ジョルジーニョがアーセナルにもたらすもの

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スポーツ業界においては、選手の人生の鍵となる瞬間というものがしばしばある。

ブラジルで生まれたジョルジーニョは、10代の頃に悪質な代理人に騙され、給与のほとんどを中抜きされていたそうだ。そのため、彼は毎月3-4万円ほどで生活することを強いられており、騙されていたことを知ったとき、彼はサッカー選手をやめようと考えたのだという。

だが、『まだ夢をあきらめるには早い』という彼の母からの一本の電話がジョルジーニョのその後の人生を変えることとなった。

その後彼はエラス・ヴェローナから移籍しナポリの主要な一因となり、チェルシーではヨーロッパリーグとチャンピオンズリーグ両方の優勝を経験した。

イタリアがEUROで優勝を果たした際にはイタリア代表として全試合に出場し、この年のバロンドールの投票ではメッシとレバンドフスキに次いで3位にも選ばれた。

チェルシーの選手がバロンドール投票のトップ入りを果たすのはフランク・ランパードが2005年に2位になって以来のことだった。

今回アーセナル移籍となったジョルジーニョだが、クラブが獲得に動いた理由は明らかだ。彼は経験豊富で、アンカーとしてプレイすることができる。

カイセドは非常にエキサイティングなタレントで、多くのビッグクラブが興味を示しているのも頷けるが、とはいえ現時点でトーマス・パーティの代役が務まるプレースタイルの選手ではない。

現在のカイセドはより自由を与えられたポジションで動き回ってボールを追いかけ、スピーディなトランジションの起点となって輝くような選手だ。

エルネニーが長期離脱となり、サンビ・ロコンガをローンで放出したアーセナルにとってより必要なのは、落ち着いて構えてプレイすることができるアンカーの控えであり、アーセナルはそのターゲットとして31歳で経験豊富、恐らく適応への時間をほとんど要しないはずのジョルジーニョに白羽の矢を立てたというわけだ。

ジョルジーニョはキャリアを通して、常に中盤の底からプレイのテンポを作ることを得意としてきた。ナポリとチェルシーの両方でビルドアップ時に味方の選手たちが、ジョルジーニョが空いていれば、まず真っ先に彼にパスを出す、といった存在の選手だった

常にチームメイトからパスを受けられるスペースを見つけ、そこにいてくれ、相手のプレスを回避するためのトライアングルを形成できる位置をとってくれることがジョルジーニョの最大の長所だといっていいだろう。

だが同時に、彼はパスを受けて再び短距離のパスを裁くだけではなく、時間の余裕さえあれば斜めや縦へのラインブレイクパスを放つこともできる。

今季の彼は90分当たりのプログレッシブパス数(5.4)とファイナルサードへのパス数(7.3)でMFとしては欧州の上位8%に入る水準であり、90分当たり35本というショートパスの成功数は上位5%の多さだ。

アンカーとしてプレイするには守備力も必要となるが、ジョルジーニョは典型的な迫力のあるボール奪取型のMFというタイプとは違うが、その点でも彼は優秀だ。

確かに彼のスピード不足は懸念点ではあるが、鋭い読みでそれをカバーすることができる選手だ。彼はデュエルに積極的に獲らいしボールを奪い取ることはできないが、的確に飛び込むタイミングを計るのが上手い。相手の少しのトラップミスやパスの勢いが弱くなった際、あるいは回りが見えていない相手選手からボールを奪い取ることができる。

スタッツで見ても、ジョルジーニョは一試合当たりのタックル数(2.9)、インターセプト数(1.4)、ボール回収数(8.3)の全てでパーティの数字を上回っており、かつミドルサードとディフェンシブサードでのボール奪取数はチェルシーのどの選手よりも多い。

スピード不足のせいで彼が高い位置にいるところを相手に突かれてしまうことは今後もあるかもしれないが、それでもこれらのスタッツは非常に良いものだ。

ミケル・アルテタが戦術的にジョルジーニョが広大なスペースで孤立してしまう場面をできるだけ減らす必要があるのは間違いないが、一つ注目すべきなのは、基本的にはアルテタのシステムでアンカーがカバーする必要があるのは縦ではなく横に広いスペースであるということだろう。

ウナイ・エメリ時代のように、アーセナルが攻守を目まぐるしく入れ替えるような試合はあまりないし、上下動という意味で選手にかかる負担は以前よりも減少しており、左右のスペースであれば、アンカーの横にはジンチェンコとベン・ホワイトもいる。

2019年にアルテタはMARCAのインタビューで、マンチェスター・シティの補強方針について問われ『アンカーはサッカーを深く理解する必要がある。これは必要不可欠だ。中盤の底で一人でプレイできる選手は非常に少ない。彼らはあらゆるシナリオを予測でき、ピッチ上で監督になれるような選手でなくてはならない。ジョルジーニョやブスケッツのようなタイプの選手は私は大好きだよ』と語った。

アルテタとアーセナルがずっと以前からジョルジーニョを評価していたのは周知の事実であり、2020年の夏には獲得に動いたこともあったが、実現せず、代わりにトーマス・パーティを獲得することとなった

そこから3年越しについにアーセナルは当初のターゲットを獲得したことになる。ジョルジーニョはトロサールと同じようにプレミアリーグの経験があり、1年後2年後ではなく、たった今から5月にかけてのアーセナルへの貢献が見込める選手だ。

この1月、長期の交渉と何度かの公式オファーの末にアーセナルがムドリクとカイセドというトップターゲットの二人を獲得できなかったことに対するフラストレーションは理解できるものの、少し現実的に考えてみるのも悪くないだろう。

今アーセナルはリーグ首位を走り、3人の選手を冬に補強することに成功したのだ。

確かにジョルジーニョ獲得は若手の獲得で大きな成功を収めてきたこれまでのアーセナルの方針とは異なるものだが、今のチームは非常に若いし、もう数人ベテランを抱える余裕もあるはずだ。

ジョルジーニョはファンの夢見た補強ではないかもしれない。だが、現在クラブが抱える控え選手のアップグレードとなれることは間違いないし、移籍金と契約期間を鑑みて、彼の獲得が夏のアーセナルの補強予算などに大きな影響を与えることもないだろう。

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Posted by gern3137