【アーセナル新加入】スカウトレポート: オレクサンドル・ジンチェンコ
ジンチェンコはもともとシャフタール・ドネツクに所属していたが、ドンバスでの紛争の影響でウファに移籍しており、そこからマンチェスター・シティに引き抜かれることとなった。
当初この獲得はあまり話題にはならず、マンチェスター・シティはファーストチームの選手というよりも、グループ内のクラブにローンに出し、ある程度の移籍金で売却することで利益を上げるための獲得なのではないかと思われていた。
だが、ジンチェンコはアイントホーフェンでのローンで活躍すると、5年間マンチェスター・シティの選手としてプレイした。彼はグアルディオラのチームにおいてなくてはならない存在、というほどではなかったが、彼の高い技術の中盤でのプレイ経験を活かしたボール前進能力は、相手を押し込んで試合をコントロールすることを好むグアルディオラが望むサイドバック像にマッチしていた。
彼は守備が得に得意なタイプというわけではないが、マンチェスター・シティでは左サイドバックとしてよいプレイを見せ続け、この5年間で毎年シティで25試合程度には出場を続けていた。
ジンチェンコのプレイで一番に目を引くのはやはりそのパス能力だろう。グアルディオラのシティは開始フォーメーションは4-3-3だが、すぐに2-3-5へと変貌し、サイドバックはビルドアップに加わる。
これは、ジンチェンコのサイドでの守備の不安を軽減し、彼の強みを最大限生かせるという意味で、彼に非常に適したシステムだった。
ジンチェンコは、欧州中を見渡してもパス成功率、プログレッシブパス数、アシスト数はサイドバックとしては上位1%に入る水準だ。
やはりこれらはサイドバックというよりむしろ、MFの数字だと言っていいだろう。
どちらかというと、ジンチェンコはサイドバックの位置に配置され、世界最高のチームの一つでビルドアップの第一段階を任されたMFという印象だ。
加えて、相手陣深い位置でボールを受けた際にはファイナルボールの質は非常に高いし、シティでは何度もマフレズに通していたように、斜めのロングパスも得意なので、ブカヨ・サカにとってはこれはありがたいだろう。
ジンチェンコは足が速い訳ではないが、その技術の高さは怪我をする前のジャック・ウィルシャーを思い起こさせるものがある。短距離のバーストと体の使い方で相手のプレッシャーをかわし、サイドで相手ウイングに迫られても常に冷静で、ボールをキープする力は高い。
プレス下でのパス成功数は90分当たり8.66本と、これも欧州上位3%に入る数だ。
ただし、タヴァレスやティアニーと大きく異なるのは、彼がサイドの大外を駆け上がっていくようなプレイを見せることはあまりない、という点だ。中盤の選手が上がっていった際に、斜めに中に入ることはあるものの、ドリブル突破などは多くない。
中盤でもプレイできるタイプの左サイドバックとして、ジンチェンコは安定したプレイを見せているが、改善点もないわけではない。
グアルディオラのシティは前からアグレッシブにプレスをかけ、ボールロストを誘うハイリスクハイリターン型のアプローチをとることが多かったが、これが突破された際には後ろに控えるDFはかなりオープンになってしまう。
カイル・ウォーカーやルーベン・ディアスといった選手と比べると、走力面で劣るジンチェンコはこのような場面で相手のスピードのあるアタッカーとスペースがある状態で対峙すると分が悪いことが多かった。
ジンチェンコはユース時代はトップ下としてプレイしていた選手であり、守備面に不安があるのは理解できることではある。
ただし、興味深いのはEURO2020では、ロレンツォとヴェラッティに次ぐ、大会全選手中第3位のタックル数(16)を記録していたという点だ。
したがって、彼に守備をする気がないというわけではなく、むしろ守備の技術の問題だろう。
また、チームの戦術や指示の影響もあるだろうが、ジンチェンコはイチかバチかの様なプレスに行くことが多く、タイミングが少しでも遅れればかわされてしまっていた。また、彼の体のシェイプがデュエルではあまり良い形ではない、という点も指摘しておくべきだろう。
四月にグアルディオラはジンチェンコに関して聞かれ、『彼はクリエイティブなMFだったが、我々は彼を左サイドバックで必要としていた。彼の態度は素晴らしいし、チームに尽くす選手だ。そうでなければ私は彼をCL決勝で起用したりしないよ』とコメントしていた。
そういった面では、ガブリエル・ジェズス二も共通して言えるだろうが、このようなメンタル面と献身性はアルテタがよく知る彼の獲得に動くうえで大きな判断材料になったことだろう。
また、彼はマンチェスター・シティにおいても最も技術の高い選手の一人という評判で、彼のような存在はアーセナルがより試合をコントロールする上で役立ってくれるはずだ。
加えて、左サイドバックに起用すれば、ジンチェンコはより攻撃的なタイプなので、アーセナルは冨安健洋が中に入って3バックを形成するような形を採用するだろうが、一方で、彼を左の8番として起用すれば、ジャカよりも、タイトなスペースでの連携や守備陣を切り裂くパスで、より得点に絡むプレイが期待できるはずだ。
アーセナルはプアレミア・リーグでの実績があり、リーダーシップと高い技術を備え、明確にスカッドを強化してくれる選手の獲得に成功した。
守備面で少し改善の余地はあるものの、アーセナルのジンチェンコ獲得は非常に理にかなっているものだと言えるだろう。誰も知らないような選手を懸命にスカウティングせずとも、最良のオプションは、時として、目の前にあるものなのだ。
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コメント一覧
守備に課題があるが、(今年以降の)アーセナルで練習していれば、良くなると思う。
重要なのはタバレスで、おそらくDFとしての自覚が芽生えると思う。他者の価値観に振り回され、調子を崩したが、今季はサリバの影響もあり、毅然としている。
アーセナルは変わった。