キーラン・ティアニーと冨安健洋に関して 前編
先月のリバプール戦で冨安健洋が左サイドバックで起用されたのは少し驚きだった。ただし、冨安は1対1に非常に強いDFであり、逆足の左足の精度も高いが、右利きだ。左利きで中にカットインするプレイを得意とするモハメド・サラーへの対策として起用されたのだろう、とファンは結論付けた。
5年前、2017年の12月にアーセン・ベンゲルは似たような理由で若いメイトランド=ナイルズを左サイドバックとして起用している。利き足が中央側のDFを中に入ることを好むウイング相手に起用する、というのはそれなりに効果的な策だし、そのサイドバックが冨安のような素晴らしいDFであれば、効果はさらに高くなる。
また、リバプールはサイドチェンジを好み、斜めのパスをサラーに入れてアイソレーションを作り出すとういのは何度か見られた形だった。そういう意味でも、空中戦に非常に強い冨安はぴったりだったと言える。
この試合で冨安はタックル数(3)とデュエル勝利数(4)でチームトップだったし、ボール回収数(6)もチーム2位の数字を残した。サラーは目立った活躍を見せられず、冨安の起用は大成功に終わった。
だがむしろ、より驚きだったのは、その翌週の試合でも冨安が左サイドバックとして先発を続けたことだろう。
もしかすると、アルテタはリバプール戦の素晴らしいパフォーマンスを受けて、次の試合で冨安をメンバーから外すことはできないと考えたのだろうか? 確かに、そもそも冨安のような選手が今季スタメン入りを果たせていないのは非常にアンラッキーな事態でもあった。
だがこの起用はリーズ戦ではリバプール戦ほどうまくいったとは言えず、アーセナルの試合内容はあまり良いとは言えなかった。試合結果は引き分けや敗北となっていてもおかしくなかっただろう。
そして、多くのアーセナルファンは次戦、サウサンプトン戦はティアニーが左サイドバックとして復帰するのではないかと思ったはずだ。
だが、そうはならず、冨安は左サイドバックとしての先発の座をセインツ戦でもキープした。そして、この試合でもガナーズの攻撃は迫力を欠き、試合は引き分けに終わった。
そして、リーグ最下位のノッティンガム・フォレスト戦というのは、もし冨安の起用が単なる守備固めという意味なのであれば、ティアニーを起用するべき試合に見えた。
だがこの試合でも左サイドバックは冨安だった。誰もがこれには驚いたが、ここまでくれば、もう単純に冨安はティアニーよりも左サイドバックとしての序列が上なのだと考えるしかないだろう。
だが、それはなぜなのだろうか?そして、その場合、ティアニーのチームでの立ち位置はどうなるのだろうか?
ティアニーと冨安の二人を比較してみると、まず守備時の洞察力では冨安に軍配が上がる。ティアニーも良いDFで、時折は代表・クラブで3バックの左CBを務められるだけの選手だが、それでも冨安には及ばない。そもそも冨安は3バックどころか日本代表では4バックのCBの一角をいつも務めている。しかも、左CBとしてだ。
DFのデータというのは守備アクションに偏りがちで、未然に相手の攻撃を防いだプレイなどが現れないため、攻撃陣の選手のスタッツほど有益でないことも多いが、ティアニーと冨安のデータを比較してみると、その違いは明らかだ。
もちろん、これは別にティアニーの守備のスタッツが悪い、であったり、懸念である、という意味ではない。単純に、冨安の守備のスタッツが圧倒的なだけだ。
冨安 | ティアニー | |
---|---|---|
タックル | 2.83 | 1.58 |
マイボールになったタックル | 2.17 | 0.53 |
守備サードでのタックル | 1.30 | 0.79 |
アタッキングサードでのタックル | 0.65 | 0.00 |
被ドリブル突破 | 0.22 | 0.26 |
ドリブルストップ | 1.74 | 0.79 |
インターセプト | 2.39 | 1.32 |
タックル+インターセプト | 5.22 | 2.89 |
(データは全て90分当たり、FBrefのもの)
とはいえ、もちろん現代のサッカーで左サイドバックに求められるのは守備だけではない。サイドバックはチームの攻撃の重要な一部でもある。
そういった意味では、ファイナルサードでの貢献はティアニーの方が冨安を上回っている。90分当たりのアタッキングサードでの平均ボールタッチ数はティアニーは21.6(冨安は12.8)を記録しており、90分当たりのクロス数2.11という数字も冨安の0.87を上回っている。
(後半に続きます)
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