グラニト・ジャカの進化する役割に関して
ジャカのポジションと役割の変遷は、アルテタ体制におけるアーセナルで、戦術面で最も興味深いものの一つだと言っていいだろう。
もともとは、ずっとジャカはアーセナルの中盤の底でプレイし、最終からボールを受けてはその左足で前にボールを配給するという役割をこなしていた。
だが、まずアルテタが監督就任した直後にジャカの役割は少し変化した。キーラン・ティアニー、あるいは当時は左サイドバックとしてプレイしていたサカが左から前線に駆け上がるのに伴って、ジャカはその後ろに下がって、攻撃時に彼らが空けたスペースを埋めるというタスクを与えられたのだ。
そして、昨季ジャカの役割はさらなる進化を遂げることとなる。
トーマス・パーティが中盤の底でボール配給を担うことになったのに伴って、ジャカは左寄りのより高い位置で起用されることが増えた。これによりジャカの仕事はより攻撃へとウェイトが傾き、ボールを保持した際の影響力は減少した。
以下の表は19/20シーズンからのジャカのスタッツを比較したもの(データはFBrefによる)だが、22/23シーズンに関しはまだ試合数が非常に少ないため断定的なことは言えないが、彼の役割の変化は明確に見て取れる。
(数字は90分当たりのもの)
21/22シーズンから明らかにジャカの総ボールタッチ数やディフェンシブサードでのアクションが減少しより前線に近い位置でのプレイと攻撃的なアクションが増えていることがわかる。まだ今季に関しては二試合なので、他のチームも今後アーセナルがどのように変化したのか注目しているだろうが、恐らくジンチェンコ加入によってこの流れはさらに加速するのではないだろうか。
以下に、いくつか今季のジャカのプレイの例を見て見よう。
クリスタルパレス戦の序盤では、ビルドアップの際に、ジンチェンコが中に入って中盤に位置した一方で、ジャカはサイドライン際に流れていったが、これは今季の二試合で常にみられる傾向だ。
ジンチェンコとジャカは何度もお互いのポジションとレーンの入れ替えを繰り返している。
そして、この攻撃がさらに進行していくと、ボールは右に展開され、最終的にジャカは再び少し中に入り下の画像のように、ペナルティエリアに走り込むランナーとなった。
また、クリスタルパレス戦で特に興味深かったのはこちらの場面だ。今回は、ジンチェンコが左サイドバックの位置に居て、そのさらに外側をジャカがオーバーラップしている。
だが、その後ジンチェンコが一旦前進を辞めて、ガブリエルにボールを戻して攻撃を作り直すことにした時点では、再びジンチェンコが外でジャカが内側という関係性に戻っている。
最終的にはこの攻撃は相手ボックスまでたどり着き、ジャカがセンターフォワードのような位置まで走り込むことになる。このように常にサイドの選手とポジションチェンジを繰り返すようなプレイは今までジャカの得意技というわけではなかった。
この後もジャカはサカのカットバックに走り込んだり、中央でジェズスをサポートするような位置まで上がっていく姿が見れらた。
だが、ジャカの役割がより攻撃的になったからと言って守備が免除されたというわけではない。
上はジャカのパスを受けたジンチェンコのシュートが相手GKに弾かれた場面で、このリバウンドにジンチェンコは詰めに走るのだが、ここで一瞬彼はペナルティスポット近くにいたジャカの方を見る。
そして、ジャカも左サイドを見て、自分が走って戻り、スペースを埋める必要かを確認するようなそぶりを見せる。結果的にはクラインはサイドに逃れることを選択したため、カバーは必要にならなかったが。
ジャカは試合を通して、どの場面で左CMFの位置にいるべきで、どのタイミングでジンチェンコとポジションチェンジするべきか、ストライカーをサポートに上がるべきか、カウンターを防ぐためにスペースを埋めるかなどを常に考え続けているに違いない。
レスター戦でもジャカとジンチェンコは自由自在にポジションを入れ替えており、これはこの戦術が一試合限りのものではないということを示している。
少し興味深いのはこの役割の変更により、ジャカは中盤からサイドへと後ろに戻りながらボールを受ける機会が増えているという点で、ジャカはキャリアのほとんどを通して基本的にボールもパスとなるターゲットも全てが自分の前にある、という状況に慣れているはずで、このような状況でのプレイはもう少し経験を積み学ぶ必要があるかもしれない。
ここはレスターにも狙われており、フォフォナにボールを奪われたシーンもあった。
また、ジンチェンコとの流動的なポジションチェンジと同じくジャカが前線に走り込む場面もレスター戦でも多く見られており、これもパレス戦での突発的なものではなかったということだろう。
普段は大外にジャカ、その少し中にマルティネッリ、その右にジェズス、という並びとなることが多かったが、逆にマルティネッリが外に開いて中にジャカが入るという場面も見られた。
今季のジャカに求められるであろう非常に多彩なプレイを象徴しているのが上の場面だ。この少し前の段階で、アーセナルは右からボールを前に運び、ジャカは中にボールが入った時に備えて中央に走り込んでいた。
だが、右で手詰まりになったことでウーデゴールがボールを戻し、逆サイドの左サイドへと展開するのだが、この時はジャカは即座に斜め左後ろ、左サイドバックのポジションに向かって戻ろうとしている。
恐らくだが、ジャカの仕事はボールが右にあるときにはペナルティエリアへのサポートランナーとなることで、逆に左から攻撃を組み立てる必要がある場合には、ジンチェンコと左サイドと中央を入れ替わりながらマルティネッリを中に走り込ませることになるだろう。
ここまでの所、この形はマルティネッリにとって大きなプラスとなっている。
他のチームもいつまでもこの形を見守るだけではなく、いずれ何らかの対策を立てて来るだろうが、最近のジャカの役割の進化はサプライズであったと同時に、チームにとって好ましい事であるのは間違いない。
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