アーセナル23/24シーズン前半戦振り返り

分析

2024年に入ってすでに1週間ほどが経つと同時にこの時期というのは海外サッカーファンにとってはちょうどシーズンの折り返し地点、ということで簡単にアーセナルの今季ここまでを振り返ってみようと思います。

夏の移籍市場

予想外の躍進を遂げながらもサリバと冨安の同時離脱が響き、昨季は惜しくも2位に終わったアーセナルでしたが、今季はCL出場権獲得は当たり前、願わくば悲願のタイトル獲得を、という久々にダークホースではない立場でシーズンに臨むこととなりました。

欧州コンペティションとプレミアリーグを同時に戦うために選手層を厚くする必要があるアーセナルは昨季はサカ、マルティネッリ、ウーデゴールの若手3人柱が全員プレミアリーグでもトップレベルの数字を残したこともあり、中盤と最終ラインに力を注ぎます。

前線はジャカの放出を埋めるためのハヴァーツ獲得に留め、怪我がちなトーマス・パーティのポジションで絶対的なスタメンを務められるデクラン・ライス、そして第二の冨安ともいえる、最終ラインほとんどすべてのポジションをこなせる期待の若手ティンバーをチームに加えました。

また、サプライズとしてはダビド・ラヤの獲得があり、GKというのは特に補強が必要なポジションとはみられていなかったためこの獲得は少々ファンの間でも意見が分かれたものの、単純な戦力という意味ではラヤとラムズデールの控え、という体制でシーズンを戦えるというのはプラスであることは間違いないでしょう。

新たな試みと怪我の離脱による頓挫

もうかなり時間が経っているので、少し忘れかけていますが、実はアルテタは今季の最序盤は昨季非常に上手くいった形からの脱却を志向していました。

その後結果的に先発に復帰し圧倒的なパフォーマンスを見せるガブリエルが連続してスタメンを外れていたのはかなり物議をかもしていましたし、ティンバーを左サイドバックに置いたり、またトーマス・パーティの右サイドバック起用、という形を試していました。

今となっては正確に答えを知ることは難しいですが、単に対戦相手にアーセナルの布陣の予測を難しくさせる、という目的に加え、ジンチェンコの守備の不安を抱えることなくチームを機能させることができるかどうかのテストといった側面もあったのではないかと思われます。ジンチェンコの不在をティンバー/冨安に加え、より足元に分がある選手を左CBに加えることで埋めようという意図があったのかもしれません。

けが人が出るまでは、アルテタはかなりこの形にこだわっているように見られたので、もしかすると、この実験が続き、上手くいっていれば、今頃はアーセナルの最終ラインはティンバー-冨安-サリバ-パーティのような布陣になっていた可能性もあります。

Embed from Getty Images

昨季の布陣への回帰と新たなスタイル

ただし、これはティンバーの非常に不運なシーズン絶望級の怪我に加え、昨季から引き続きトーマス・パーティも離脱となったことで長くは続きませんでした。

結局はガブリエルは早々にスタメンに復帰、左サイドバックは相手に応じてジンチェンコと冨安をローテーション、右サイドはホワイトという形に落ち着き、ビエイラやスミスロウ、ジョルジーニョ、トロサールやスミスロウ、直近だとネルソンといった選手が散発的に出場することもありましたが、フォーメーションシート上は単に昨季のパーティをライスに、ジャカをハヴァーツに置き換えたような同じ布陣がメインとなります。

トーマス・パーティを右サイドバックに置く形を辛抱強く続けていればいずれは成功していたのかはわかりませんが、現在アーセナルはジンチェンコの怪我と冨安のアジア杯の離脱で本職ではないキヴィオルを左サイドバックで起用することを強いられており、またリバプール戦のライス-ジョルジーニョ-ウーデゴールという形は悪くなさそうに見え、ライス-パーティ-ウーデゴールの中盤は特にビッグゲームで良いオプションとなったであろうだけに、この二人の離脱は非常に痛い所です。

ただし、布陣はある程度昨季と似た形に落ち着いたものの、今季のアーセナルは昨季と大きく異なる点もあります。

今季のアーセナルを語るうえで『コントロール』という単語が何度も登場し、一種のキーワードのようになっていますが、今季アーセナルは昨季よりもかなりゆっくり試合を進めることが多いです。息もつかせぬ速い展開の攻撃を狙うよりもボール保持を大事にし、結果的に(各選手の好不調と切り離して考えるのは難しいですが)前線の選手たちの得点やアシストは減少した一方で、守備は堅固になりました。

20試合を終えたプレミアリーグでアーセナルは得点数はリーグ6位である一方で、失点数はリーグ2位となっています。

新スタイルの成果

この方針転換は、アーセン・ベンゲル時代を懐かしむファンからの、今季のアーセナルは昨季ほど面白いサッカーではない、と若干の不満の表明はあったものの、基本的にはかなりうまくいっていたといっていていいでしょう。

縦への展開がゆっくりとしたものになったことで、両サイドのウイングがボールを持った時には人数をかけて対応され、サカとマルティネッリは若干苦戦気味ではありましたが、とはいえ昨季のアーセナルはxGをかなり上回って得点を決めており、それと全く同じレートで今季もアタッカー陣が得点を量産することを期待するのは現実的ではないように感じられます。

実際に、一時期アーセナルは昨季と同じくリーグ首位にも立っていましたし、90分当たりのxGで見ると、昨季の平均は90分当たり1.89に対して今季ここまでは90分当たり1.82とほぼ変わらない数字を残せています(ただし、今季はPKが非常に多いため、オープンプレイに限ると0.3ほど少ないのは留意する必要がある)し、被xGに関しては、1.11から0.82へと大きく減少させることに成功しています。

Embed from Getty Images

決定力不足の影響?

では、何が昨季と今季のアーセナルの最も大きな違いとなっているのかというと、それは決定力、というか、ゴール前に訪れたチャンスを決めきる力、ということになります。

昨季のアーセナルは90分当たり平均で、実得点がxGを0.31上回っており、これはリーグトップの数字でした。一方で今季の同じ指標は-0.1となっており、昨季と比較して明らかにゴール前でのプレイの精度を欠いています。

ただし、90分当たりの実得点-xGが-0.1というのはそこまで特筆して悪い数字というわけでもなく(昨季に関して言えば、この数字がプラスになったのは6チームのみで、むしろマイナスのチームの方が多かった)、また世界トップクラスのアタッカーは安定してxG以上の得点をたたき出す傾向にはあるものの、実得点がxGを馬われるかどうかは、チームが上手くいっていることを表す指標というよりも、どちらかというとこれは個人技の部分に依存するものとして扱われることが多いです。

チームの成績や順位により直結する傾向にあるのはxGを上回れるかどうかよりも、どれだけxG(≒良いチャンス)を創出できるかの方で、実際に今季も、マンチェスターシティは90分当たり+0.36と圧倒的な決定力を見せている一方で、現在リーグ首位に立つリバプールは-0.16と、アーセナルよりも更にスタッツ上は『チャンスを決めきれていない』にもかかわらず、リーグ首位に立ち、かつ最多得点を記録しています。

まとめと後半戦の展望

ここまでのアーセナルをまとめるのであれば、基本的にはうまくいっているのだが、直近は怪我人・代表カップ戦に寄る選手離脱の影響と、アタッカーのxGと比較しての決定力不足というか、下振れが重なって直近の成績に関しては大失速となっている、ということになるのではないかと思います。

国内カップ戦での敗退は痛いですが、まだプレミアリーグではリーグ首位から勝ち点5差につけており、2年以上前のアーセナルが非常に苦手としていたシティ戦やリバプール戦でもある程度結果を残せるようになっているのは大きな進歩と言っていいでしょう。また、CLもきちんと決勝トーナメントに進出は果たしており、ここから勝ち進める可能性も大いにあります。

ここからは主観的な意見ですが、最近のアルテタのビハインド時のスリーバック起用、スミスロウの扱いなど若干疑問が残る点はありますが、大筋の方針としてはそこまで劇的な変更は必要ないように思われます。

決定力不足に関しては、アルテタ自身も語っていた通り、ゴール前でのプレッシャー等といった状況を試合と全く同じ形で練習場で再現させるのが困難であるため、コーチングで改善を図るのがサッカーの中でも非常に難しい部分となっており、一番手っ取り早いのはもともと決定力を備えている選手を補強することですが、そういった選手の獲得に必要な移籍金を考えると、冬の移籍市場での70m£級のストライカーやウイングの補強、などというのは現実的ではなさそうです。

いくら内容はついてきている、点が決まらないのは『一時的な下振れ』であるとしても、欧州トップレベルのクラブはそういったアンラッキーな期間が2週間程度訪れただけで、リーグタイトルを獲得できるかどうかの分かれ道となり、カップ戦での敗退が決まってしまう可能性もあるため、手をこまねいてただ待っているわけにもいきませんが、一方でもともとサカやマルティネッリといった選手はある程度決定力を備えた選手であり、彼らの復調を待つ以外に現実的な方策があまりなさそうでもあります。

ここからウィンターブレイク中のキャンプでリフレッシュしてアタッカーの復調を図りながら、細かい修正をチームに加えることで、チームを上向かせることをアルテタは狙っていくことになりそうです。

個人的には、今季序盤に見えた昨季のアーセナルの定番の形からの脱却、より相手にとっての予測困難性を増していく、という取り組みが選手の離脱やタイミングもあり頓挫し、またしても最近の攻撃陣はいつものメンバーで攻め続ける、という以外に有用なオプションがなくなってしまいつつあるので、選手の疲労を軽減しサカやマルティネッリをフレッシュな状態で起用できるようにするという意味合いも込めつつ、もう少しスミスロウやネルソン、ビエイラ、またハヴァーツの異なるポジションでの起用などを組み込みより変幻自在な攻撃陣を構築できるかどうかが後半戦の課題になるのではないか、と感じます。

関連記事(広告含む)

Posted by gern3137