グッバイ、グラニト・ジャカ。
グラニト・ジャカがロンドンで過ごした時間を形容するのに波乱万丈、という言葉では足りないくらいだ。
2016年に高額の移籍金でアーセン・ベンゲルによって獲得されたジャカだが、当初は彼がどのようなタイプの選手なのかについて少々混乱があった。
最終的に彼は中盤の底でプレイすることとなったが、最近我々はここが彼のベストポジションではなかったのだとようやく知ることとなった。
ジャカは素晴らしいパサーではあるものの、俊敏さには欠けており、これは数えきれないほどのイエローカードと守備時のミスにつながることとなった。
何枚かのレッドカードもジャカは貰い、これは妥当なものもあったが、時々は何ともナンセンスで、ありえないと感じられるものもあった。一度彼は何でもない普通のファウルで退場となったこともあり、このようなことが他の選手に起こる所を私は見たことがない。
彼は他の選手よりも厳しく審判から罰せられていると感じさせられることがしばしばあった。部分的にはこれは彼の性格によるものでもあっただろうし、確かに彼の振舞は時々ファンを苛立たせることもあった。
だが、今となって考えると、ジャカのこの性格をファンはより理解することが出来たと思う。彼は非常に自身とチームメイトへのハードルを高く設定し、モチベーションの高いプロ選手だったのだ。
ジャカがアーセナルに在籍していたほとんどの期間において彼が所属するチームがジャカが設定した水準に達していなかった、といっても不当ではないだろう。
ベンゲルはフォーメーションをいじり何とかそれらの選手たちから実力以上のものを引き出そうとしたし、エメリ時代は混とん以外の何物でもなかった。
もちろん、だからといってクリスタル・パレス戦出起きたことに良い訳の余地はないが、これはこの出来事単独で見るよりも、ずっと沸騰しつつあったやかんのふたが吹き飛んでしまった、という性質のものだった。
エメリがキャプテン任命を特に理由もなく遅らせたのは良い策だったとは言えなかった。それに伴ってファンのフラストレーションは溜まり、そしてジャカはファンにとって簡単に攻撃しやすいターゲットとなってしまった。
もちろんあのような行為をジャカは行うべきではなかったが、あれは単にジャカが交代させられたから我を失った、というようなものではなかったのだ。
結果的にミケル・アルテタがチームを引き継いだ時点でジャカに関しては非常に難しい状況となっていたが、今にして思えば、すでに荷物もまとめ、退団が確定的となっていたジャカの説得に成功し、全てをひっくり返すことが出来たというのは、最近より頻繁に発揮されている、ミケル・アルテタの選手に対する影響力の大きさの片鱗はこの頃から見せていたということだろう。
そして、もちろんこれは同時にジャカの心の強さの証明でもある。我々は彼がそのような性格を備えていることはずっと知っていたわけだが、これまでピッチ上で正しい形で現れたことはなかった。
サッカー選手がファンからの信頼を失った時、これを取り戻すのは恐らくサッカーにおいて最も難しい事であるだろう。
だが、ジャカはこの挑戦に向かい合った。時折左サイドバックとしてのプレイもはさみながらではあったが、少しずつジャカはより高い位置で起用され始めた。
これにより、ジャカは自身の俊敏性のなさを相手に突かれやすいポジションから離れ、他の強みがより輝く場所でプレイすることが出来るようになった。
そしてアルテタは、ジャカに『もっと得点とアシストを、それが出来なければこのポジションではジャカ外の選手がプレイするだろう』という挑戦状を叩きつけた。
そして、ジャカはそれに応えて見せた。彼は昨季9ゴール7アシストを記録した。
ジャカの周りのチームのレベルが上がるのに伴って、ジャカもレベルを上げた。
恐らく、ジャカ自身もかつてのアーセナルのパフォーマンスにはフラストレーションを感じていたのではないだろうか。
全てのアーセナルファンがこの意見に賛成してくれるかはわからないが、ジャカは時折ミスはあったとはいえ、チームの足を引っ張る選手ではなかったのだ。逆に、ジャカを活かすためにはチームのその他の多くの部分を修正する必要があった。そして、昨季ついにそれが完了した。
私はもう何十年もアーセナルを観ているが、未だかつてジャカのようなストーリーに遭遇したことはない。
彼のようにファンの信頼をゼロから再び取り戻した選手は記憶にない。
そして、この夏クラブを去る、というタイミングも彼のストーリーにとっては完ぺきなタイミングだと言わざるを得ない。
彼は30歳だし、クラブは100m£を支払ってデクラン・ライスを獲得、中盤の刷新に乗り出している。違う方向にアーセナルは走りだそうとしているのだ。
ジャカはアーセナルがそのような高額補強を可能にする立場に辿り着く手助けをしてくれた。彼は長期契約を望んでおり、レバークーゼンでの5年契約を優先するという決断は理解できる。逆にアーセナル側がジャカに5年契約を提示することはないだろう。
アーセナルはそこそこの移籍金を手にし、かつ過去にはファンの意見を分断した選手が堂々とクラブを去っていくのを送り出すことが出来る。
過去のアーセナルの監督たちが全員常にジャカを毎週メンバーに選んだのには理由があるはずだ。
アーセナルの彼のチームメイト全員が声を揃えて彼を褒めたたえるのには理由があるはずだ。
彼の選手としての評価にはいろいろな声があるだろうが、彼は心の底からアーセナルのことを気にかけ、勝利を願っていた。
確かに時折その気持ちがマイナスに働いたこともあった。だが、そのような選手の方が、どれだけ才能があっても試合を単調にこなすことしか考えていないような選手よりも遥かに好ましいだろう。
ドイツでの幸運を祈る、グラニト。
source(当該サイトの許可を得て翻訳しています):
ディスカッション
コメント一覧
幸か不幸か私は、レバークーゼンを定期的にみている。バイエルンとの差別化を模索、クラブとしての方針に好感が持てた。最近監督が代わり、見る頻度は増した。
素晴らしいチームだが、ELで敗退したあたりから内部問題がピッチ上で露に。
ジャカの運命。そのミッションを私は見続けることになる。
アーセナルにおいて、ジャカを取り巻く状況は緩やかではあるが、
毎年異なりチーム状況や成績も浮き沈みが大きかった。
移籍してきた当時から完成された選手であったわけでもないだろうし、
大器晩成的に少しずつ成長して昨季大きく花開いたことも我々は目撃した。
一言では語りきれないジャカのストーリーは複雑で、
グーナーからすればかなり感傷的にならざるを得ず、
また予想外のハッピーエンドは非常に喜ばしい形となった。
気がつけばジャカは全方位から愛される存在になっていた。
近年稀に見る素晴らしい主力の放出だと思う。
なんでこんな翻訳した文章みたいなコメント欄なんw
スイスもサッカーを見れば人種のるつぼ的イメージが強い。生粋のスイス人というのが見えてこないほどに。その中で彼はバルカン半島の匂いがした。人種的ルーツの話ではない。と同時に、ジャカはスイス代表そのものであり、得点も失点も少ない、無失点で大会から敗退していくような、そのスイス代表でもある。
ジュルーやセンデロスがアーセナルで主力となりきれない時代から、このスイス代表がチームに苛立つ時代を迎えたほどに、ヴェンゲル晩期からのこのチームを象徴する選手である。
そして、万雷の拍手をもって彼は送り出される。なんだかんだそのほとんどを主力で過ごしたにも関わらず。そういうチームになろうとしている事に我々は気づき始めている。声は出さないけれど。ヴェンゲルが除幕式には来るだろうが、彼が安心して訪れるクラブに本当になるのかもしれない。カソルラが先かもしれないが。
グッドバイ。