ジンチェンコ: 神出鬼没の技術サポートセンター

分析Tim Stillman,海外記事

アーセナルがジンチェンコを獲得する前から、ある程度アーセナルファンは中に入るサイドバックの存在には鳴れていたはずだ。

アーセン・ベンゲルは攻撃をどちらかのサイドに集中させることもあり、しばしば左サイドバックがもう一人のサポートウイングのように上がっていき、それに伴って、右サイドバックがCBをサポートするように中にはいる形が見られた。

昨季のアルテタアーセナルも似たような形を採用しており、冨安が第三のCBとして中に入り、ガブリエルがより左の外に出ることでティアニーあるいはタヴァレスがオーバーラップできるような形となっていた。

だが、これらは全て、昨夏アーセナルがジンチェンコを獲得したため変わることとなる。

ペップ・グアルディオラはバイエルン・ミュンヘン時代のフィリップ・ラームの起用法に象徴されるように、もう何年も前から中盤に加わってプレイするようなサイドバックの起用を行っている。彼のマンチェスター・シティ初期の頃も、元アーセナルのバカリ・サニャとガエル・クリシーの2人がボール保持時にセンターサークル付近に現れる所が見られた。

もちろん、実際にはサニャとクリシーの二人はこの役目をこなすのに最適な選手とは言えなかったが、これはグアルディオラの志向するスタイルを表していた。

それ以降、グアルディオラはジンチェンコやカンセロを伝統的なサイドバックとは異なる役目を与えられたサイドバックとして起用してきた。

そしてそのジンチェンコが、今回はアーセナルで大きな変革を起こすことになった。

アルテタのアーセナル監督就任以降にクラブはティアニーと契約延長を行い、タヴァレスを獲得しているわけだが、彼らは二人ともどちらかというと『サイドバックとしてプレイするウイング型』の選手たちだ(タヴァレスは仲に入って右足を使うことも得意としているが)。

興味深い点は、恐らくジンチェンコがもたらしたインパクトはアルテタの想定すらも超えていた可能性があるということだろう。

夏の時点でアーセナルはリサンドロ・マルティネスの獲得に動いていたが、彼は左サイドバックとしてもプレイできる左利きのCBで、ジンチェンコとはタイプが異なる。ジンチェンコはむしろサイドバックとしてプレイできるMFだ。

もちろん、ガブリエルの控えとなれる選手が居なかったことを考えると、リサンドロ・マルティネスとジンチェンコの両方の獲得をアーセナルが狙っていた可能性はあるが。

ジンチェンコが獲得された時点では、彼はティアニーとパーティ両方の控えという立ち位置なのではないか、とファンの間では考えられていたが、この時彼がここまで絶対的な存在になると予測していた人は多くなかったに違いない。

彼はティアニーのポジションを完全に奪ってしまい、スタイル面の違いから、今では冨安がティアニーより左サイドバックとしての序列が上になるケースも増えている。

昨季まではティアニーはラカゼットに次いで実質的な副キャプテンという立ち位置だったことを考えるとこれは非常に早いスピードで訪れた変化だった。

結果的に、ジンチェンコは一人でチームのプレイスタイルを変えてしまった。ジンチェンコは実質的に左サイドバックではなく、むしろトーマス・パーティの中盤のパートナーだ。

彼はパーティのパスのオプションになるだけではなく、チームの誰かがパス先を必要としているどこにでも顔を出す。シティにおけるカンセロがそうであるように、このような選手に対処するのは非常に難しい。

現代サッカーではチームのどこに穴が開くか予測不能なマンマーク戦術はあまり好まれないが、神出鬼没の相手の左サイドバックをマンマークするのはさらに難しいだろう。

ジンチェンコは今季90分当たり74本のパスを記録しており、これはアーセナルの選手中最多の数字だ。以前アルテタはチームの次のステップとして『相手陣内で30万本のパスを繋げるようになる必要がある』と語っていたが、まさかその解決策が左サイドバックになると予期していたファンは数ないだろう。ミドルサード内でのボールタッチ数でジンチェンコを上回っているのはトーマス・パーティのみだ。

ジンチェンコのパスの一本一本を見てみると、それぞれは試合を変えるようなパスというわけではない。今季彼のアシストは1のみだし、アシスト期待値は合計でも0.4しかない。

シュート創出アクションに関しても90分当たり1.55回と、これはティアニーやロコンガ、ホワイト、パーティよりも低い数字だ。

そういった意味では、ジンチェンコでは攻撃時に迫力のある武器を備えているとは言えない。だが、最も重要なのはジンチェンコが相手を惑わし、他のチームメイトを輝かせることに長けているということだ。

今季のマルティネッリは高い位置に残り、サイドで相手の右サイドバックとの1対1に挑むことが多くなっているが、これが可能なのはオーバーラップしてくるサイドバックの代わりに中を上がってくるジャカが居るからだ。

ジャカはマルティネッリより内側のハーフスペースでフリーになれることが多く、ここから自分でシュートに持ち込んだり、カットバックをしたり、と言ったプレイを見せている。

今季の彼のプレイは最早中盤の選手のそれではなく、むしろそれはパーティとジンチェンコの二人で行われている。

彼ら二人がアーセナルの中盤の心臓だと言っても良いだろう。

現在のトップチームの選手たちはシステムを作るチームとシステムに沿ってプレイする選手の大きく二つのタイプに分かれるが、今季からジャカはシステムに沿ってプレイする側にコンバートされ、ジンチェンコが変わって指揮を執り始めた。

もちろん、ジンチェンコのようなタイプの左サイドバックを起用するのはある程度リスクが伴うし、特に相手が素早いカウンターに打って出たような時にはなおさらだ。

だが、ジンチェンコは既にアーセナルにとって最も重要な選手となっており、アーセナルのサッカーを完全に変えてしまった。彼はピッチ上でまるでITサポートセンターのように、技術面のサポートが必要な場面ではどこでもサポートしてくれる。

彼は常に全力で走っているようにも見えないが、気づけばテレポートしているかのようにピッチ上のどこにでも現れる。

彼がスプリントしながら登場する場面はあまり見たことがないが、何故か気づけば魔法のようにアーセナルに数的優位を演出している。

ジンチェンコの獲得はここ何年かのアーセナルの選手補強の中でも最もユニークなものだと言えるかもしれない。

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Posted by gern3137