アルテタのジレンマ
ミケル・アルテタが監督未経験の状態でアーセナルのトップチームの監督に就任してから、中断期間があったとはいえ、一年近く経ち、そろそろ彼がどのようなスタイルを志向する人物なのか、そして現状のチームの課題などが明らかになってきつつある。
最強の盾と最弱の矛
まず、アルテタが見事に改善に成功した点から整理しておくと
①選手/ファンからの信頼を取り戻す
②守備の改善
③ビッグゲームでの成績の改善
が挙げられる。
ベンゲル監督時代の最終盤から時折アーセナルには諦めのような雰囲気が漂うこともあったが、昨季それは最高潮に達し、明らかにエメリのもとプレイする気がないのではないか、のように感じられてしまう選手すらもいた。
一方で現在は守備的なスタイルには賛否両論あるとはいえ、ファンからも一定の信頼を得ているし、選手は皆アルテタのために100%を尽くしているように見える。
この二つは関連していると思うが、ベンゲルアーセナルのトレードマークとなってしまっていた強豪相手の大量失点などが減り、その結果ビッグゲームでもかなり競った勝負ができるようになった。最終的にFA杯優勝も果たした。これらの実績により、信頼関係を強固にすることにも成功している。
しかし、最近のアーセナルを観ている方ならわかる通り、現在のアーセナルは攻撃面で近年では最も迫力を感じないといって言いだろう。
アーセナルの一試合当たりの平均シュート数がなんと10を割り込んでおり、過去20年で最低で、有効な攻撃を構築できているとは言い難い。
確かにアルテタアーセナルの得意技ともいえるビルドアップからのオーバメヤンのゴールという形はあるにはあるが、これは非常に緻密なパスワークが要求され、すべてがかみ合わないと得点につながらないため、この形から得点が生まれることは非常にまれだ。
エメリのケース
現在アルテタが5バックのような形を採用していることからもわかる通り、このアーセナルの攻撃面の凋落は堅い守備を構築するのとトレードオフなのではないか、というのはよく言われていることだ。
単純にチャンスを創出できる選手を一枚削っているという影響もあるかもしれないし、ポジショニングで厳格に選手を縛りすぎていて、攻撃時に自由にプレイできない、というのもあるかもしれない。あるいは、前線のメンバーがプレスに奔走しすぎていて、攻撃時に必要な体力を残しておけない、という要因もあるだろう。
もしこれが事実だとすると、ではアルテタはどのタイミングでリスクを受け入れ"ハンドブレーキを解き放つ"べきなのだろうか、というのが問題となる。
少し前のarsebcastでAthleticのgunnerblog氏が指摘した通り、実は同じような事態はエメリ時代にも起こっていた。
エメリ時代の終盤にかけてが大変残念だったので忘れられがちだが、エメリ時代の前半はそれなりにうまくプレスも駆使し、かなりアーセナルの守備を立て直すことに成功していた。
だが、今と同じく得点力不足は否めず、エジルやラムジーといった選手を再びチームに戻し、攻撃力アップのためのテコ入れを図った結果、結局はうまくいっていた守備すらも崩壊してしまい、そして攻撃も改善は見られず、という最悪の結果に終わってしまった。
これをアルテタが観察していたとしたら、彼が慎重になるのも頷ける。
もしかすると、アルテタは攻撃の構築は時間がかかってもいいので最近うまくいっていた守備の組織を崩さないことこそが最優先だと考えているのかもしれない(もちろん、これに関してもヴィラ戦を見るに再考の余地はあるが)。
あるいは、夏にアルテタがアワール獲得を熱望していたことからもわかる通り、攻撃を構築するうえで必要なMFのピースの到着を待っている、という可能性もある。
今のシステムがアルテタの理想だとは限らない
しかし、今の調子でチャンス創出が全くできず、結果的に得点力不足で落とす試合が増えれば、プレミアリーグで上位進出を狙うのは難しい。
将来性のある若手監督の招へいということで即座に結果を残すことを要求するのは酷だが、それでも例えばこのままシーズンが進んでもアーセナルが10位以下にいるようなことになれば、いくらカリスマ性のあるアルテタといえど、選手からの信頼もいずれは揺らいでしまう時が来るだろう。
一度そうなってしまえば、いかに監督としての手腕が確かでも、チームを立て直すのは非常に困難になる。
したがって、アルテタは①現在の方針を根本的に見直す、あるいは②現在のバランスは維持しながらも、もう少し得点機会の演出力を上乗せし、よりタイトな展開での試合をものにできるよう修正する、のどちらかの必要があるだろう。
チームのスタイルを根本的に変えずとも、レスター戦やシティ戦のような試合の勝率を上げるような工夫を施せばチームの攻撃のテコ入れをゆっくりと進めながらも今の守備を維持できるかもしれない。
とはいえ実際のところ、アルテタが現在のフォーメーションやプレイスタイルを絶対的なものだととらえているという証拠があるわけでもない。コロナウイルスによる中断前にはエジルを起用した4バックを中心に用いていたし、やはり将来的には可変型ではなく恒久的な4バックが理想だと考えている可能性もある。
そういった意味ではそれなりに継続して用いてきたとはいえまだ現在のフォーメーションも半シーズン程度用いただけにすぎず、アルテタが抜本的な改革に打って出るという可能性も十分にあるだろう。
いずれにせよ、アルテタが何らかの手を打つ必要があるのは間違いなく、フォーメーションの変更か、オーバメヤンの配置換えか、あるいは若手の起用か、代表選ウィーク明けの彼の打つ手に注目したい。
ディスカッション
コメント一覧
超個人的な意見。強力な2FWプラスエジル(ウィリアン、ウィロック)を真ん中に固める。ウイングバックと呼ばれるポジションに誰を置くかは別に、3人寄ればなんとやらで強力な選手の負担は減る。システム的に同じでも違うサッカーになる。相手サイドバックを誰がマークするのか…当然ウイングバックで(でないと意味ない)、そうなるとMFの守備能力が重要になって来る。セバージョスを前に上げ取敢えずエジルのポジション。
相手や展開によってやり方変えるのは同じですが、試合を殺してコントロールするエメリと、プレーを創造してコントロールしようとするアルテタとは違います
全責任は自分が取る姿勢のアルテタと、常に予防線張ってたエメリとは比べれないです
当然勝つためには攻守のバランスです
数字だけみれば守備的ですが、基本姿勢は自ら試合を動かしていくので
一般的な5バックとは違うポジションが流動的で相手が捕まえられない
なおかつ、どこからでも良い球が出てくる陣容
ビルドアップや攻撃パターンに明確な手法を用いて、確実に進歩しているなか
攻守のバランスを保ちつついかに圧倒するか、おのずとゴールは生まれてくるはずです