ユース指導のスペシャリスト マルセル・ルカッセン インタビュー 後編

インタビュー

(この記事は前編の続きとなっています)

つまり、選手にもコーチにもクオリティが足りていなかったと。これをどうやって変え始めたのですか?

組織の構造を変えること、サッカー哲学を導入すること、そしてコーチングメソッドを開発する必要があった。これを同時に行うことができないがね。

まず私は定期的にテクニカルミーティングを開催することにした。スポーツ科学という学問にサッカークラブは影響を受け、サッカーが何故かフォーカスの中心から追いやられてしまう事例が増えている。まずこれをなんとかしなくてはならない。

テクニカルミーティングでは、まずスタッフと選手一人一人がサッカーとアーセナルについて詳しく考えさせるように仕向けた。

例えば、ユース年代のアーセナルはボール保持率は80%近くあるが守備には苦戦している。

そこで、私はミーティングでそもそもプレスとは何なのか、これに関する答えを次のミーティングでプレゼンするように、という課題を出した。

これが彼らにサッカーについて詳細に考えさせる良いやり方だ。さらに、共同でプレゼンテーションを行うことで、彼らは客観的な見方をし、お互いとコミュニケーションをとる必要が出てくる。また、このプロセスを通して私は選手それぞれの強みを知ることもできた。

数か月後には、ユースチームのマンチェスター・シティ戦で成果が表れ始めましたね。

20分時点で我々は3-0で負けていた。ハイプレスを仕掛けたが、シティに軽々かわされていたんだ。

私たちは子供たちに『ハイプレスが上手くいっていると思うかい?』と尋ねた。すると、『いや、相手はいつもフリーな味方を見つけて、がら空きのスペースに侵入してくるんです。』という答えが返ってきた。

そして、我々は、ではそれに対処するにはどうしたらいいかを尋ね、今季学んだことを思い出しながら、どうするべきか尋ねてみた。すると、選手の一人が『もう少し深く構えて、中盤からプレスを始めるのがいいかもしれません』と提案した。

それから、コーチがチームメイトにこれはいい考えだと思うか選手たちに尋ね、中盤からのプレスというのが具体的に何を意味しているのか、そして、その場合に空いてしまうスペースはどこかについて話し始めた。

これこそが我々がコーチに指導していることだ。『質問をせよ』とね。そして、選手たちは自ら答えにたどり着いたわけだ。この試合は結局は8-3でアーセナルが勝利したよ。

この逸話が意味しているところは何でしょうか?

彼らはまだU-11だが、すでにこのような理論が理解できるレベルに達し始めている。そうすれば、恐らくU-16世代になるころには、コーチが試合を止めて質問したりといった手助けがなくともピッチ上でこのような問題に答えを出すことができるようになるだろう。

これが我々の指導方針だ。我々は選手たちに"サッカーの理解者"になってほしいと考えている。これにはより高いクオリティの議論が選手やコーチ間で必要だ。

もう一つ例を上げよう。私が見ていたU-14の試合で、CBが少しだけプレイが遅れ、ミスにつながってしまったシーンがあった。

そこで私は何が間違っていたと思うかい?と尋ねたんだが、『ボールしか見えない体勢だったので、敵がボールを受けるのを視界に入れるのが遅れてしまい、結果として相手に寄せるのが遅れてしまいました。もしもう一歩引いた体勢でいれば、相手選手をもう少し早く発見できていて、もっと早くプレスに行けたと思います。』と彼は答えたんだ。

彼がこのような受け答えができるのは、日常的に彼のコーチたちがこのような言語で彼に話しかけているからだ。もしコーチが彼にいつも『もっと集中するんだ!』とだけ言っていたらと想像してみてくれたまえ。

これが我々が意識していることだ。具体的にサッカーについて話すことができる客観的な言葉を用いる、ということをね。

なるほど、このようにしてトレーニングを変えていったのですね。では、ユースチームに入団してくる選手のクオリティを高く保つにはどうすればよいのでしょうか?

それもまた、組織の構造を変えるところからだね。まず、軸となるサッカー哲学に基づいて、各ポジションごとに我々が理想とするプロフィールを設定した。そして、それを年代ごとにさらに分けるんだ。U-11の右サイドバックが必要とするクオリティ、U-16のウイングが必要とするクオリティ、という風にね。

これを基本にして、各年代のユースチームごとの選手選考のプロセスを設定し、これにより選手の将来性を計ることにした。

これにより、各年代のユースチームの抱えるアンバランスさが明らかになった。物凄く多くの技術の高いMFがいたが突出した選手が一人もいないチームがあったり、といったことだね。

また、我々は多くの選手に違うポジションを割り当てたりもした。上で設定したプロフィールに基づくと、彼らは最適ではないポジションでプレイしていたりしたからね。

このような構造があれば、スカウティングは明確になり、どのポジションに補強が必要で、かつどういった特徴を備える選手が必要なのかが明らかになる。

これは、あなたのドイツ時代での経験、2008年-20015年にドイツ代表が新たなフォーメーションとアイデンティティを見つけるにあたってそれに適応できる選手のプロフィールも変更されたという出来事に基づいているのですか?

代表のユース選手というのは大体地域リーグの試合でスカウトされるんだがね、 私は以前たった一人でチームのコーチングまで試合中に行っていた選手を見つけたことがある。彼は若いながらも、既にほかの選手の一歩先に行っていることは明らかだった。

だが、その試合後のスカウティングミーティングでドイツ代表スカウトたちの間で彼のことが話題になることはなかった。

私は彼らにそれが何故か尋ねたところ、スカウトは『うーん、でも彼は体格が小さすぎるし、パスの精度も低いからね』と答えたのだ。

仕方がないので、私は彼らに、『この選手は、中盤で早めにボールを要求するとDFに返し、そしてストライカーにボールを出すようコーチングし、その後自分はそのストライカーから、自分が相手ゴールを向いた状態でボールを受け取れるように走り出せる、そんな選手だぞ。』と説明した。彼が試合の何歩も先を読む才能を持っているのは明らかだった。

そして、彼にパスを教えるのは難しくなかったよ。単純に、彼はボールを持った際に少しだけ深い位置に立って、パスを出す前にボールが体の前にあるように気を付ければいいだけのことだったからね。

この話ののち、我々は彼を代表チームに召集することにした。

これがだれのことかわかるかい?これはヨシュア・キミッヒの話さ。

これが私の仕事だった。フィジカル面が足かせとなってアクションを遂行できていないとしても、こういったタイプの選手が特別な才能を持っているということを見逃さないことがね。

私は時間をかけてこのような選手を見る目を養っていたんだ。アーセナルでの課題も似ているね。ここでは、ベンゲル時代、そしてその後のユース選手獲得の方針は十分に発展させられていなかった。

そして、これはどのようなユース選手を獲得するかに大きな影響を与えていたんだ。だから、チームには技術の優れたMFが溢れ、その他の選手が不足したんだろう。これを変えるには時間がかかる。

一方で、エメリの辞任に伴って、ユングベリが暫定監督に就任しました。あなたはユングベリの教育も一部担当していたそうですが、トップチームの指揮を執るのはユングベリにとっては早すぎましたか?

実際のところ、これは残念な出来事だったよ。彼は私をアシスタントコーチにしたがっていたんだがね、当時私は体調を崩していた。

内部の人材では他に代わりが務まりそうなのがメルテザッカーしかいなかったんだ。選手からリスペクトされているというのも理由の一つで、彼がユングベリの隣に立つことになった。

最近ユングベリと長い時間にわたって話したんだがね、彼はいくつかの状況でわたしのアドバイスを聞き入れなかったことを後悔していると言っていたよ。

だが、私は仕方がなかったと思っている。より長い目線になってみれば、これも彼が監督として学ぶプロセスの一部だったんだ。

多くの試合が建てこみ、何のリーダーシップも明確なプレイスタイルもない状態で、アンバランスなチームを率いたわりには彼はよくやったと思う。若手を起用しようという勇敢な試みにも出たわけだしね。

今季台頭したユース選手のことをあなたはどう見ていますか?

ブカヨ・サカがアーセナルの理想の最も良い例だと思う。ユース時代からサカは良い選手だったが、彼はスペースが限られた状況ではリロイ・サネのようなプレイを見せることはできない。したがって、成長してもウイングとしては世界トップ30人のレベルに入れるかどうか、といったところだろう。

だが、ウイングバックとしてなら世界で3本の指に入れる可能性がある。スピードに乗った彼はだれも止められないし、コーチング次第で守備面が大いに改善する可能性を秘めているからね。

ミケル・アルテタの元彼の成長が加速ことを願っているよ。サカは我々がユース選手に求める理想の選手像に近いところにいるからね。

アルテタの就任により、サカやリース・ネルソン、エンケティアやスミス=ロウ、ジョー・ウィロックといった選手たちはより飛躍してくれるだろう。

(Source: https://www.vi.nl/pro/deze-nederlander-is-verantwoordelijk-voor-het-arsenal-van-de-toekomst/share/9d49b3b112 )

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Posted by gern3137