【インタビュー】メルテザッカー:サッカーが人々に与える喜び

インタビュー

メルテザッカーは元々試合前には緊張してしまう性格だったが、今回もまた、ピッチに向かいながら不安を隠せずにいた。

ヨルダンの首都アンマンから目的地である世界でも最大の難民キャンプの一つがあるザータリまでの車の中で、どのような光景を想像すればいいのか、考えていたのだ。

メルテザッカーは深く考えることを好み、彼の思考はあちらこちらにさまよった。

『少し落ち込むような気もする。こういう時はじっくり考えることが大事だ。ついた時は、とても込み合っていて、暑く、乾燥していると感じた。

だけど、いざサッカーピッチに出てみると、そこには喜びがあった。それは鳥肌の立つような経験だったよ。この喜びとそこでの困難やトラウマとの衝突に打たれるような気持だった。』

新しい役職であるアーセナルのユースチームの長として、メルテザッカーは、プロサッカー選手にどうすればなれるのか、という問いで頭がいっぱいの少年たちと日々を過ごしている。そして、それ以外の場所でも、想像の中以外では達成できない夢を抱えた少年たちと何千人も出会ってきた。

メルテザッカーは少年たちやその家族と、プロサッカー選手の現実について話すことは恐れないが、シリア難民の少年モハメドが家族とお茶を飲みながらそのような話をするのを聞き、そのパラドックスに気づいてしまった。

モハメドのサッカーへの愛は誰にも劣らないが、単にこの地に生まれたというだけで、サッカー選手という道は断たれてしまうのだ。

イングランドでは、ユースチームの選手たちはエリートで、洗練された設備と金銭的報酬のおかげで、彼らへのサッカーの愛は純粋とは言えないこともある。

目に涙を浮かべながら、メルテザッカーは誠実に語った。

『モハメドが、『サッカーは僕の人生です』というんだ。彼と話すのはとても感情的な経験だった。彼が何が起こり、彼らの家族が難民キャンプに来ることについて話すのが簡単ではないとわかっていたから。

彼らは現在彼らが手にしているものについて話すことを好んだ。トタンの家と、小さな庭、教育を受けるチャンスとサッカーについてね。彼らは失ったものを数えるのではなく、手に入れたものを数えていたんだ。』

ザータリで時間を過ごすにつれて、メルテザッカーはこの場所で、アーセナルとセーブザチルドレンが共同で建てたサッカーピッチが、より深い意味を持っていることを理解した。偽善、あるいは矛盾して聞こえるかもしれないが、戦争から逃れてきた子供たちにボールを蹴って楽しむ場所を提供するのは、彼らの仕事の一部でしかないのだ。

ここでのミッションは、しなやかな心の強さをはぐくむこと、集団の一部であると感じてもらうことだ。同時にコーチの訓練も行われており、そこには若者が発するストレスや行動の変化を感じ取り、その症状に応じてサポートを受けられるよう手配する、というものも含まれている。

そして何よりも、人生の新たなステージを始めたメルテザッカーにとって、これは意味の大きい経験だった。

『子供たちと過ごす時間はいつも、自分に何かを与えてくれる。イングランドでは、すべてが満たされている環境にある若手たちを育成している。にもかかわらず、彼らの周りには多くの問題が渦巻いており、彼らにとって適切な方法を見つけなくてはならないんだ。

本当に大切なことは何なのだろうか。彼らが自信をつけるうえで、あるいは成長するうえで必要なものは何だろうか?

法則はシンプルだ。若者たちは自身への信頼が必要で、人生における、エネルギーを与えてくれるような単純な目標が必要だ。彼らはアカデミーでは数え切れないほど多くの物事に気をそらされてしまうんだ。

我々は若者が本来持っている素質を奪ってしまうことがあまりにも多い。彼らは多くの大人に囲まれ、難しい時を過ごすこともある。

子供たちのことを気にかけていると思っているが、実は真逆のことをしている大人たちだ。特にお金が選手と彼らの親に与える影響の問題が最も大きく、これはサッカー界の重要課題だね。

この戦いは現代ではもう負け戦と決まっているのかもしれないが、正直に全てを説明し、出来るだけ両親ともかかわってほしいと思っている。

時間を巻き戻すことは出来ない。20年前、僕は18歳になるまで給料なんてもらえなかった。そして、それは僕の人間としての成長にとってプラスだったと思っている。

それに対して親が怒るなんてこともなかったし、もちろん代理人も、スポンサーもいなかった。心の底ではこちらのやり方の方が絶対にいいと思う、でももう今となってはそれは不可能だ。もう少し現実的に考えなくてはならない。

もし常に物事が与えられ続ければ、もうそれに喜びを見出すことは出来なくなる。それは、自分の出来ることや与えられるものへの感謝の気持ちを忘れることにつながるね。僕は彼らに人間性を失ってほしくないんだ。

トレーニング場の若手たちは、フットボールピッチのことだけしか見えていない。もちろん、我々がサッカーの能力で彼らを判断しているのはわかっている。でも、そのために人間らしさを失ってしまえば、どのようなレベルでも、プレーを続けていくことは出来ない。』

メルテザッカーは、最先端のトレーニング施設でも、サッカー選手の裏側に居る一人の人間にとって、より大切なものが欠けていることがあると感じるそうだ。

『我々は何が彼らのためになるのかを計り間違えているのだろうか?これが僕にとっての鍵となる問いかけだ。

若手たちにお金を投げつけ、素晴らしい施設を始めとした必要なものを全て彼らに与えてしまう、これが本当に彼らの将来の成長を促すのだろうか?僕はアカデミーの仕事を始めてから常にこれについて考えている。

何故かというと、彼ら全員がプロサッカー選手になれるわけではないんだ。明らかなことさ。実際の割合というのはショッキングと言ってもいい。

時として、少年たちの夢の泡がはじけた時に、社会での生活の仕方がわからない子供たちがいる。だからこそ、ここで現実を教える人の数は多ければ多いほどいいと思う。だからこそ、僕はこのことについて常に正直に取り組んでいきたいと思っている。』

メルテザッカーはこのように新たなアイディアに溢れているが、これは彼にとっても変革の瞬間で、プロサッカー選手ではない存在として仕事をする非常に久しぶりの機会でもある。

『もうランニングをしなくていいんだ、と考えたら気分は最高だったよ。ほっとした。今となってはピッチに戻りたいとはあまり思わないな。素晴らしい経験だったと思うけれど、15年間は凄く強烈だった。この章はもう終わりだ。そして、新しい章も楽しそうさ。選手の時はトンネルの中を歩いているようなものだ。その後は、より視野を広く持たないといけない。

もっといろいろなことを知りたい。アーセナルで、人生の困難に適応できるような若手たちを育成できるように。才能だけでは十分ではない。強い意志も必要だ。彼らがストレスや、怪我、エミレーツでプレイすることにも耐えられるようにね。これが僕たちの責任だよ。』

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Posted by gern3137