ポゼッション志向を強めるアーセナルとダビド・ラヤ、アーロン・ラムズデール
2021年にアーセナルがアーロン・ラムズデールを獲得した際には、この決定を少し疑問に思うアーセナルファンもいたはずだ。当時の正GKであったベルント・レノはワールドクラスとまでは言えなかったかもしれないが、優れたGKであり、GKの補強が最優先事項だとは思われなかったからだ。
さらに、アルテタがプレミアリーグ降格チームに所属していたGKがレノのアップグレードになると考えていたというのも少々驚きだった。
ただ、アルテタがロングボールを含めたラムズデールのパス技術を評価しており、彼の獲得がアーセナルのビルドアップを一段上のものに引き上げてくれると考えていたことは間違いない。20/21シーズンのシェフィールドユナイテッドでラムズデールは最も多くロングボールをけっていた。
チームが何らかのスタッツでリーグトップの選手を獲得する際にそれは偶然とは考えづらく、その要素を監督が重要視していると考えるのが自然だろう。
20/21シーズンのレノの数字は平均して一試合当たりのロングパス数が4.25本、成功率は64.2%だったが、ラムズデールは10.29本、成功率68.9%だった。
ファイナルサードへのパスはレノは90分当たり0.94本、成功率は34.3%だったが、ラムズデールは90分あたり4.4本、そして成功率は68.3%という数字を誇った。
このロングボールの配給力がアーセナルのラムズデール獲得いう決断に大きくものを言ったのは間違いないだろう。
アルテタはマンチェスター・シティでいかにエデルソンが遠方へと放つパスが彼らの攻撃に新たな側面をもたらしたかを見ているはずで、特にそれはハイプレスを仕掛ける相手に顕著だった。
ラムズデールのアーセナルでの初年度彼は一試合当たり16本以上のロングパスにトライし、これはレノのほぼ4倍近い数字だ。
だが、先日の試合で今夏の新加入のダビド・ラヤがデビューを果たし、アーセナル移籍して以降初めてラムズデールは正GKの座を失った。
GKにも二人ハイクオリティの選手を備えることで競争が増す、という話もあるにはあったが、基本的にはGKの併用というのはビッグクラブで長期的に行われたことはなく、そもそもダビド・ラヤの獲得自体がラムズデールの立場を暗に示しているようにも見えた。
エヴァートン戦でのラヤの起用はエヴァートンをボール保持で圧倒するという戦略の一環として行われたものだろう。キックオフ後にアーセナルがボールをGKに戻した際、GKがロングパスではなくショートパスを選択したのはこの2シーズンで初めてのことであったように思われる。
これまでのアーセナルは意図的にそのようなコーチングを行っていたはずだ。
また、それと同時に、アルテタはハヴァーツに代えてビエイラを起用し、何度も繰り返し練習したであろうショートコーナーから勝利をもぎ取った。
この試合では全ての戦略がボールを宙に浮かせ、エヴァートンの長身でフィジカルの強い守備陣に対応させるのではなく、地面の上で回すことと繋がっていたように見える。
ラヤはこの試合でパス企図数34本中32本を成功させており、この数字からも彼が起用された理由は明らかだ。
特にアーセナルがリードを奪っていこうラヤの存在感は発揮され、それまでよりもさらに頻繁にラヤに戻してショートパスをつなぐようになった。今季のアーセナルはよりボール保持を重視し、試合をコントロールしようとする傾向があるが、ラヤの起用もその方針の一部に違いない。
アーセナルが一点をとって以降のラヤは13本のパスを放ち、そのうち12本が成功した。これはアーセナルがセルハーストパークでリードを守ろうとしていた際のラムズデールの9本中2本の成功、という数字とは対照的だ。この9本のうち8本はロングパスだった。
ラムズデールの目線から言うと、恐らくこれはバッドニュースだ。もしアーセナルがよりボール保持力を高め、試合をコントロールすることを志向していくのであれば、アルテタはGKにロングパスでなくショートパスをより頻繁に選択させるに違いない。
昨季のアルテタアーセナルはよりカオスをはらんだアプローチをとったがこれはうまくいくこともあれば裏目に出ることもあり、今季アルテタはこの要素を排除しようとしている。
そして、ラムズデールにとってもう一つのバッドニュースは、ラヤがラムズデールと同等ともいえる程度のロングボールの精度を備えている選手だということだ。彼はブレントフォードではむしろショートパスよりもロングパスのほうが目立っていた。
イヴァン・トニーへと当てるロングボールが非常に印象的で、こちらを覚えているサッカーファンが多いと思うが、ムベウモへの斜めのパスも多かった。
エヴァートン戦ではラヤはロングパスも9本中7本成功させている。
もちろん、まだ結論を下すには早すぎるが、現状はラムズデールがポジションを失う方向へと向かっているように見える。
グディソンパークでアルテタはより落ち着いて技術があるGKを求めており、白羽の矢がったのがラヤだったということなのだから。
特にラムズデールの最近のパフォーマンスがホームよりアウェイで素晴らしい傾向にあることを考えると、アーセナル移籍以降継続して良いプレイを見せてきたラムズデールにとってはこれは少々酷な結果だともいえる。
これまでラムズデールはアウェイ戦で何度かスーパーセーブを見せてきたが、恐らくアルテタはピンチに陥ってからそれをGKにセーブしてもらうよりもピンチに陥ることを防ぐのにより有力なGKを好むということだろう。アルテタはアウェイ戦のプレッシャーに晒されながらも、GKに全く出番がないような展開となり、相手ファンが静まり返ってしまうような試合のほうをより好ましく考えるに違いない。
そして、グディソンパークは威圧感があるスタジアムだが、エヴァートン戦はまさにその通りの展開となった。
エヴァートン戦は今のアーセナルの方向性の転換を示すような試合だったが、そもそもラムズデール自身がアーセナル移籍後少しずつロングボールの頻度を減らしているのも興味深い。
一年目は90分当たり16.6本だったロングボール数が90分あたり13.7本へと昨季は減少していた。
そして、4試合とサンプル数としては非常に少ないが、今季ラムズデールが出場した試合では90分当たり9.5本しかロングパスを記録していない。
これもまた、監督の方針なのだろう。
もしかすると、クリスタル・パレス戦の結果がアルテタがラヤ起用を決断するプロセスを加速させた可能性もある。
もちろん、ここまでのところアルテタはGKも他のポジションと同じくローテーションやポジション争いが行われるべきで、GKの立ち位置もより流動的だという旨のコメントをしているし、今後ラムズデールがアーセナルで一切出場しないということはないだろう。
だが、恐らくアルテタはラムズデールをロングボールのスペシャリストとしてみている一方で、ラヤをロングボールとショートパス両方のスペシャリストとみており、今季これからずっとラヤが正GKを務めることになってもそこまで驚きではなさそうだ。
source(当該サイトの許可を得て翻訳しています):
ディスカッション
コメント一覧
相手によってGKを変える。という事はポイントが両者で異なる、という事であり、この相手ならばラムズがベストという事があり得るということ。いつかのオランダの様にPKストッパーなら分かり易いが、もしアルテタが「GKが(シュートストップで)活躍しないチーム」を最上とするなら結局は一択である。
単に競争イズムの話であれば、これは難しい。こちらがベターだと言って送り出すのに、要らぬ根拠がつきまとう。レノとラムズといっしょだと言っていたが、後者が有利なのは当然。ターナーの不足感がこの移籍の要点と考えた方が自然かもしれない。どうせ獲るならコーチもご推薦のかつてのウインドウでの二重丸である。ラムズがダメというより、ターナーがダメだったということではないか。
セカンドとしてジャストな人材か、トップツーで新しいチームクオリティを開くのか、シティの上をいく要素が上乗せされるならば、それは結構意外な事であるのかもしれない。