィジカルと脚の長さ、そして相手にとって厄介な存在であろうとする意志において、モスケラは少しアントニオ・リュディガーを想い起こさせる。

ただし、モスケラは向こう見ずというわけではない。適切な機会と見れば前に出ていくというだけで、若手DFにありがちな無謀な突進の癖が少ないのは大きな強みだ。ラ・リーガで50回以上のタックルを試みた195選手の中で、成功率76.7%はトップであり、その判断力とデュエルでの強さ、そして冷静さを物語っている。

彼は1対1の局面でも動じることはなく、「突破されない」という自信が彼のプレーからにじみ出ている。それは対峙する相手にも伝播する。接近時にはまるでボクサーのように重心を下げ、つま先で跳ねるように構え、いつでも飛び出せる姿勢を取る。

時折スライディングに行く場面もあるが、かつてバレンシアからアーセナルへとやって来たもう一人のDFを思い起こさせるような悪夢の心配はしなくても良い。モスケラはリスクの少ないエリアでそのようなチャレンジを行い、ペナルティエリアや中央での突入は避ける。しかもそのタックルもクリーンで、両足で飛び込むのではなく、脚を絡ませて奪うような方法を選ぶ。

アルテタにとって心強いのは、彼が高いカバーリング能力も備えている点だ。リカバリーのスピードに優れ、長いストライドで広大なスペースをカバーする。2024年4月のベルナベウでの2-1勝利では、キリアン・エムバペとヴィニシウス・ジュニオールの両者を抑え込み、スピード勝負でも彼らと互角に渡り合っていた。

ボール保持時のプレイ

では、ボール保持時の彼はどうか。サリバのようなゲームメイク能力を持つ選手に慣れきったアーセナルファンの目には、物足りなく映るかもしれない。

しかし、モスケラは不安定という訳ではない。近距離のパスを繋ぎ、自らも再度ボールを受けに回ることはでき、昨季のパス成功率は91.2%で、チーム内トップだった。左CBとして、利き足ではない左足を多用する中でこの数字を出したことは評価されるべきだろう。

タッチ数、パス数、前方へのパス割合なども、前年より向上しているものの、総パス数2048本中、プログレッシブなパスはわずか76本(3.8%)で、ボールを前に進めるパスのバリエーションには課題が残る。

今後ライン間を突くパスやロングボールでのサイドの展開、裏を狙う浮き球のパスなどをレパートリーに加えられれば、攻撃時にさらに怖い存在になれるだろう。

一方で、彼のボールを運ぶ能力はすでに非常に魅力的だ。昨季、ラ・リーガで彼より多くのボールキャリーを記録したDFは6人しかおらず、その全員がボール保持率の高いクラブに所属していた。彼のキャリーは、有効なボール前進手段だ

空中戦

ただし、モスケラの空中戦の対応力には疑問符が付く。

地上デュエル勝率70.7%に対し、空中デュエル勝率は45.2%とかなり大きな開きがあり、彼が長身で運動能力にも優れていることを考えると、これは少し奇妙にも見える。原因が技術なのか、ポジショニングか、それとも単に本人があまり空中戦を好まないのかはわからないが、ここに関して、今後の改善は必須だろう。

もちろん、背後には空中戦対応が得意なGKが控え、現アーセナルのCBどちらも頼りになる存在なのは心強いが。

まとめ

モスケラはアーセナルにとって一石二鳥ともいえる獲得で、冨安健洋の後継として若く多才なDFをチームに加えられたけでなく、既にサリバとガブリエルの負担を軽減することが出来る存在だ。

もちろんこの2人が常にフィットしていれば、彼らが出場し続けるだろうが、昨季終盤には両者ともハムストリングを痛め、選手をあまりに多く起用することのリスクは明白だ。

今夏、アーセナルはモスケラと似たタイプのCBであるディーン・ハイセン獲得にも動いたが、彼の移籍金はモスケラの3倍程度だった。現時点ではハイセンの方が完成度の高い選手かもしれないが、もし獲得していれば、その分彼は出場機会を求めただろう。

まだトップリーグの経験が1シーズンしかないモスケラの方が、実戦で通用するレベルにあるかと育成の余地のバランスが理想的だった。

バレンシアでずっとプレイしていたたモスケラにとって今回の移籍は新たな挑戦であり、言語・文化・戦術面で適応する必要がある。しかし、キヴィオルのように、少し時間をかけてでも馴染んでいけばよいだろう。彼は粗削りな部分はあるものの、将来への期待は十分あり、移籍金も控えめでリスクは小さい。

既にリーグ最高の守備陣をさらに向上させるのは容易なことではないが、モスケラはCBとしても右SBとしてもチームを支えられ、価格も良心的だ。

屋根の修理を嵐が来る前に、晴れているうちに済ませるというのは良いアイディアだろう。

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Posted by gern3137