アーセナルの移籍市場でのここまでの動きと今後の課題

分析

補強方針の転換

この夏のアーセナルが獲得した選手はヌーノ・タヴァレス、サンビ・ロコンガ、そしてベン・ホワイトの3人となっているが、ここにマディソンやネヴェス、ロカテッリ、ブエンディアにウーデゴール、ラムズデールといった獲得の噂が出た選手たちを加えると、明らかに過去のアーセナルとは異なる補強方針が見えてくる。

ホワイトは23歳、タヴァレスとロコンガは21歳だし、その他獲得の噂が出た選手のほぼ全員が20代前半だ。アーセン・ベンゲル監督時代の終盤からずっと最近のアーセナルは今までと比べて即戦力と見込める年齢の選手・あるいは経験豊富なベテランの獲得の割合が高めだったので、これは大きな方針転換といっていいだろう。

最近のアーセナルはウィリアン、セドリック、ルイス、マリ、パーティをチームに加えているが、今年のアーセナルは20代後半~30代の選手を獲得するつもりは全くないようだ。

この方針転換は現在のアーセナルの金銭状況と成績を考えれば、より長期的な将来を見据えているという意味で歓迎できるものだし、まったくもって未知数の選手ばかりを狙っているというわけでもない。

既に獲得が決まったベン・ホワイトを筆頭に、アーセナルは年齢こそ若いものの既にプレミアリーグでの経験が豊富な選手たちをターゲットにしており、こういった獲得は、今年の夏の時点では若干他の獲得と比べて割高な移籍金を支払わなくてはいけないかもしれないが、適応に不安がないという点、そして、もし思うような結果が残せなかったとしても数年後にも同じように高値での売却が期待できるという点を考慮すれば、その価値はあるように思われる。

プレミア外からの獲得ターゲットを比較的知名度の低い若手に絞って移籍金を押さえつつ、その分を国内の若手に投資するという戦略は賢いものだといえるのではないだろうか。

進まない放出

ただし、もう今週にプレミアリーグ開幕を控えているにもかかわらず、アーセナルの陣容はまだまだ完璧からは程遠い。

アーセナルがスカッドに必要な人材を揃えるにあたって足かせとなっているのが放出の遅れだ。これは特にアーセナルに限った話ではなく、ヨーロッパ全体でみられているので、アーセナルフロントが責められるべきだとは思わないが、プレミアリーグ開幕の時点でゲンドゥージの放出しか決められていないというのは外部から見ても、そしてアーセナルフロントにとっても、想定外だったに違いない。

現状今週中に移籍が決まりそうなのはジョー・ウィロックくらいで、本来であれば彼より先にクラブが放出に向けて動いていた選手は多くいるはずだ。

コラシナツ、トレイラは明らかにオファーさえあればクラブが放出を考慮する選手だと思うが特に話が進んでいる兆しはなく、ジャカもローマとの交渉は破談、アーセナルはジャカを売却してその資金を代役獲得に充てる、というプランを変更し、ジャカをチームに残す方向に舵を切ったようだ。

現スカッドはベジェリン、セドリック、チェンバースと右サイドバックを3人抱えているし、チームでの居場所を見つけるのが難しそうながらもホームグロウンの若手ということで比較的売却が容易と見られていたエンケティア、ナイルズ、ネルソンの売却も進んでいる様子はない。

それでも恐らくこの中から最終的には売却となる選手は何人かは現れるだろうし、一方で、当初はアルテタのプランに入っていずとも残留となり、何らかの形でチャンスを得る選手も現れることだろう。

ヨーロッパ中のクラブがこの夏の移籍市場の資金の流動性を過大評価していた節があるが、現状ごく一握りのクラブを除いては、買い手側が納得いくような額で選手獲得に動けるようなクラブがほとんどいないようだ。

買い手が切羽詰まり、売り手も妥協を強いられる移籍市場終盤には何らかの動きもあるだろうが、既に名前を挙げた選手たちに加えてウィリアンやラカゼット、ルナルソンといった状況次第で売却も、といった選手がアーセナルを去っていく可能性はあまり高くなさそうに思える。

恐らく昨冬のような形で移籍金ゼロ、契約解除による移籍、が発生するというトレンド(これはアーセナルに限った話ではないだろうが)は今後もしばらく続くのではないだろうか。

移籍市場終幕までに補強が必要なポジション

GK

とはいえ、放出による資金ねん出がかなわなくとも、アーセナルには明らかに補強なポジションがいくつかある。その筆頭がGKだろう。

現状シニアレベルでアルテタが信頼を置いているGKがレノ一人しかおらず、報道を見ても第二GKをルナルソンに任せるつもりはなさそうなので、控えGKの獲得が急務だ。

どうやらクラブはダビド・ラーヤやラムズデールといったホームグロウンで、かつ将来的に正GKを争えるような選手獲得を望んでいるようだ。

仮にレノにけがなどがなかったとしても、絶対的なスタメンの座は保証されているという状態がモチベーションにとってプラスに働くとは思えないし、もしクラブが来夏のレノの移籍もありうると考えているとしたらなおさらだ。

ただし、既に開幕は迫っているし、トップターゲットとされるラムズデールは非常に高くつきそうなので、背に腹は代えられぬ、とりあえずいったんは昨季のライアンのように、ローンである程度経験のあるGKを今季に関しては第二GKに据え、来夏レノの去就とも合わせて正GKの座を将来誰に任せるか考える、というのが現実的な着地点だろうか。

攻撃的MF

純粋に人数という観点で見ると、控えのいないGK、そして左サイドバック(こちらは既にタヴァレスを獲得したが)と並んでアーセナルにとって最も補強のある必要があるポジションが攻撃的MFだろう。

夏の移籍市場開幕時点で、CBよりも優先度が高いとすら考えたファンも多かったはずだ。昨季のアーセナルの攻撃・チャンス創出が素晴らしかったとは言えないが、うまく言った部分はスミスロウとウーデゴールの二人によるところが大きく、そこからローンのウーデゴールがいったんレアルマドリードに帰ってしまったので実質マイナスからのスタートとなっている。

仮にウーデゴールを再び獲得できたとしても、このポジションに関しては昨季と同じ水準なのだ。

スミスロウとは契約延長に成功し、彼に10番を与えたことからもクラブの大きな期待がうかがえるが、スミスロウは過去にけがで苦しんだこともあるし、そもそも仮に怪我がなかったとしてもまだ21歳の選手に攻撃の中心として38試合チームを引っ張り続けることを期待するのは流石にやりすぎだろう。

そういった意味でも、何らかの攻撃的なタレントの補強が必要なはずだ。また、プレシーズンを見る限り、アーセナルは左サイドを任せるのに誰が最適なのかの答えがまだ出ておらず、マルティネッリはいるものの、彼には将来的にはストライカーとして中央でのプレイを期待したいし、サカとペペどちらとも、同じく左利きのティアニーとの相性という点で見ると、どちらかというと右サイドで最も輝ける選手に感じられる。

そういった意味では、もう一人トップ下がいればスミスロウの左サイド起用もオプションになるというのも大きい。

今のところはウーデゴールあるいはマディソンくらいしか噂は出ていないが、こちらは移籍市場最終盤までもつれそうだ。

ストライカー?右サイドバック?CMF?

継続して噂が出ているのはエイブラハムやラウタロ・マルティネスといったストライカー獲得の噂だが、現状チームにはオーバメヤンに加えて、ラカゼット、マルティネッリ、エンケティア、バログンと中央でプレイできる選手が多く揃っているので、放出が進まない限りはこの夏のFWの補強は現実的ではないかもしれない。

とはいえ、オーバメヤンはもう32歳だし、ラカゼットも30歳でしかも残り契約一年となっており、どちらにせよ今季だけではなく来季も見据えると補強が必要なのは間違いなし、という状況なのがアーセナルにとっては頭が痛いところだろう。

ただ、逆に言えば、ラカゼットが契約切れとなる今季末までが最後の猶予期間ととらえることも出来る。今季の間に若手ストライカー3人のうちの誰かが台頭し、十分にアーセナルのファーストチョイスのストライカーが務まることを示してくれる、という展開を期待するのは流石に夢を見すぎだろうか。

なんにせよ、オーバメヤンに移籍はなさそうだし、エンケティアの移籍、あるいはバログンのローン移籍はありうるが、それによって大きく状況が変わるとも考えづらいので、ラカゼットの去就次第ということになるだろう。そして、現状を見る限りラカゼットが移籍に近づいている様子は全くないので、基本的には現状のオーバメヤンプラスラカゼット+1 というメンバーで望むことになりそうだ。

こちらもGKと同じく、予想外の破格のオファーがラカゼットに舞い込む、のような展開がない限り、いったん来季以降のことはまた来夏考えます!という方針が現実的だろうか。

アーセナルが補強を計画していた節のある右サイドバックに関しても現状3人いて、なんならナイルズもいる、という状況で補強に動く可能性は低そうだが、CMFに関しては、トレイラは移籍するという前提で話をすると、ジャカが残留するとしてもジャカ、パーティ、ロコンガ、エルネニーの4人だけでは若干層が薄い気がするが、それこそナイルズを残すなどして対応するのだろうか。

なんにせよ、まだまだアーセナルの夏休みの宿題はかなり残っていて、移籍市場から目を離せない、という状況は最後の最後まで続きそうだ。

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Posted by gern3137