忍耐強くアーセナルでの成功を掴んだエディー・エンケティアに餞を

語ってみたTim Stillman,海外記事

2008年11月22日、マンチェスター・シティ相手のアウェイ戦で、アーセナルのCBとしてギャビン・ホイトがプレイした。ウィリアム・ギャラスがメディアで問題のある発言をしたため、この試合でベンチから外れることとなり、アーセナルユース出身の当時18歳のホイトに白羽の矢が立ったのだ。

だがそのホイトはその後4部や5部、セミプロレベルでのクラブでプレイを続け、今は34歳だが9部のフォークストーン・インビクタに在籍している。

もちろんこれは、ギャビン・ホイトを貶めたいわけではない。

アーセナルのトップチームの一員としてプレミアリーグに出場できたというのは、ユースアカデミーの選手の経歴としては上位1-2%程度には入るだろう。それだけでもアーセナルユースの選手としては成功を収めたと言えるはずだし、それは揺るがない。

アーセナルのユースアカデミーに所属していたとしても、そのほとんどの選手はプロサッカー選手にすらなれないのだ。プレミアリーグでデビューできる選手はそれよりも遥かに少ないし、アーセナルでプレイできる選手はさらに限られる。

では我々は、アーセナルのトップチームで168試合に出場し、38得点を挙げたストライカーをどう捉えるべきだろうか?

エディー・エンケティアは歴代のアーセナルのユースアカデミーの選手でも最も成功を収めた選手の一人と言っても過言ではない。

そして、エディーのキャリアは数字で示される以上のものがある。

エンケティアのユースキャリアは、トップチームまでの道のりが明快に示された、超エリート選手のものではなかった。むしろ、試練と挑戦に満ちたものだった。

彼はずっと忍耐強くいる必要があったし、むしろ状況は若きエンケティアにとって非常に不利なことの方が多かった。

まずエディーはチェルシーユースを放出されアーセナルユースへとたどり着くことになった(これはデクラン・ライスもたどった道だ)。

2017年には18歳でカラバオ杯のノリッジ戦で途中出場で2得点を挙げてファーストチームで強烈な印象を残した。ただし、アーセナルファンであればジェイ・シンプソンやサンチェス・ワット、カルロス・ベラがリーグ杯で活躍を見せ、将来のスターと謳われたのを覚えているかもしれないが、それが必ずしも実現するわけではない。

実際に、エンケティアも、この活躍で即座にファーストチームでの機会を勝ち取ったわけではなかった。

アーセナルは50m近い移籍金を支払ってストライカーのアレクサンドル・ラカゼットを獲得していたし、この後すぐ、再度似た金額でピエール=エメリク・オーバメヤンも獲得することになる。

ユース選手が50m£級の移籍金で獲得されたスターストライカー二人とポジションを争う必要があるというのはかなり困難な状況となる可能性もあったが、ただ、アーセナルがオーバメヤンとラカゼットを共存させようとなんとか試行錯誤していたため、結果的にエンケティアは控えストライカーとしてのポジションを得ることが出来た。

また、この時のアーセナルは衰退期にあり、出場する欧州コンペティションがCLではなくELになっていたため、何度かグループステージの試合で出場機会を得ることもできた。

現実的に考えると、エンケティアはアーセナルでのラカゼットとオーバメヤンの時代が終わるのを待つ必要があった。2019年の夏にはビエルサ率いるリーズへとローンに出て、90分当たり0.53ゴールというまずまずの結果を残したが、問題は、当時のリーズには監督からの信頼厚いパトリック・バンフォードがおり、この得点を先発2試合、途中出場15試合という限られた出場機会の中で挙げなくてはならなかったことだった。

結果的にアルテタはローンを早期に打ち切り、冬にエンケティアをチームに呼び戻すことに決めた。

この時点で、イングランド二部でのローンが打ち切りとなった選手が、オーバメヤンとラカゼットという実績豊富なストライカーが二人在籍しているチームで、ここからさらに4年半プレイを続け、最終的に30m£近い移籍金で、別のプレミアリーグのクラブへの移籍を勝ち取ると予想したアーセナルファンはほとんどいなかっただろう。

このような逆境を跳ね返すことが出来たのはエディーの不屈の闘志とプロフェッショナルな姿勢の表れに違いない。

結果的に彼はオーバメヤンとラカゼットの退団までクラブに残り続け、2022年に新契約を結び、背番号14が与えられた際には視界は良好に見えた。2021-22シーズン後半に先発ストライカーの座を掴み、シーズン最後の8試合で5得点を挙げていたからだ。

もちろん、この時の契約延長はクラブからの将来のエースを任せるという信頼の表れというよりも、ある程度現実的な事情が反映されたものだったことを否定するつもりはない。

実際に、同じ夏にアーセナルは新ストライカーのガブリエル・ジェズスを獲得したし、もしアーセナルがCL出場権の獲得に成功していたら、より予算に余裕があり、控えのストライカー獲得にも動いていたかもしれない。

エンケティアは契約満了間近となっており、フリー移籍が目前に迫っていた。

ジェズスを獲得した以上、エンケティアはクラブに長期的な将来はないように思われたし、そのような選手に好条件の新契約をオファーすることの是非は少し疑問にも思われた。

だがこの心配は杞憂に終わった。

結果的にアーセナルはエンケティアをクラブに留めることで控えストライカーに数十m£を費やす必要はなくなり、他のポジションの補強を行うことが出来たし、エンケティアの給与が今夏ある程度の移籍金での移籍の障害となることはなかった。

確かに、エンケティアはクラブの中心となる選手ではなかったかもしれないが、かといってそれが問題となることは全くなかった。

2022年に公開されたドキュメンタリー、オールオアナッシングでエディーの人間性も垣間見ることが出来た。その中で、アルベール・サンビ・ロコンガが出場機会の少なさを嘆いた際に『プレイできないことを不満に思っているのがお前だけだと思うのか?』という言葉を投げかけたシーンがあり、これはエンケティアが控えの立場に満足していないと同時に、同じ境遇の選手により多くを求めていることを示している。

これはリーダーシップの表れで、もっと評価されても良いはずだ。

エンケティアは一言も不満を言うことはなかったし、謙虚に自分を磨き続けた。

2022年12月のウエストハム戦でエンケティアが相手のCBを交わしターンして決めたゴールがいかにエンケティアが自らの欠点を改善するか努力したかのよい例だ。数年前のエンケティアであればこのようなゴールは決められていなかっただろう。

また彼は、懸命に走ることで転がってきたチャンスを押し込むような泥臭いゴールもいくつか決めている。マンチェスター・ユナイテッド戦での試合終盤の決勝点も記録した。

確かに、エンケティアのアーセナルでの時間は終わりを迎えた。

今のアーセナルは応急処置的な解決策を必要とするクラブではなく、プレミアリーグでシーズン勝ち点90を狙うクラブでストライカーを務めるレベルにエンケティアはないかもしれない。

だが、だからといってそれは全く恥ずべきことではない。今の彼の位置にたどり着く前に、多くのハードルを越えられず、そして敗れ去っていた選手たちは非常に多くいる。

エンケティアはアーセナルのユースアカデミー史上最も成功を収めた選手の一人だ。彼はどのような困難を前にしても模範的な姿勢でそれに挑み続けた。

彼は自信をもって今後もプレイを続けるべきだし、エディー・エンケティアのアーセナルでのキャリアは祝福されるべきだ。

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Posted by gern3137